うらしまクラウド
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 
 

『はいッ! カダ……じゃなくて、ストライフデリバリーサービスでっす! はい、はいッ! はい、わかりますッ! 三丁目の角……えっとヒマワリの咲いてるトコですよね?はい!はいッ! そんじゃあ、午前中にお伺いいたしますッ! 毎度、ありあとやんしたッ!』

 

『は、はは、はいっ! まっ、ま、毎度ありがとうございますッ! ストライフデリバリーサービスです! あ、はい、二丁目のケーキ屋さん! 承っております! え、ええと、(カ、カダージュ!二丁目まわんの何時だっけ?)』

 

(バカロッズ! 10時から12時の間だろ!バーカバーカ! 覚えとけよッ!)

(なんだよ、その言い方!ちょっと忘れちゃっただけだろッ! カダだって、さっきの電話で……)

(……今からじゃ、10時っていうのは、無理だろうね。俺が出るよ、貸して)

(えー、僕ッ! 僕出る!)

(待ってよ、俺が最初に取ったのに!)

(いいから貸しなさい、ほら!)

 

『はい、お電話代わりました。二丁目のメアリーポピンズ様ですね。いつもありがとうございます。……え?ああ、うん……俺。声だけでわかっちゃうんだ……嬉しいなァ。うふふ、ごめんなさい、お仕事のお話だよね。はい、お昼までにはお伺いしますから。あ、今日はね、俺の弟たちが行くからよろしくね。 え?そうだね、今度また、ね? 楽しみは後にとっておくことにするよ。では、ね』

 

「……やれやれ、ダメダメだな、貴様ら」

 オレは居間のソファに寝転がりながら、ガキどもの仕事ぶりを批評した。

「ガキふたりは話にならん。子どもの使いじゃないんだぞ、ボケが。イロケムシ……貴様はナンパなのか、仕事なのかわからんな。フェロモン垂れ流しもいいかげんにしとけ」

 

『……ストライフデリバリーサービスでございます……あ、は、はい……い、いつもありがとうございます……? あの……え……? いえ、わ、私は、ひとりではなくて……あの一緒に……住んでいる人が……え? あ……そ、それは……あの……困りま……え、で、でも……』

 

「……イタ電に泣きそうなヤツも話にならんがな」

「ちょっと、セフィロス! 手伝ってくれないならエラソーに言わないでよ! ヴィンセント、貸してッ!」

「あ、ヤ、ヤズー……」

 ヴィンセントの手から電話を引ったくり、イタズラ野郎を適当にあしらうイロケムシ。 そんなことをしている間に、ガキふたりは荷物を運び出してバイクに積み込む。

 

「それでは、長官! 出陣いたしますッ!敬礼ッ!」

「敬礼ッ!」

 カダージュとロッズが、ビシリと頭の横でポーズを取る。

「あ、ああ、ふたりとも気を付けて……スピードを出しすぎてはダメだぞ……あ、慌てる必要はないから、きちんと伝票を見て……」

「ラジャー!」

「ラジャーッ!」

 おろおろと不安げなヴィンセント長官に再度敬礼し、ふたりは競うように走り去った。

 

「ヤ、ヤズー……あ、あの子たちは大丈夫だろうか……や、やはり私も一緒について行った方が……」

「ヴィンセント、バイク乗れないじゃない。大丈夫だってば、子どもじゃあるまいし」

 やれやれというような身振りを加えつつ、イロケムシが言った。

 相変わらずヴィンセントは心配性だ。

 

「……だが……」

「ほら、俺たちはさっさと朝ゴハン食べちゃお」

 手早くテーブルの上を片づけると、食器の用意をし始めるヤズー。荷物運びのガキふたり分だけ、先に食わせて大人組は後回しになってしまったのだ。

 いつもならば、文句のひとつでも言ってやるところだが、昨夜の酒と起きた時間が遅かったせいか、この時間になってようやく腹が減ってきたところだった。

「ほら、ヴィンセント」

「……あ、ああ」

「セフィロスもそろそろ何か食べられる?」

「ああ、喰う」

 新聞を眺めつつ、そう答える。

  

「……ごめん……オレ、なんか役立たずだ……あの……なにかできること、ない?」

 絨毯の上に、ヴィン猫と一緒に座っていた『クラウド』がつぶやいた。ぎゅっと小さく身を丸めているのはクセなのだろうか。

「気にするな。もとのクラウドなど、役に立たないどころか、クソうるさいメーワク野郎だった」

「セ、セフィロス……」 

 またもやヴィンセントが、困惑した様子でオロオロととりなしにかかる。

「ホント、セフィロスは口が悪いんだから。……でも、ま、『兄さん』は何も心配する必要ないんだよ。昨日の今日、だからね」

「……う、うん」

「だが、ずいぶんと落ち着いてくれたようだ……よかった」

 まるで母親のような優しげな微笑を浮かべると、ヴィンセントは『クラウド』のところに歩いて行き、腰をかがめると、そっと髪を撫でた。

 

 やさしく、やさしくヴィンセントがささやく。 

「さ、『クラウド』、食事の仕度ができたぞ……ゆっくりでいいから、今日はちゃんと食べよう?」

「うん」

 彼はすぐに頷くと、素直に立ち上がって、テーブルについた。

 

「……よかった。少しは元気が出たようだ。君のおかげだろうか」

 寝転がった俺に、そんなことを言うヴィンセント。

「……さぁな。ガキは単純だからな」

「君も朝食を取ってくれ……帰宅が遅かったのは知っているが、食事を抜くのは身体によくない……」

 やや言いにくそうに、ヴィンセントはそうつぶやいた。

「ほぅ、俺の帰りを知っていたのか?」

「……夜中の二時頃だっただろうか……」

「その通りだ」

 寝室の時計が2:16であったことを思い出す。

 

 一呼吸置くと、多少ためらいがちにヴィンセントは口を開いた。

「……あの……ずっと気になっていたのだが……」

「なんだ?」

「……あの……一ケ月前あたりから……その……君に……誰か……」

 口ごもるヴィンセント。

「……『誰か』?」

「あ、いや……その……」

「なんだ、ハッキリ言え」

 そう促すと、ヤツは小さく吐息し、

「……すまない。なんでもない」

 とつぶやいた。

 ……度重なる深夜の外出が気になっているのだろう。だが、イロケムシとは異なり、恋愛関係にはニブニブの男だ。オレの相手など想像もつくまい。

 そんな些細なやり取りとはいえ、コイツがオレのことを気に掛けるのは、妙に心地よく感じるのだった。