うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

「わー、ラグナさん、その携帯、かっこいい!」

 ラグナを囲むように両側に座っていたカダージュが声を上げた。そいつをロッズが覗き込む。

「へへ〜、でしょ。防水加工されてるけど、びしょ濡れで帰ってきたから、ちょっと気になっちゃって」

 40ジジイはのんきにそう言った。

 ヤツの言葉が本当なら、プレジデントであるこいつには、重要な電話がたくさんかかってくるはずだろう。もちろん携帯電話だから、プライベートとして使い分けてはいるのだろうから、それならなおのこと、親しい者からの連絡はその小さな機械に入ってくるはずだ。

「へェ、そっちの世界にも携帯電話なんてあるんだねェ」

 ものめずらしそうなイロケムシの物言いに、わざと作った声で心外とばかりにラグナが答えた。

「もっちろん、あるよー!それにエスタは機械工業やコンピューターの発達した国なんだ。性能はバツグンだよ」

「へぇ、そうなんだァ。なんかラグナさんが大統領っていうから、もうちょっと自然の多そうなのんびりした土地柄だと思ったよ」

「レオンが住んでるっていうホロウバスティオンっていうのは、わりとそういう環境も多いって言ってたじゃん。俺が歩き回ったのは市街地ばっかだったけど、それでもホラ……お城の辺とか、ちょっと不思議な雰囲気だよね」

 ようやく上手く取れた貝殻にかぶりつきながら、言葉を添えるクラウド。そうだ、こいつはレオンやあっちの世界のクラウドと入れ替えで、ホロウバスティオンとやらに行った経験があるのだ。それも二回も!

「あー、ホロウバスティオンはね〜……最近いろいろあった国だから。いや、国が悪いっていうんじゃなくて、その……色々とね」

 曖昧な受け答えをしてラグナが薄く微笑んだ。……おそらく口にしてもオレたちには理解しにくい政治がらみのことなどもあるのだろう。それに、もうひとりの『クラウド』やレオンの話……ハートレスだのノーバディだの……正直この目で見たわけではないから、なかなか理解しがたかったが、さまざまな難題を包括しているのは間違いないらしかった。

「ねぇねぇ、見せて見せて」

「いいよ〜」

 末のガキは目新しいものに何でも惹きつけられる。携帯なんざ、今どき誰でも持っているだろうに。

「ほらほら、ヤズー。これ、ラグナさんの名前彫ってあるの!軽くて持ちやすい〜! 僕も新しいモデル欲しい!」

「カダージュはこの前、機種変更したばかりだろ。……へぇ、ブラックでいいんじゃない?シックな雰囲気で。俺的にはいったい誰の番号が登録してあるのかのほうが気になるけど?」

 悪魔的な微笑を浮かべつつ、イロケムシが語尾を上げてそう言った。

「へへへ、仕事よりもやっぱ仲のいい人たちのほうが多いね、携帯は。あ、ヤズーの番号も教えてよ〜」

「もちろん、かまわないよ。ちゃんと登録してね」

「もちろん!……それから、ヴィンセントのも知りたいけど……クラウドくんが許してくれない?」

 上目遣いでそんな風に言葉を続けるラグナに、ヴィンセントはあたふたと困惑した。昨日の今日であっという間にふたりの関係がバレているのだ。

 まぁ、そりゃそうだろう。

 あきれたクソガキのクラウドは、家の人間以外が居ても平気でヴィンセントにベタつくし、見るからに「俺のだから!」と言わんばかりの態度をとるのだ。

「えー、べっつに〜。俺、束縛する男とかじゃないし〜。ヴィンセントのこと信用してるし〜。そんな度量の狭いヤツだと思われることの方がイヤだね」

 よくも言う。殊、対ヴィンセントについては、猫の額ほどの度量すらも持ち合わせがないくせに。

 きっとイロケムシらもそう感じたのだろう。口をつぐんだままだが、オレたちはなんとなくアイコンタクトをしていた。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……ラ、ラグナさん」

 意を決したようなヴィンセントの声。なんとなく皆そちらを見る。

 肌の薄いヴィンセントは、すでに耳元まで真っ赤になっていて痛々しい有様だったが、必死に言葉を続けた。

「あ、あの……こ、こんなことを訊ねるのは……その……プライベートなのに恐縮だが……伺ってもよいだろうか?」

「なぁにぃ? そんな堅苦しくしなくていいってば、ヴィンセント。わかることなら何でも答えるよ!」

 慎重なヴィンセントとは対照的に口も態度も軽い大統領である。

「そ、その……貴方はあちらの世界の『セフィロス』と懇意にしていたと言っておられたが……あ、あの……まさか、彼の番号などは……さすがに……? あ、ああ、もちろん、あの人が携帯電話を持っているかなども知らないのだが……」

 誰も何も突っ込んでいないのに、ヴィンセントはひどく慌てた様子であたふたと訊ねた。わざわざ、「彼の体調がまだ心配で」などと言葉を付け足す。

「うん、知ってるよ?だって、俺がセフィに携帯プレゼントしたんだもん」

 至極あっさりとラグナは応えた。

「彼にプレゼントしたヤツはちょっと特別製でさ。髪の色に合わせたメタリックにしたんだよね。そんでボディに名前彫り込んでやってさ。わりとうれしそうに受け取ってくれたよ」

「ラグナさん、やる〜!」

 などとちゃかすクラウド。

「あーあ、あっちのセフィロス相手じゃ分が悪いよねェ」

 とわけのわからないため息を吐くのはイロケムシだ。

「そ、それで……あ、あの……お、教えてもらうわけには……いかないだろうか? プライベートだとは重々理解しているつもりだが……どんな形でもいいから……彼とのつながりがほしいんだ……」

 必死の形相のヴィンセントを、ラグナは少しばかり興味深げに眺めていたが、すぐにうなずき返した。

「うん、ヴィンセントたちにならかまわないでしょ。君たちと一緒にいたときに持っていたなら、きっと番号の交換くらいはしていたんだろうしね」

「あ、ありがとう! すまない、ラグナさん。わがままを言ってしまって」

「おいおい、いくら携帯の番号を聞いたからって繋がるってワケじゃないだろ。だいたい携帯電話そのものだって、別世界の仕様なんだしな」

 オレは溜め息混じりに忠告した。ヴィンセントの眉が曇るが、多大な期待を掛れば、がっかりさせられるのはヤツ自身だ。

「そ、そうだな……それは……わかっているけど……でも……」

「まぁ、いいじゃない。減るもんじゃないんだし。彼の番号を知ってるってだけでも心持ち気分は違うと思うし」

「そうだね。教える分には全然かまわないよ。そのかわり、ヴィンセントとセフィロスの番号も教えてよね」

「ハァ? なんでこのオレが……」

「セ、セフィロス!いいではないか!ラグナさんは信頼できる方だし、なにより彼の連絡先がわかるのだぞ!」

 チッ、あんな優男相手に必死になるな、不愉快な!

 拾ってきた犬猫でも二、三日で情が移るというが、ヴィンセントのそれは並大抵のレベルではない。自らの命を助けられたという思いこみも手伝ってか、ヤツがこの家に滞在していた時期は、毎日『セフィロス』『セフィロス』で、ヴィンセントの生活の中心があの男の存在になってしまっていた。

 その彼が傷を治し、ある朝唐突に姿を消したのは、未だヴィンセントにとってずっと心配の対象となっているのだろう。

 必死のヴィンセントに促されるまま、オレはポケットの携帯をラグナに放り投げたのであった。