うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラウドがいつもと変わらぬ様子で、この家を経ったのが5日前……

 いや、『いつもと変わらぬ様子』ではなかった。泊まりがけで配達に出ることなど、ほとんどないせいか、出発ギリギリまで出渋っていたのだった。

 彼に言わせると、配達に出るのが嫌なのではなく、むしろ見知らぬ土地に行く楽しみさえ感じるのだが、私を残していくのが不安なのだと言う。

 ……まったく、一体何を言っているのだろうか、彼は。

 セフィロス始め、ヤズーに子どもたち……強くて賢い人たちばかりに囲まれているというのに。

 むしろ、心配すべきはおのれの身の方だ。

 事故など起こさぬよう、充分に注意してくれと言っておいたのに……

 こんな形で彼が姿を消すのは、二度目のことであった。

 前にも一度……配達の途中で行方しれずになったことがある。その時は別世界の『クラウド』がこちらにやってきたのだが、今度は……

 

 

「ただいま、ヴィンセントさん。遅くなってすまない!」

 玄関で声が聞こえた。

 力強い足音が、私の居るキッチンに向かって歩み寄ってくる。それもふたり分……

 私は手早くグラスに氷を入れ、飲み物の用意を整えた。

 レオンとセフィロスが室内に入ってくると、閑散としていた広い居間が、ほどよく満たされた雰囲気になる。

 

「……お帰りなさい、暑かっただろう?」

「ああ、本当に。だが、海も空も真っ青でとても綺麗だ。歩いているだけで楽しい気分になってくる」

 レオンはそう応えた。

「あっち〜……ったく、歩きすぎた。ヴィンセント、水」

「あ……はい、これを……」

「ああ」

 作っておいたアイスティーを、差し出すと、セフィロスが遠慮なく持って行く。いつでも彼は一気に飲み干してしまうのだ。

「レオンも」

「あ、ありがとう。わざわざ用意してくれていたのか?」

「さっき……表で君の声が聞こえたから」

 いかにもレオンらしい、力強い声音を思い出し、つい笑みが口を付く。だが、レオンは至極真面目な表情で突っ立っているのだ。

「レオン?……疲れたのだろう。座って飲んだら……」

「いや、すまない。感動していた」

「……え?」

 人が物事に感動する場面は、幾度と無く見てきたが、目の前ではっきりと「感動した」と言われたのは初めてであった。

 

「気遣いをありがたく思う。いただきます」

「……はァ……なんというか、君は本当に……」

 全く……何と言えばよいのだろうか。しかし、これしきのことで、いちいち堅苦しくも感謝の念を口にするレオン。

 ……普段はいったいどんな生活をしているというのだろうか。『クラウド』と一緒に居るということは知っているが……ふたりで暮らしているのなら、互いに気配りをするだろうから、ひとりきりの生活とは異なるはずなのに。

 単身生活であれば、飲みたいときにお茶が出てくるのを有り難いと思いこそすれ……だが、家事の担当はレオンだと言っていたし、『クラウド』はあまり気の付く子ではないのかもしれない。

「ヴィンセントさん、どうかしたか?」

「あ、ああ、いや……」

 と、曖昧な物言いでごまかす。いくらなんでも不躾に聞くべき事柄ではないだろう。

「昼食のしたく……ああ、もう終わってしまうのか?」

「え……あ、ああ、もうできているから。そろそろ食べるなら……」

 私がそう言い掛けると、ソファにごろ寝したセフィロスが、

「腹が減った。食う」

 と端的に発言した。

 

「……今作っていたのは、君たちのお弁当だ。彼らを連れて海に行くのだろう? すまないな、気持ちが急いているのに……」

「そんなこと……あなたが気にする必要は……」

「君の焦燥はよくわかる。……私も同じ立場だから」

 私は穏やかにそう告げた。今朝の言葉に鑑みても、私が自己の気持ちを口にしないと、かえって彼が恐縮してしまう様子だからだ。

 もちろん、クラウドのことはとても心配しているし、気にもなっている。側に居る者としては当然のことだ。だが、それをあからさまに表さないのは、周囲への気遣いというよりも、私自身の性格的なものだと思う。

 これだけ長く同じ姿のままで生きているのだが、中身はやはり昔の人間なのだろう。恋人……のことを他人の前で口に出し、会話にするのが妙に気恥ずかしい。

 だが、レオンのような純粋な若者は、愛する者の身を案じ、焦燥に苦しむ様子を隠す必要などないのだ。むしろ、その誠実さ真面目さを、私などは心地よいと感じている。

「……子どもたちは君のことがとても気に入ってしまったようだ。面倒をかけるが、よろしく頼む」 

「ヴィンセントさん……」

「あ、その……弁当とは言っても、簡単なものだ。昼食は済ませていくのだろうし、夕食までの繋ぎになるような軽いものを……」

「ありがとう。……いずれ、俺はあちらの世界へ戻ることになろうが、あなたのことは、ずっと……」

「メシ!」

 という、ソファからの怒鳴り声が、どうやらレオンの感動的なセリフを掻き消してくれたようだ。

 

「セフィロス! アンタな……」

 気色ばむ青年を宥め、私は彼らを促した。

「……さ、レオン、座ってくれ。セフィロスも……もう出来ているから……」

 ズカズカとダイニングにやってくるセフィロス。

 その彼の態度に、小声で叱責するレオン。セフィロスの方は、ニヤニヤと笑って適当にいなしているだけだ。