うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

  

 

「それで? 君たちは『セフィロス』がいなくなるのを、そのまま眺めていたのか? クラウド? おまえは彼に連れられてここに戻って来たのだろう……? どうして……それなのに…… 彼を放ったまま……」

「ち、違うよ、ヴィンセント。そんなつもりは全然なかったけど……」

「ああ……今頃、彼はどうしているのだろうか? ひとりきりで……一体どんな思いを……」

 苦しげに胸に手を当てると、ヴィンセントはがっくりと項垂れた。まるで彼自身が見知らぬ土地で異邦人になってしまったかのように。

「だから…… だって、うちに来いって何度も言ったんだよ? でも、『セフィロス』のほうが……」

「だからといって、放っておいていいと言うことにはならないだろうッ!?」

「そ、そりゃ……そうだけど……でも……」

 俺はモゴモゴと口答えしようとした。

 ヴィンセントにこんなふうに怒られるのは初めてだったし、確かにすべての元凶は俺にあるとわかっているからこそ、あらためてそう告げられるとうんざりしてしまうのだった。

 

「……でも、ちょっと様子が変だったよね、彼…… 最初は、『ああ、ウチのセフィロスの上品版?』くらいにしか思わなかったのに、最後、兄さんの手を振り払ったときは、ほとんど怯えているようなカンジで……」

「このクソ・イロケムシ! 無礼者がッ! フン、あんな野郎のことは放っておけ、ヴィンセント。ガキじゃあるまいし、頼ってきたら手ェ貸してやりゃいいだろ」

 どうでもよさそうに、軽くあしらうセフィロス。もうひとりの『セフィロス』だというのに、こちらはまたひどく素っ気ない。

「待ってよ、セフィ…… さすがにそう簡単には割り切れないよ…… だって、あの人がこっちに取り残されたの、俺のせいだもん……それに、ここに帰ってこれたのだって、あの人のおかげだし……」

 一応、そう告げて、俺は彼を庇った。いや、庇ったというより、今口にしたことはすべて真実なのだ。あの人がいなかったら、俺はまだホロウバスティオンでまごまごしていただろうし、『クラウド』のもとに、レオンを返してやることもできなかったろう。

 そういえば、レオンはまっすぐ、『クラウド』のところへ駆けつけてくれただろうか。きっと今頃、涙のご対面をしていることだろう。

 

 ……ああ、うらやましい。

 こっちも涙のご対面ではあるが、ヴィンセントの涙は、あっちの『セフィロス』に向けられたものであった。ようやく帰り着いた俺に、キスひとつくれないのだ。

「……ああ、どうすればよいのだろうか…… そんな品のいい……見目形の良い人が、一人きりで、どうやって雨露を凌いでいるのだろうか? ならず者に声をかけられたりなど……していないだろうか?」

「ちょっ……ヴィンセント〜。さすがに一応、『セフィロス』なんだからさ。強さで言えば、並の人間なんて敵じゃないでしょ。そういう心配はいらないと思うよ」

「まぁ……確かに……『セフィロス』だから……とても強い人なのだろうが……」

「ね、そうでしょ?」

「だ、だが、ヤズー! ……お腹を空かせて、つらい思いをしていたら……」

「ちょっ……まぁ、それは…… うーん、それも何とかなるんじゃないの? 一応、成人男子なんだからさァ」

 今にも泣き出しそうな様子で、細い顎に手を当て、不安げにつぶやくヴィンセント。

「ま、もっとも、初めての世界だから、戸惑うこともあるだろうけどね」

「ヤズーもそう思うだろう? もう、じっとしていられないんだ……捜しに行ってはいけないだろうか?」

 お財布片手に、今にも飛び出しそうなヴィンセント。

 俺には口を挟む資格はないかも知れないが、なにも赤の他人のために、『俺のヴィンセント』がここまで必死になる必要はないと思うのだが。

「こうしていて、もし事故にでも遭ったら……」

「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ、ヴィンセント」

 やさしく抱きしめるようにして、取りなすヤズー。

「バーカ。向こうはおまえのツラも知らないんだぞ? おまえは『オレ』を捜せばいいだろうけど、無事に逢えたとしても、どうやって説明するつもりだ? 『ヴィンセントです』なんつっても、通じるわきゃねーだろ」

 乱暴にセフィロスが宣った。

「でも、誠意をもって話をすれば……」

「その脳天気っぷりは一生治りそうもないな、ヴィンセント」

 けんもほろろな言いぐさに、涙腺の弱いヴィンセントは、うっとばかりに涙ぐんだ。俺が何か言う前に、要領のいいヤズーが上手くフォローに入る。

「ちょーっと、そのやさしいところが、ヴィンセントのいいところじゃない。意地悪セフィロスと一緒にするんじゃないよ」

「ケッ、よけいなお世話だ、イロケムシ!」

「まぁ、でもさ。今日はもう遅いし……明日、また、みんなで考えてみよう、ヴィンセント?」

「……ヤズー」

「セフィロスの言葉じゃないけど、相手はくさっても『セフィロス』だからねェ。めったなことはないと思うんだよ。それに子どもじゃないんだしさ」

「それは……そうだが……」

 不承不承頷くヴィンセント。ヤズーの言っていることは、押しつけがましくなく、かつ筋が通っているのだ。

「だから、俺たちも、いつ彼が困惑して、頼ってきても力になる心づもりはしておこうよ。場合によっては多少危険なことがあるかもしれないけど、できるだけのことはしよう」

「もちろん。当然のことだ」

 至極あっさりとヴィンセントが言った。

 ここでヤキモチを妬いてしまう俺は、末期症状なのだろうか。

「彼が姿を消したのも、何となく不自然に見えたし…… これから、外に出るときは、『セフィロス』の姿を意識的に捜すようにするよ」

「私もだ。さっそく明日から、そうしようと思う」

「やれやれ、ヴィンセントはやさしくて真面目だねぇ。あの人も、あなたに逢っておけば、あんなふうに警戒することもなかったかもしれないのにねェ」

 ヴィンセントの黒髪を撫で、少しだけからかうようにヤズーが言った。普段なら噛みついてやるところだが、今日はあまりに分が悪い。

 

 時計を見れば、もはや夜半過ぎ。

 カダージュたちはとっくに寝入ったし、宵っ張りのセフィロスたちもそろそろ休む時間になっていた。

 そう、こんな時刻まで、俺は針のむしろに座らされていたのだった。

「にゅん……にゅ?」

 小さなヴィンが、あくび混じりに小声で鳴いた。

「ああ、ほら、ヴィンも眠いってさ。今日はもうお休み、ヴィンセント」

「ヤズー……」

「ね? 大丈夫だから。なんてったって、『セフィロス』なんだからさ?」

 消沈した気を引き立てるように、ヤズーはヴィンセントに語りかけた。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「ん……そう……だな」

「そうそう。あなたが体調を崩してしまったら、元も子もないでしょう? 捜しに行くことなんてできなくなってしまうよ?」

「……わかった、ありがとう……ヤズー」

 ようやく、ヴィンセントは頷いてくれた。

 ……ああ、本当なら今夜は、一緒に眠れたはずだったのに……有無を言わさず、ベッドに直行という力業をこなすことができたはずなのに……俺のバカァァァァァ!!

 

 

「おやすみなさい……みんな……」

「みゅん、みゅ……」

 ヴィンセントとヴィンが、部屋に引き取ると、さすがのヤズーもハァァと大きな溜め息を吐いた。

「やれやれ、とんだことになっちゃったねェ。まるく収まってくれるといいんだけど」

 と弱音を吐く。

「ケッ、てめーは、ヴィンセントがいなくなるとあからさまに、気ィ抜きやがるな、イロケムシ」

 セフィロスが悪態を吐く。

「そりゃあねェ。ヴィンセント、不安にしちゃ可哀想でしょ。ただでさえ、神経細い人なんだからさァ」

「やれやれ……次から次へと面倒起こしてくれるな、チョコボ小僧」

 そう言ってセフィロスは、俺の頭を小突いてくれた。

 だが、それは嫌みというよりも、さんざん責められる形になった、俺を慰めてくれるような仕草であった。

「セフィ……」

「情けないツラすんな。今さら落ち込んでもしかたないだろ」

「……うん……」

「まぁ、後はアレだ。手ェ貸してやれそうなことがあれば、そうしてやるしかないだろうよ。アイツの方からコンタクトを取ってくればそれでよし。そうでなけりゃ、それまでだろ」

「それまでって……そんな……」

「それくらい、気楽に構えとけと言っているだけだ。ただでさえ悪い頭で考え込んで、くよくよ悩むな」

「ちぇっ……ひでーの」

「フン。もう寝ろ、クソガキ。おまえも疲れてるだろ」

 最後の一言が、なんだかひどくやさしく聞こえて、思わず涙が出そうになった。

 それに気付かれたくなくて、俺は急ぎ足で久々の自室に戻ったのだった。その後、セフィロスとヤズーで何か話していたのかもしれないが、それは知らない。

 

 ベッドに横になると、引き込まれるように眠りに着いた。

 そして、こんな形で、二度目の大冒険が終わってしまったのを、納得のいかない気持ちで誰ともなく恨みつつ、その日は夢も見ずに、ぐっすり眠ったのであった……

 これが俺の、二度目の大冒険の幕引きであり、今考えると、新しいハプニングの予兆になっていたのかもしれない。
 
 ……それはまた、次の機会に語ろうと思う……

  
 
 
 
 
 
 
 

                                                                   終わり