〜 MEMORY'S 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<5>
 
 ザックス・フェア
 

 

 



 

 

20:30

 

「ほらよ、クラウド。連れてきたぜ」

 俺はこっそりと客人を連れて自室に戻った。

 いや、別に部屋に人を呼んではいけないという決まり事はない。実際、俺たちだって、しょっちゅう別の部屋に飲みに行ったりするし、そのまま眠りこんでしまうこともある。

 修習生については、ある程度キビシイ決まりがあって、平日の外泊や外出などは上官の許可が必要ということになっている。

 こっそり部屋に戻ったのは、それなりに理由があるのだ。

 

「クラウド……!」

 クソ図々しい客は、ドアを開けた俺を押しのけるようにして、室内に入ってきた。そう、客人とはセフィロスなのであった。

「あ、セフィ! ありがとう、来てくれて! ……ごめんなさい、本当なら俺がセフィの部屋、訪ねたかったんだけど、ソルジャーの人たちと会いそうだったから……」

「何をつまらんことを。そんなこと気にする必要はないといつも言ってるだろう?」

「まぁ、アンタは気にせんわな」

 横合いから茶々を入れた俺の後頭部を、ゴッと殴ってくれた。

 ……むかつく野郎だぜ。

 

「セフィ、座って。あのね、今日、調理実習で習ったヤツ、作ったの。あ、おいなりさんは昼のヤツなんだけど……」

「……私のために?」

「う、うん。もちろん。……セフィ、俺のせいで、ソルジャーの管理の人に叱られちゃったんでしょ?」

「……おまえはいい子だな、クラウド……」

 とろけるような声音でささやくと、ちゃぶ台ではなく、キッチンのクラウドのところへ、ズカズカと歩いてゆき、なんの躊躇もなく抱きしめてしまう。

 セフィロスがクラウドを呼ばう声というのは……そう、なんというか、猫好きが子猫をあやすような、まさしく甘ったる〜い『猫なで声』なのだ。

「あ、もう、セフィってば、お鍋持ってるんだから、危ないよ!」

「おら、セフィロス、座れよ。俺もまだ飯食ってないんだからな!」

「……貴様は食堂にでも行ったらどうだ?」

 うって代わって冷ややかな口調で宣うセフィロス。

 なんつー、図々しさ。

「言って置くがな! クラウドと俺が飯を食うのに、アンタを相伴させてやるんだからな!」

「ったく気の利かない野郎だ。だいたい貴様とクラウドが同室というのが間違っているんだ!」

「ハァ? なんだよ、それ!? 俺とクラウドはな、もはや親友っつーか、兄弟?くらいの……」

「もう、やめてよ、ザックスもセフィロスも!」

 風呂上がりの、Tシャツとショートパンツのクラウドが、「メッ」というように、腰に手を当て、俺たちをにらんだ。

 

 そんな姿は年齢よりもずっと幼く見えて、俺みたいに別に男に興味がない人間から見ても、可愛いと思えてしまう。

「セフィロスも、ザックスも、俺の大事な人なんだからね。仲良くしてよ!」

 ぷくっと頬を膨らませて言い募るクラウド。

 一見、紳士を装っているセフィロスなど、本当はヨダレを垂らしそうな気分だろう。

 ……おいおい、股間は大丈夫か?

「ほら、セフィもザックスも座って。いっぱいあるから、おかわりしてね!」 

 狭い部屋の真ん中のちゃぶ台。その上の大皿に山と積まれたいなり寿司、そして給食バケツに並々と入った肉じゃが……

 だが、驚くべき事に、俺たち三人は、そのすべてを食らい付くしたのであった。

 

 

 

21:50

 

「あ、セフィ。そろそろ消灯時間だよ!」

 カラになったティーカップを片づけていたクラウドが、時計を覗き込んで慌てた。

 一応、一般寮は22:00が消灯で、たまにだが抜き打ち点呼がある。

 

「……おい、セフィロス。アンタんトコのルームキー貸せよ」

 俺はやや疲れた口調でそう言ってやった。

「ザ、ザックス、でも……」

 俺に気遣いを見せるのはクラウドだ。

「ほれ、持っていけ。いつまででも居てかまわんぞ」

「……バカ言ってんな。今夜だけだぞ、特別だからな、セフィロス」

 つくづく俺もクラウドに甘い。

 

 いくら恋人同士とはいえ、社内恋愛のコイツらはなかなか一緒に居られる時間が少ない。

 セフィロスは『英雄』と呼ばれ、VIPルームに部屋をもらうような人物だ。当然、難しい任務が入ることが多い。

 クラウドはまだ修習生だし、セフィロスの任務に同行できるのは、まだ先の話になるだろう。

 また人目を気にするクラウドが、存分にセフィロスに甘えられるのは、ふたりきりの時間だけだろうから。

 

「いっそ、部屋を交換して欲しいものだがな」

「この狭い部屋のほうがいいってのか?」

 俺は鼻で笑ってやった。

「クラウドと一緒なら、食堂の台所でもかまわん」

「……セフィは『英雄』なんだから。そんなの似合わないよ」

 少し寂しそうにクラウドがつぶやいた。

「……俺みたいなのと、ずっと一緒に居たら、みんなに変に思われちゃうよ……」

 おずおずと言葉を加えたクラウドに、何か言ってやろうと口を開いたが、セフィロスの方が早かった。

「言いたいヤツには言わせておけばいい。オレ……私はおまえを愛している。他の何者にも代え難いほどにな」

「セ、セフィ……」

「あー、ハイハイ。まぁ、クラウドはみんなに好かれているし、そう妬まれるってこともないだろ。とにかくアンタは面倒事を起こしてくれるなよ、セフィロス。……アンジールが気の毒だ」

「ふん、わかっている」

 不満げに鼻を鳴らせたヤツに、

「どうだか……」

 とつぶやいた。

 

 セフィロスとアンジールもけっこう仲がいい……というか、アンジールが、わがままなセフィロスの面倒をよく見ているという形ではあったが、互いに信頼しあっているのは知っている。

 

「セフィロス、明日の朝、騒ぎを起こすなよ!? クラウドが授業に遅れることにならないように……」

「チッ…… ぐだぐだぐだぐだ、小姑か、おまえは」

「う、うん、大丈夫だよ、ザックス!」

 セフィロスの文句を遮って、クラウドがそう言った。

『じゃあな』というつもりで、軽く手をあげ、扉を閉めようとする。

 そのとき、セフィロスに抱きしめられたまま、膝立ちのクラウドが俺を見た。

 声を出さずに、そっと口を動かす。

 

(ありがとう、ザックス。……おやすみ)

 

 はいはい、おやすみ。

 ちゃんと寝かせてもらえよな。

 

 がんばって、早くソルジャーになれよ、クラウド。

 セフィロスだけじゃなく、俺だって応援しているんだから。

 お前と一緒に任務に出られる日を、楽しみにしているんだ。

 

 ため息混じりに苦笑しつつ、俺はこっそりとVIPルームに足を忍ばせ、セフィロスの私室に身を隠した。

 またもや廊下ですれ違ったジェネシスが、意味不明の微笑を浮かべていたが……多分大丈夫だと……信じたい。

 預かってきたキーカードでセフィロスの部屋に滑り込む。

 やれやれ、明日はまた朝から任務があるのに。

 

 騒ぎを起こしてくれるなよ、頼むぜ、セフィロス。

 それから、クラウドを泣かせるような真似をしたら、例え英雄と呼ばれるアンタでも、絶対に許さねーからな!

 クラウドは俺の大事な……弟分だ。

 

 翌朝、本社のパトロール任務に就こうとしたとき、風の便りに耳に入った話は……

  

『ソルジャー1st・英雄セフィロスの今日の任務は、修習生寮の見回り』

 という、とんでもないうわさ話であった……