〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<3>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「結局のところはそこなんだよ。どんな事情があれ、神羅カンパニーの修習生研修で、警察沙汰になった…… だが、事件としては死者がでたわけでもなく、わずか数時間で解決を見たわけだ。大げさに考えることもできるし、ありがちなトラブルとして終えることもできる。要は上層部の胸先三寸でどうにでも転ぶのさ」

 ジェネシスはひどく穏やかな口調で、俺を諭すように語り続けた。

「…………」

「だからな…… よけいに厄介なんだよ。チョコボっ子はセフィロスの件で、ルーファウス神羅に睨まれているからなぁ」

「そ、そんなの……そんなの副社長の私情じゃんか……! それにセフィロスの件だって、今のところ一方的にヤツが想いを寄せているってだけで、クラウド本人は何も知らないんだぞ!」

「表向きはそうだよな。だが、セフィロスの態度を見れば、一目瞭然だろう? 実際にそう言った関係にあるのか否かはともかくとして、セフィロスがあの子を気に入っているのは、ただ見ているだけでもわかるのだから」

 そう……そのとおりだ。

 たぶんまだセフィロスはクラウドに決定的な告白はしていない。

 もし、していたとしたら、同じ部屋で起居しているルームメイトに俺が気づかぬはずはない。

 クラウドは間違いなく俺にそれを告げると思うのだ。悩みの相談という形かも知れないし、恋の成就という喜ばしい報告かもしれないが……いや、それはないと思いたい。

 

 ……だが、今、ジェネシスの言ったことはすべて当たっている。

 実際に付き合っているだのというレベルの話ではない。

 ただ単にソルジャークラス1st、副社長ご執心のセフィロスが、ひとりの修習生を気に入っているという……ただそれだけの事実が、クラウドを絶望的な不利に追い込んでいるのだ。

「クソッ……やっぱり、俺が最初からセフィロスを止めてたら……! クラウドの自主性に任せるとか……そんなこと抜かしてないで、さっさとセフィロスにあきらめさせれば良かったんだ!」

「……それ、本気で言っているのか?」

「たりめーだろ!今更の話になっちまうが」

「気の毒だけどね。恋愛感情なんて、第三者に止められて、あっさりと無くせるもんじゃない。もしそうだと考えているなら、それは他者に対する冒涜だよ、ザックス」

 妙にキツイ口調で言い返されて、俺は少し慌てた。

「な、なんだよ……」

「おまえはまだ年若くて、本気の相手に巡り会っていないのかもしれないがね。……例えば俺に、地下室の女神を忘れるよう、全知全能の神が命じたとしても、できることではない。あの人の記憶を無くすくらいなら、俺は死んだ方がマシだ」

「ジェ、ジェネシス……」

「……もっとも、俺もある程度の年齢に至れば、見守るだけの恋なども経験できるかもしれないけど。だが、今は到底無理だね、俺もセフィロスも。俺は女神が手に入るのなら、なんでもする。彼が俺を見つめてくれるのなら、神羅カンパニーのソルジャーだのなんだのという、俗世のつまらない地位はあっさり捨てるよ。何の迷いもなくね」

「……こ、ここには、アンジールとかセフィロスとか……ダチも居んだろーが……」

「それが『恋』だよ、ザックス」

 そう言うと、ジェネシスは花が開くように微笑んだ。

 

「やれやれ……だから怖いんだよ」

 だが、次に続けた言葉は、ひどく暗澹とした物言いでこぼれ落ちた。

「え……?」

「副社長のセフィロスへの感情さ。ただの憧れとか、その程度の話ならいいんだけどね」

「オイオイ、他になにがあるってんだよ。憧れプラス……あとは自己顕示欲だろ。ソルジャークラス1stで名前の売れたセフィロスが、側に侍っているのが気持ちいいんだ」

「……単純だなァ、ザックスは。まぁ、もちろんその辺もあるだろうけどね」

「……オイ、話を戻すぜ」

 別方向に行きそうな流れを何とか引き戻す。

 

 

 

 

 

 

 上層部の結論が出てからでは遅いんだ。

 また、一端告知された処分を覆すのは容易ではない。

 クラウド本人が負傷したこともあるし、ミッドガルに戻ってからもそれほど時間は経っていない。まだ猶予はあるだろうが…… だが、いずれはどんな形にせよ処分が下されるはずなのだ。

「…………」

 クソ……言葉が出てこない。

 いくら『話を戻す』と言ったって、そうそう妙案が浮かぶわけではないのだ。比較的上層部と近い位置にいるジェネシスから、現在の動静を聞き出すのが精一杯で、なんら決定権を持たない俺などが、あれこれ考えてもどうしようもないのかもしれない。

「……ジェネシス、俺……副社長に直訴してみようかな」

 ぼそりと俺はつぶやいた。

「……なんて?」

「さっき言ったことを、そのままにだよ。確かにジェネシスがいうように、ルーファウスが、クラウドに対してシビアな態度を取るのは嫉妬心半分だろうよ。そして、本人にも、その自覚はあると思うんだ。あいつ、そのあたりは割と冷静にわかっているような気がする」

「……それで?」

「だからさ……! 副社長としての立場ではなく、私情を交えて判断するのは間違っているって……きちんと話せばわかってくれるんじゃないかな。ほら、あいつがおたふくになったとき、俺たち見舞いに行ったじゃん? そのときに感じたんだよ。この人、こうしているときは別に普通の人じゃんって」

 身振り手振りを交えて、俺は話し続けた。

「…………」

「それでさ、俺が降格を申し出れば、きちんと処分を下したってことで、ルーファウスの面子だって傷つかないだろう?」

 今度は、隣にいるのが副社長本人であるかのような勢いで、必死にジェネシスを掻き口説いた。この提案に効力があると認めてもらいたくて。

 だが、ソルジャークラス1stの大先輩は、ハ……と力ないため息を漏らすと、

「却下。」

 とだけつぶやいた。

「お、おい……! なんだよ、そのツラは! アンタ、ちゃんと俺の話聞いてたのかよ!」

「……聞いていたよ。だから言っただろう? 『却下』って」

「なんだよ、何が問題なんだよ!」

「ルーファウス副社長に、そんな忠告をしたからといって、素直に聞くとは思えないね。それに『素直に聞かなくても』、何の痛痒もないんだよ、彼の立場では」

「だ、だが……アンタさっき言ったじゃないか!ルーファウスには自覚があるって! 自覚があるなら、そこを促してやればきっと……」

「ザックス」

 と、ジェネシスは俺の名を呼んだ。先ほどとは、少し異なる声音で。俺は思わず言葉を切った。

「……人が一番怒りを感じる時って、どんな場合だと思う?」

「え……?」

「わからないかい?」

「怒りを感じるって……そりゃ……」

「『図星を指されたとき』だよ、ザックス」

 それまで、カップをいじりながら目線を泳がしていたジェネシスが、ひたりと俺を見た。いや、やや哀れむように上からの目線で、だ。

「おまえが、それを言ったら、ますます副社長は意固地になるだろうね」

「…………」

「図星を指され、意地になったルーファウスは、何が何でもあの子を追放しようとするだろう。目障りな相手をはばかりなく追い出したいなら、大義名分の揃ったこんないい機会はまたと無いのだから」

「…………」

「上層部は基本的に副社長の味方だ。彼が除籍と言い出したら、それに賛同する輩のほうが多いだろうしね」

 あくまでも否定的なジェネシスの物言いに、俺は椅子を蹴って立ち上がった。

「じゃあ……じゃあ、どうしろっていうんだよ! クラウドが免職になるのを黙って見てろってのか!」

 俺は立ち上がったまま、ジェネシスを怒鳴りつけた。

 

 昼下がりの午後…… この時間、エグゼグティブルームでお茶をしている人間は少ない。

 広々とした作りだし、少なくも俺とジェネシスは、側に誰も人がいない状況で話をしていたのだ。

 だが……

 だが……やはり油断していたのだろう。話に夢中になりすぎた。

 ドアの向こうの人影まで、気にとめてはいなかったのだ。