〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<最終回>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 それから何かと落ち着かない気分のまま、三日が過ぎた。

 その通達が告知されたのは、月曜日の午後だった。

 前日の日曜を、強引に部屋にやってきたセフィロスと食事などを楽しみ、クラウドが多少なりとも元気を取り戻していたのは幸いだった。

 

「あ〜あ……『反省室』送りかァ〜……」

 彼はぴょこんと立ち上がったチョコボヘアを、塩垂れて深いため息を吐き出した。

 俺は彼に気付かれぬよう、ホッと胸を撫で下ろした。お子ちゃまクラウドは、まさか自分が除籍処分の危機に陥っていたとは知るまい。昨日やってきたセフィロスも、いっさいその件には触れなかった。

「ザックス〜、『反省室』送りだよ〜……夜、寂しいよぅ……」

「あのな、クラウド。おまえ、この程度の処分で済んでラッキーだったんだぞ。営倉にはちゃんと専任の教官も着くから、勉強の心配はないし。ほんの一週間ばかりの辛抱じゃないか」

 うつむいてしまうクラウドの頭を、ガシガシと撫でくり回して、俺は元気づけた。

 クラウドは今夜中にでも荷物をまとめ、明日早々指示された場所にいかなければならない。

「うん……そうだよね、自室謹慎だけってはずはないもんね……」

 アホか、おまえは!この世間知らずが!解雇の危機を切り抜けたんだぞ!?

 やれやれ……なんだか少しばかりセフィロスに同情してしまう。あいつはクラウドのために、身売りまでする覚悟だったのに。

「くすん……ザックス、面会に来てくれる?」

「ああ、もちろん」

 俺は即座に頷いた。

 だが、面会時間は一日、わずか30分程度である。専任教官になれれば、授業時間として認められた時間内は一緒に居られるが、同室の俺にその役目が回ってくるとは考えがたい。

 

 

 

 

 

 

「クラウド!」

「クラウド、いたよ!」

「おい、ちょっと待てよ、クラウド!」

 すごすごと自室に引き取ろうとした俺たちの背後から、にぎやかな足音が近づいてきた。

「みんな……」

「クラウド、俺、面会に行くぜ!」

 威勢のいいバッツ少年が走り込んできた呼吸も整う前に、そう申し出た。

「ああ、もちろん、俺も行く。授業は営倉内でも受けられるだろうが、補習用のノートを届けるからな。なに、個室だと思って過ごせばある意味勉強に力が入るというものだ」

 堅苦しい物言いで、班長のイングスが慰める。

「生活用品は揃っているのか? お菓子の差し入れとかもダメなのかな?」

 少女のように容姿の整ったルーネスが、小首をかしげてクラウドを気遣う。

「あ、僕、よかったら小説差し入れるよ? ほら、この前、クラウドに貸した冒険小説、新刊がこの前出たんだ! 必ず持って行くから」

 メガネのアルクゥも言葉を重ねる。

「うっ……みんなぁ〜……」

 涙もろいクラウドは、大きな蒼い瞳からボロボロと大粒の涙をこぼした。

「みんな……ありがと……」

「何言ってんだよ! 一週間なんてすぐさ!」

「そうそう、えーと、6回寝ればもう終わりだ」

「思いの外勉学に集中できて、帰りたくないと言い出すかもしれんな」

 それぞれの個性溢れる励ましに、クラウドはその都度、コクンコクンと頷いて、ぎこちないながらも微笑みを返した。

 

 クラウドの言っていた『反省室』というのは、正しい名称ではない。

 正式には『営倉』と呼ばれる場所だ。

 寮の最下層に位置しており、いわゆる地下室といったほうがわかりやすいだろう。

 四畳半程度の狭い部屋は板張りで、吊しの簡易ベッドと箱のような机が置かれている。最高は部屋の上部に明かり採りの小窓があるだけで、当然他に窓はない。

 入浴や食事の内容、時間も決められており、手洗いに行くときには看守が着く。

 起床就寝もすべて指示通り、自由な時間はほとんどなく、すべて規則に則って生活しなければいけない。幸いにもクラウドは修習生ということで、授業時間内は担当教官が教えに来てくれると言うことだ。

 

 そうはいっても、寂しがり屋で甘ったれのクラウドにとっては、つらい日々になるだろうが。

 まぁ、コイツも試練だ、クラウド。

 だいたい除籍処分の可能性すらあったのだから、この程度で済んで不幸中の幸いともいうべきなのである。セフィロスに口止めされているから、上層部でどんな議論が闘わされたか告げることはできないのだが。

 

 ……クラウドの営倉入りは、必然的にセフィロスの耳にも入るだろう。

 一番心配なのは、あの男が、おとなしく見守っていられるかだ……

 まぁ、さすがに今回の一件では、セフィロス本人にも思うところがあったろうしな……

 

「ザックス、お部屋行こう。今夜はいっぱいお話、して」

 クラウドに促されて、ハッと正気づく。

 いやいやいや、大丈夫、大丈夫……!なんたって、クラウドの送り先は営倉なんだから。いくらセフィロスが頑張っても、面会を認めてもらう程度の努力しかできまい。

 

 クラウドが営倉入りした翌日。

 

 俺は執務室に行く途中、鼻歌交じりに階段を降ってゆくセフィロスとすれ違った。

「……アンタ、そんなに本抱えてどこ行くんだよ?」

 といぶかしんだ俺に、野郎はとびきり綺麗なツラで宛然と微笑み返したのだ。

「ああ、クラウドの担当教官が急遽入院したということでな。オレは代打だ」

「なっ……」  

 カマキリのようなか細いの、じじい教官を思い起こす。

「入院って……アンタ、まさか……」

「何どん引きしてやがる。どけ、オレ様は職務を果たしに行かねばな!」

 乱暴に俺を押しのけると、セフィロスはスキップしそうな様子で、歩み去っていったのだった……

 

 

 

 

終わり