〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス・フェア
 

 

「遅くなってゴメンね、ザックス。……どうかしたの?」

 唐突に声を掛けられて、ふたたびすっ飛び上がりそうになった。別にごく普通に話しかけられただけだったのに。

「あ、ああ、クラウド。……いや、なんでもない。時間、かかったな」

「うん。お手洗い、混んでたの。ザックスも行っておく?」

「いや、俺はいいわ。……えーと、この後な……やっぱ帰……」

「さっそく、海辺に行こうよ! 水着持ってきたんだから!」

 ……ああ、やっぱ、そうなるのか。

 そりゃ、そうだよなぁ。ついさっき、臨海公園に来たばっかだもんなぁ。

「あ、いや……でもよ……」

「いいから、早く早く!」

 クラウドは、細そっこい腕で、俺の二の腕を絡み取り、ぐいぐいと引っ張り出した。

「ああ、わかった。わかったから。ちょっと落ち着け」

 後頭部に、灼熱の串が突き刺さるようなこの感覚……

 物陰から、こちらをにらみつける英雄二匹……

 いや、鬼のようにガンつけてきてるのは、ひとりだ。もうひとりは、ヘラヘラ笑いながら手を振っている。

 そういや、セフィロスが、俺たちの会話はすべて筒抜けだって言ってたよな。

 まさか、どっかに盗聴器でもついてんじゃなかろうか。

 洋服……ってことはないよな?

 だって、今日は私服だし、朝、部屋から出てここに到着するまで、一度も連中とは相見えていない…… いやいや、あの変態共を常識で図っちゃダメだ。

 どれほど歩く公害であろうとも、ソルジャークラス1stという肩書きは伊達じゃねーんだ。到底俺などには想像も付かない方法で……

「ザックス、どうしたの? 急に黙っちゃって?」

 何も知らないクラウドは、不思議そうに小首をかしげて微笑んでくる。

 ……ああ、この子の場合は、まだ本当に『小首』なのだ。

「ザックス?」

「え、あ、いや、なんでもない」

「そんなら早く歩いてよ! 早く早く!」

「お、おう、腕、引っ張るな…… アデッ!」

 ビシッと後頭部に、衝撃を感じて、思わず悲鳴を上げる。

 背後を振り返ると、岩の影に英雄ありだ。足下に石つぶてが転がっている。

 ……フツー、石なんて投げるか!? ガキかよ、この人は!!

 

 結局、ズルズルとひっぱり出されて、海辺へ降りた。

 そりゃまぁ、海風は気持ちいいし、こうして突っ立っているだけでも、目の前に広がった景色は十分気分を引き立たせてくれる。

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ、ほらザックス!! えいっ!えいっ!」

 クラウドはポイポイと服を脱ぎ、あっという間に海パン一枚になってしまった。

 ちなみに、服の下に着てきたので、海岸ですっ裸になったわけではない。

 しかし、まるきりガキだ、こいつは。

 よく、服をポイポイと脱ぐという描写が使われるが、クラウドの行動はまさしく漫画のその場面まんまだ。

「おいおい、クラウド。はしゃぎすぎだっつーの。水に入る前にはちゃんと準備運動しろよ」

「わかってるもん!」

 ムキになって言い返してくるが、気が急いている彼の準備運動はおざなりだ。

「ねぇねぇ、ザックス。おれ、クロール苦手なの。教えて」

「なんだよ、ビーチバレーで遊ぶんじゃなかったのか?」

 クラウドは、スイカの絵柄のビーチボールを、しっかりとバッグに詰めていたはずだ。

「うん。でもやっぱ、今日はチャンスだし」

「チャンス?」

「……だって、修習所のプールで練習するの、ちょっと恥ずかしいんだもん。これから夏本番だから、水泳の演習も入ってくるじゃん。あんまり泳げないの、みんなに知られたくないの」

 少しばかりしゅんとした口調で、彼は小さくつぶやいた。

 そういや、ニブルヘイムは、山岳地寄りの村だった。俺のように海が近い場所で育った人間と違って、あまり水に親しんでいなかったのだろう。

「入社試験のとき、『泳げますか』の項目に、○しちゃったから……」

 情けない顔でつぶやくクラウドが可愛くて、俺はぐりぐりと彼の頭を撫でくり回した。

「オーケー、オーケー! まったく泳げないってわけじゃないなら、コツさえ掴めれば、すぐにある程度のところまでは行けるぜ」

「ほ、本当? あのね、おれね、なんとか身体は浮くんだけど、早く泳げないんだよ。そんで途中で疲れて来ちゃって……」

「どっかに無駄な力が入ってんだな。いいか、クラウド。まずは正確なフォームを頭に叩き込むところからだ」

 俺は熱心にそう言った。恥ずかしながら、なにかに夢中になると周りが見えなくなるのは今でも変わらない。

 きっと今も、この海辺のどこかに、セフィロスの野郎が潜んでいるのだろうが、ほとんど気にならなくなった。まぁ、ジェネシスも一緒なのだ。まばらとはいえ他にも海水浴を楽しんでいる人々もいる。そんな中でとんでもない行動を取るとは思えない。

「よし、クロールな。今日は波も静かだし、深いところへ行かなきゃ大丈夫だろう」

「うん!」

「まず、フォームのチェックな。上半身の動きをやってみろ」

 効率よくマスターするには、とにかく正確なフォームからだ。

 実は俺はかなり泳ぎに自信がある。

 ゴンガガでもよく泳いでいたから、もともと水泳は好きなのだが、今ほどのスピードと距離を泳げるようになったのは、やはり神羅に入社してからの訓練のたまものだ。

 クラウドはあまり水に馴染みがないらしく、不得手だと言っているが人間の身体はちゃんと浮くようにできているのだ。練習次第でいくらでも上手くなれるはず。

 

 クラウドは神妙な面持ちで、俺に言われたとおり、型どおりのクロールの動作をしてみせる。

 悪くはないが、どこかぎこちない。

 俺はクラウドの背後にまわり、両腕をサポートした。

「ゆっくり動いてみろ。腕は俺に任せて力を抜いて」

「う、うん……」

 自分よりも、ずっと細くてしなやかな彼の腕をとり、ゆっくりと回す。

 クラウドが自分で動いていたときとの違いを、感じ取る必要があるのだ。

 下肢はずっと水に浸かったままだから、暑くはないが、もろに太陽光線を浴びている背中のあたりがチリチリと痛んできた。

「よーし。大分コツが掴めたろ」

「う、うん。ただ腕を回してもらってるだけなのに、自分でやってみるのと違う……」

「さっきも言ったが、上手く泳げるようになるには、とにかく正確なフォームを身につけるのが近道なんだ。今日は徹底的にそいつを覚えろ」

 そう言うと、俺は彼といっしょにいた場所から十五メートルくらい離れたところへ移動した。

「クラウド、クロールでここまで泳いでこい。さっきの感覚を思い出してな!」

「う、うん! わかった!」

「よーし、こい!」

 俺は両腕を前に差し出して、彼を促した。