〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<12>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 旋回中のヘリの底が空き、バイオジェム……あ〜、なんたらという長ったらしい名前の溶液が散布される。

 開発部がいうには、シーウォームの好む物質を含んだ液体らしい。

 こいつで連中をおびき寄せるのだ。猫にマタタビ戦法のようなモンだ。

 そんなら、毒でも撒いちまえばいいのに、と思うが、そこはそれ。海の生態系にできるだけ影響を及ぼさないよう配慮しなければならない。

 波打ち際には、ソルジャーの布陣、もちろん、俺も加わっている。

 そしてその背後には修習生の補助部隊だ。救護用具が濡れると困るので、救護専門部隊は、さらに浜辺のほうで待機している。

 パシャッ……バシャッ……

 平穏だった海面が徐々に波打ち始める。

 海底で連中が蠢き始めたのだろう。

 そいつが徐々に激しくなり、波打ち際に居る俺たちが濡れ程、大きくなっていった。

 3rdの銃撃班が、一斉に銃を構える。

 こいつは撃ち殺すためではない。ロープがついていて、奴らの身体を捕縛するためのものだ。

 シーウォームの身体は、ぶよぶよとしたゼリー状の皮膜に被われている。それゆえ、普通の銃で撃っても致命傷を与えることは難しいのだ。散弾銃のようなものさえ、肉体の中に取り込んでしまう。

 唯一の弱点は頭部の触覚付近らしいが、あの巨体相手にその場所を狙えるスナイパーはほとんど居まい。

 

 バシャッ……バシュゥゥゥゥ!!

 

 突如、目の前に巨躯が伸び上がった。

「来たッ!!」

 思わず声が出る。

「でけェ……」

 という呆然としたつぶやきは、たぶん、俺の後ろで銃を構えている3rdの連中だろう。

 

 ドドドドド……ズバァァァ……

 

 一匹が水面に姿を現すと、次々に巨体が波を蹴り上げ、頭を持ち上げた。

 シーウォームはつがいで行動する習性がある。徒党を組み、群を為して海を移動するのだ。それゆえ、一匹……いや『一頭』が、水辺にあらわれるとその周辺にも多くの群がいると見なすべきなのだ。

 

 ピッ……ピピピピ……

「はい、ザックス!」

『ヘリからだ! おい、ザックス。空から連中が見える。頭出してる奴らの他に十数頭は固いぞ!』

「十数頭……?」

『ロープを撃つタイミングを計れってことだ。一匹にかかずらってると、手に負えないぜ』

「……了解!」

 クソッ……他に十数頭だと!?

 ソルジャー30名ほどは配置しているが、他は戦力にならない修習生だ。

「おい、セフィロス、聞いたか!」

「…………」

「おい、セフィロス! って、アンタ、誰に手ェ振ってんのォォォ!! 任務に集中せんかァァァ!!」

「うっせーな。別にいいだろ。クラウドと目線が合ったのに、邪魔をするな」

「よく見えるな、この距離で」

「クラウドのことならなんでもわかる」

「ああ、もういい。訊いた俺がバカだった。それよりヘリからの連絡なんだが……」

 俺は先ほどの内容を端的に彼に伝えた。

「ああー、そうかね。ほぅ。」

「よそ見しながら聞いてんじゃねぇ!! それで、セフィロス。陣形を変えるか? 戦闘経験のない修習生に被害が及ぶようだとまずい」

「バカ言ってるな。そいつは当然だろ。……いいから、作戦継続を指示しろ」

 至極あっさりと言ってくれる。

「おい、だが、この人数では……」

「大丈夫だ。オレが行く。……水浸しにならなくてはな……」

 最後の一言が気がかりであったが、いちいち問い質している余裕はなかった。こうしている間にも、撒き餌の効果が薄れてしまう。

 

「よし……撃てッ!」

 バッと手を挙げ、指示を出す。

 一斉に咆哮する3rdたちの銃。さすがに訓練されているソルジャーだ。ひとりも違わず咆哮するモンスターを打ち抜いた。

 海の鈍牛シーウォームは、痛みすらもなかなか感じられないのか。逃げるでもなく、グォォォォと身を擡げる。

 

「ぐわぁぁ!」

「うおッ!」

 ふたりのソルジャーが吹っ飛んだ。そのまま海に引きずり込まれそうになる。

 巨躯が頭を擡げた拍子に、ロープが引っ張られ、つられて身体を引き寄せられた形になったのだ。

「チッ……」

 マイクを服に付けかえ、俺も背の剣を手にする。やっぱり指揮官然として指示しているだけなんつーのは性に合わねェ!

 だが、そんな俺の横を弾丸のように飛び立った男が居た。

 身の丈よりも長い日本刀が、虚空にひらめいたかと思うと、さきほどまで蠢いていた巨体から、首の部分がずれ、そのまま海に落ちた。

 切り口から胸の悪くなるような緑色の液体が噴き出す。

 ……もちろん、シーウォームの体液だ。

 

『ウワァッ!』という歓声が、海にこだまする。

 もちろん、こんな芸当ができる男はひとりしかない。

 英雄・セフィロスだ。

「クラウド、見てるかッ!!」

 ……言うなよな、そういうことを。

 ヤツがぶんぶんと手を振りまわしているのは、当然クラウドが所属している第五部隊に向かってである。幸いこの人数と海風で、セフィロスのセリフを聞き取ることは難しかった。

 俺はこの間に海に引きずられた連中を、浜辺に戻した。

 だがのんびりしてはいられない。なんせ他にも十数頭ものシーウォームが海底にいるのだから。

 

 ビチッ……ブシュゥゥゥ!!

 

 突如、セフィロスの背後で、水しぶきがあがった。