〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<最終回>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「なんだってんだ! オレはもっとクラウドと一緒に居たかったのに! 今日はフリーなんだぞ、貴様らに指図されるいわれはない!」

 怒り任せにセフィロスが吠える。

「まぁまぁ、セフィロス。ツォンの頼みを聞いてやってくれよ」

 とジェネシス。

「だいたい貴様はムカツクんだ!」

 セフィロスの怒りの矛先がのんきなジェネシスに向いた。

「クソえらそうにクラウドの好物を持ってきやがって……! 言っておくが、あの子は食べ物に吊られる子じゃないんだからな!それにオレが剥いてやったリンゴもちゃんと食べていたんだぞ!『おいちいです』って言いながらな!」

 勝ち誇ったように咆哮するセフィロス。そして口まねしたクラウドの物言いが可愛かったのか、ぶるぶると胴震いして興奮を収める。完全に変態の所行だ。

「ああ、ごめん、ごめん。別にセフィロスの邪魔をしようと思ってのことじゃないんだよ。めずらしくもツォンが直接頼み事にやってきたからさ」

「ああん、なんだっつーんだ!? コラ?」

「おめーはやくざか! 普段、ツォンには世話になってんだろ、話くらいちゃんと聞いてやれよ!」

 この中ではおそらく一番ツォンと仲がいい(?)俺は、いよいよとりなしに入った。

 メディカルセンターの休憩室で、きちんと話を聞くと……

「……ルーファウス……あ、いや、副社長がッ!?」

 大声を上げたのは俺。

「あれあれ、気の毒にねェ」

 と、相変わらずの反応なのはジェネシス。

「ケッ、天罰だ」

 と吐き捨てたのはセフィロスであった。

「ああ、まぁ、そういうことだ。本人が嫌がっているので、公には伏せてあるが」

「そうか。そういえば、ここ二、三日、姿が見えなかったな」

 ジェネシスがのんびりと言った。

「おい、ツォン。言っておくが感染ったのはクラウドのせいではないぞ。ルーファウスが勝手に病室にやってきたんだからな」

「もちろん、そんなことを言っているわけではない。むしろ病室に押しかけてしまった修習生には……その……申し訳ないことをしたと……」

「遅せーんだよ!」

「おい、よせよ、セフィロス」

 と、態度の悪い英雄を止める。

「で? ツォン。用件って何なんだ? わざわざ俺たちのことを探してたって……」

 俺がそこまでいいかけると、めずらしくも言い淀む感じで黒髪の主任は居心地悪げに咳払いをした。

「いや……ふたりに……というか、セフィロスに頼みがあって……」

「ああん?」

「……その、セフィロス。一度でいいから、ルーファウス様の……見舞いを……」

「ケッ!」

 即座に悪態をつくセフィロス。ホント、こいつはやくざかっての。

「クラウドが入院したときは、わざわざ病室まで文句タレに来たくせに、ずいぶんとクソ図々しい申し出だな!」

「ル、ルーファウス様が頼んだわけではない。私が個人的に……」

「オイ、腰巾着。あの野郎のクソワガママな在りようは、てめェのせいでもあるんじゃねーか? 貴様ら側付きのタークスが甘やかすから、ああいうムカツク男になるんだ」

「……それは……」

「おい、セフィロス、言い過ぎだろ」

 口ごもるツォンが気の毒で、俺はセフィロスの言葉を止めようとした。

「だいたいワガママっつったら、アンタだって相当なもんだろうがよ」

「アッハッハッハッ! 耳が痛いなぁ、セフィロス?」

 ジェネシスが声を上げて笑い出す。

「黙ってろ、三文詩人! クソむかつく野郎だ!」

「ほら……少なくとも副社長はアンタより年下だしさ。別に仲が悪かったわけじゃないんだから、顔くらい見にいってやれよ」

「黙れ、ザックス!ああ、クソバカバカしい。話がそんなつまらんことなら、オレはもう行くぞ」

「おい、行くって……」

「クラウド用のリンゴが切れた。購買部のは美味くない。セントラルの市場へ行ってくる」

「お、おい!」

 俺が止めるのも聞かず、セフィロスはさもくだらないと言いたげに、さっさとエレベーターホールへ歩いていってしまった。

「ザックス、いいんだ。すまなかったな」

 ふぅと吐息するツォン。多分、最初から諦め半分だったのだろう。なんだかんだいっても、ツォンは俺よりもセフィロスとの付き合いが長いのだ。彼の性格はよく知っているのだろう。

「ツォン、副社長の容態、どうなんだ? 俺、見舞い行くから!」

 咳き込むようにそう言った俺を、傍らのジェネシスが小さく笑った。

「あ、ああ、峠は越しているが、まだ…… 明日……いや明後日くらいになれば、大分腫れも引くと思う」

「そうか。じゃあ、無理に今日は行かない方がいいな。見られたくないかもしれないし」

「すまん」

「あんまり謝まんなよ。アンタらしくないよ」

 俺がそう言ってやると、ようやく彼は顔を上げ、自らを嗤うように苦笑した。

「仕事のことならともかくな。私もこういったことは苦手でな」

「わかってるよ。そんじゃあ、明日にでもジェネシスと一緒に顔出すから。あ、平気平気。もちろん、行く前にはちゃんとアンタに連絡する」

 ジェネシスに断りもせずにそう言ったが、彼は俺の言葉に反論しなかった。一緒に来てくれるつもりなのだろう。

 副社長にしてみれば、ぶっちゃけ俺なんかがひとりで行くよりも、1stのジェネシスが行ってやったほうが喜ぶに違いないから。

「ああ、そうしてやってくれれば有難い」

 多少なりとも肩の荷が下りたのか、ツォンは薄く笑った。

 

 

 

 

 

 

 結局、俺とジェネシスがルーファウス副社長の私室に、見舞いに赴いたのは、翌々日のことであった。

 昨日は昼間の任務が長引き、俺の帰りが遅くなったので遠慮したのだ。

「失礼しまーす。具合どうスか?」

 ジェネシスが選んでくれた蘭の切り花を抱え、だだっぴろい寝室に通される。

 うおッ!天蓋つきのベッドなんか初めて見た!

「ああ、君たち。わざわざすまなかったね」

 ベッドの上のルーファウスは大分落ち着いているようだ。病状も……ということより、彼の纏う空気が穏やかだった。数日前クラウドの病室を訪れたときとは雲泥の差だ。

「……もう、ほとんどいいんだ。明日には仕事に戻ろうと思っているのだが、彼が許してくれなくてね」

 半身を起こしたルーファウスの肩にガウンを着せ掛けるツォン。その彼を見ながら、ルーファウスが苦笑した。

「ツォン。彼らとお茶を飲みたいのだが……」

「……ベッドから出るのは好ましくありません」

「もう、ほとんど治っている。ずっと寝たままでかえって疲れてしまう」

 駄々をこねる副社長に、側付きのツォンはため息ひとつを吐き出すと、致し方なく、「十分だけですよ」と念を押した。

 ルーファウスにあらためて厚手のガウンを着せ、軽く髪を整えるツォン。

 俺たちはその間、備え付けの応接セットで待ちぼうけだ。

 

「……ザックス、あれ……」

 小声で俺に耳打ちするジェネシス。

「あの花瓶、よく見て」

 彼の指し示す先には飾りチェストがある。細い作りで花瓶を置く専用のものだ。

 そこにガラス細工の花瓶が置いてあり、瀟洒な造形のホワイトローズが花ひらいていた。

「わからない?」

 とジェネシス。俺はもう一度、目をこらしてそいつを眺めた。ガラス細工の花瓶の下に何かカードのようなものが挟んである。

「ふふ、相変わらず、右上がりの乱暴な字」

 

『〜From Sephiroth〜』

 ……セフィロス……だ。

 

 ああ、そうか……副社長の雰囲気がやわらかかったのって……多分……

 

「ははは、先を越されたみたいだな。まぁ、いいか」

 ジェネシスが愉快そうにそう言った。

 

 なんだか俺も嬉しくなった。

 ……振り回されてばかりの毎日なのに、やっぱりこの場所はそう悪くないと……そう感じたのであった。

 

 終わり