〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<7>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「クラウドはけっこう気ィ強いぞ。外見があんなだから、あまりそうは見えないかもしれないけど」

「ヘェ…… なんだかいつもオドオド、ピヨピヨしている印象しかないなァ」

 多分、『ピヨピヨ』はチョコボと引っかけてそう言っているのだろう。

「あいつは身内と外とを無意識のうちにハッキリ分けるんだよ。俺に対しても初対面のときはものすごく構えてたけど、『身内だ』と思ってもらえるようになってから、弟みたいに甘えてくる」

「そうかァ、じゃあ、俺はまだ『身外』なんだなァ」

「アホか。たりめーだろ。アンタ、ほとんどクラウドとしゃべったことなんてないだろうが」

 溜め息混じりにそう言ってやった。

「そうだね。修習生じゃねェ。一緒に仕事できることもほとんどないし」

「なんだよ、オメーまでクラウドと親しくなりたいのかよ」

 そういう迷惑ヤロウはセフィロスだけで充分だっつーの。

「うーん。なんか面白そうだなって」

「言っておくがクラウドはごく普通のガキだぞ」

「セフィロスがあんなふうに、特定の人間に興味をもつのはめずらしいからさ。これまでも付き合った相手はずいぶんいるだろうけど、誰か一人っていうのは、今回が初めてじゃないのか?」

「俺より付き合いの長いアンタが言うならそうだろ」

「うん、だからね。側で見ていたいなって」

「変なヤツ」

 一言の元に吐き捨てると、ヤツはいつものように『ひどいなァ』などと言いながら、楽しそうに笑った。

 この男の行動基準は『面白いか、面白くないか』であるらしい。

 今回の一件に同行してきた動機も『面白そう』だからと言っていた。まったく迷惑な話だ。

 ……もっとも、今回ばかりは、そんな苦情を言える立場ではないと自覚しているが。

「……アンタもまさか女より男のほうがいいってヤツじゃないだろうな」

「あっはっはっ。田舎のローカル線でする話じゃないなァ」

「小さい声でしゃべれよ」

 ワントーン声を落として話を続けた。

 もっとも列車……というより汽車に乗っている人間はほとんどいない。

 俺たちが座っている、向かい合わせの座席の周囲には、いかにも行商人風の老人が酒瓶を抱えて爆睡しているだけだ。

「あんまり性別って考えたことがないなァ」

「いや、まずフツーに考えるだろ」

 すかさずそう突っ込んでおく。

「うーん…… 気に入ってしまえば、それほど重要なことではないんじゃないか?」

「って重要だろ!? だいたい女じゃなきゃそういう対象にはならないって!」

「ザックスはそうなんだろうね。でも、男の子とでもできるよ?」

「あの……できるとかそーゆーんじゃなくてだな……」

 何なんだよ、コイツは……

 セフィロスと似たようなことを言いやがって。クラス1stにはこんなヤツしかいねーのかよ。……もちろん、堅物のアンジールを抜かしてだが。

「セフィロスのことはよくわからないけど、俺の場合は好きになる気持ちのほうが先かなァ。もっともほとんど経験ないから何とも言えない部分はあるけど」

「アンタだって、それなりに付き合ってる女くらいいるんだろ?」

「俺はこれが一番いい」

 そういうと、ヤツはいつもの小説を取り出した。

 こんなところまで持ってきているなんて……あきれるぜ。

「文学は限りなく崇高でエロチックだ。生身の人間など及びもつかないほどにね」

「……よくわかんね」

 正直にそう答えると、ジェネシスは切れ長の双眸を細め、喉元で笑った。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、セフィロスのことはそう心配しなくても大丈夫じゃないか?」

 気を取り直すようにジェネシスが言った。

「その娘がチョコボくんの幼なじみだってわかっているなら、無茶なことはしないだろうし」

「甘めーよ、ジェネシス」

 一言の元に却下してやる。

 ジェネシスはひょいと形のよい眉を持ち上げると、さらに言葉を重ねた。

 ちんたら走るオンボロ列車の中では、話をするくらいしか出来ることはないからだろう。

「だって、恋人というより姉弟みたいな関係だったんだろう? その子に何かあったら、チョコボが悲しむじゃないか。それがわかってるんだから、そうそうひどいことはしやしないって」

「……アンタ、一応ダチならわかるだろ。セフィロスがそんな深いことまで考えると思うか? ティファちゃんがいなくなれば、その分、クラウドの気持ちを独占できるくらいのことは、平気で考えそうな無神経男なんだぞ」

「う〜ん、なるほどねェ、セフィロスならありえるかなァ。ザックスもずいぶん彼のことがよくわかっているみたいだね」

「別に。ヤツとはそれほど親しいわけじゃねーけど、クラウドのことは大事だからな。俺が守ってやらないと」

「ザックスはあの子が好きなの?」

 セフィロスも直球直情型だが、この男の問いかけもストレートだった。

「変な意味の好きじゃなくて、ただ友だちとして大事に思ってるだけだ。俺より年下だし、まだ修習生なんだから……セフィロスみたいな迷惑野郎からは守ってやりたいんだよ」

「チョコボもそう望んでいるのか?」

「え……」

「だから、あの子……クラウド?もそう思っているのかって聞いたんだよ」

「それは……」

「セフィロスの気持ちに困惑しているから、彼から守って欲しいって? 男は恋愛対象にならないから迷惑だって? あの子がおまえにそう言ったのか?」

 ジェネシスは俺を責めているわけではないのだ。ただ純粋に疑問を感じたから、それを口にしているだけだろう。

 だが、そのごく自然な問いかけのひとつにすら、俺には答える用意がなかったのだ。