〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<1>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「……ん、大丈夫、よく眠ってる。じゃ、ナナキ、見ててあげてね」

 ティファは続きになっている寝室の扉を閉め、小さくささやいた。

 ヴィンセントに懐いているナナキが、彼のベッドの下に身を伏せた。

「怪我の具合は? 苦しそうにしてなかったか?」

 水汲みだの、氷の用意だので動き回っていた俺は、即座にティファに訊ねた。

「寝息は落ち着いてるわ。このまましばらく休ませてあげましょう」

「……あ、ああ。でも、やっぱ、ちゃんと医者に診せたほうがいいんじゃないかな。外傷はほとんど無いけど、内臓の方とか……」

 リミットブレイクから元に戻った後、ヴィンセントの身体はほとんど負傷の痕跡を残していなかった。あれほどひどく打ち付けられた背でさえ、わずかにアザが残っている程度である。

 

 ヴィンセントの変身した姿については、俺の判断で皆に打ち明けることにした。

 なぜなら、今後、セフィロスに遭遇するであろう古代種の寝殿に行くとなれば、これまでより、さらに危険の度合いは大きくなる。

 つまり、リミットブレイクしやすくなるはずだ。

 万一、そうなったとしても、仲間の反応でヴィンセントを傷つけないよう、あらかじめ話をしておこうと決めた。ティファも思案顔ではあったが、最終的には賛成してくれた。

 

 俺たちは別室に集まり、ちょっとした会合を持つことになった。

 

「そーいや、あいつのリミットブレイクって、これまで見たこと無かったよな」

 ぶっきらぼうにバレットが言った。

 面倒見が良く、人当たりのやさしいヴィンセントのことを、彼も好いているのだ。俺の話を聞いて、ひどく困惑しているのが見て取れる。

「なんだかんだ言っても、ヴィンセントは強いからな。戦闘でもそうそうピンチに陥るようなことはなかったもんな」

 そう言葉を返したオレに、他の連中も頷く。

 彼と旅をして一日二日ではなかったが、これまでヴィンセントのリミットブレイクを目の当たりにしたことはなかったのだ。

「どうしたもんかな……」

 バレットのつぶやきに、俺は即座に反応した。

 彼の言葉の真意を計りかねたからだ。

「なぁ、それって、まさかと思うけど、リミットブレイクで変身してしまうヴィンセントとは一緒にいられないとか……そういう意味じゃないよな、バレット?」

「ハァ? バカか、テメェ、見損なうな! 俺が言ってんのは、こっち側がどういう態度をとれば、ヤツの負担にならないかってことだ! それ以外に何があるってんだ、バカヤロウ!」

 と、間髪入れずに怒鳴りつけられた。

「うーん、今のはクラウドが悪いよねェ。はい、謝って〜」

 と、絶妙のタイミングで割って入るのはユフィだ。

 確かに彼女のいうとおりだ。バレットが不機嫌になったのもわかるし、むしろそれが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

「悪い……」

 そういって、胸ぐらを掴み締めてくる、バレットの手を外した。彼は抗わなかった。

「……ただ、ちょっと……俺……ナーバスになってるみたいだ。ああ、違う。ヴィンセントの変身がどうのってんじゃなくて」

 そこまで言って、一端言葉を切る。続けたのは、皆の反応を確認してからだった。

「……彼の精神状態が心配だ。正気に戻ったときの反応を思い出すと、本当に俺たちには、あの姿を知られたくなかったんだと思う。いつもは誰よりも冷静なヴィンセントが、あんなふうに取り乱すところ、初めて見た」

「クラウド……」

 唯一その場に居合わせたティファが、心配そうに俺を見る。

「せっかく打ち解けてくれるようになったのに、もう一緒には行けないとか言い出すんじゃないかなって…… 俺たちがどうのっていうよりも、ヴィンセント自身が、こちら側を受け入れてくれなくなるような気がしてさ」

「おう、十分、あり得るな。出逢ったときは、淡々としたヤツだと思ったけど、感情がツラに出ないだけで、ありゃ、相当、うじうじ、ぐずぐずタイプだぜ」

 夜が明けてから駆けつけたシドが、たばこを吹かしながら言った。彼も修理に奔走していたせいか、寝不足らしく赤い目をしている。

「だよねェ、なんかあると、すぐ『私なんて』って言うモンね〜」

「それは奥ゆかしいんだよ! おまえと違ってな、ユフィ!」

「んだよ、クラウド、シツレーな!」

「とにかく! ヴィンセントはそういう繊細な人だろ。十分注意して対応しないと……」

「おい……なぁ、クラウド」

 ため息混じりに腕組みした俺に、バレットが恐る恐る声を掛けてきた。

「なんだよ」

「いや、っていうか、そんなにすごい化け物に変身すんのか? そもそもそっから想像がつかねーんだよ。俺は直接見たわけじゃないからな。オメーの絵じゃ、いまいちよくわかんねーし」

「だよねェ。クラウドのこれじゃ、ただのゴジラじゃん。ゴジラじゃないんでしょ?」

 と、ユフィも言葉を重ねる。

 

 ……失敬な。俺の力作を。