〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<11>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 その直後のことだ。

 

「ピピピピッ、ピピピピッ」

 唐突に鳴りだしたPHSに、まさに私と彼女は飛び上がりそうになった。

 もちろん、大きな音ではない。

「うおぉぉっ! ビビッたぜ!」

 シドの声の方がよほど大きい。

 対照的に、おしゃべりロボットのケット・シーは、なぜかこの寝殿に入ってから、まともに口を聞かなくなっていた。

「……私のPHSだ」

 軽く頷き返し、死角になる場所に移動した。ごく当然というように、皆も一緒にやってくる。

 私を中心に囲むような形を取るが、こちらを注視されては困る。

「皆は、周囲に注意を払ってくれ」

 一言、告げてから、急いで電話にでた。

「……はい」

 声をひそめて応答する。

『…………』

 だが、返事がない。

 ……誰からだ?もちろん、このPHSの番号は皆知っているが。

「私だ。何かあったのか?」

 ティファが何度もこちらを振り向くが、それに答える余裕はない。

「もしもし? 応答してくれ」

 そう促したが、尚も相手は黙りこくったままだ。

 いや……『電話を掛ける』ところまでしか、出来ない状況なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『…………』

「クラウドなのか?」

 ただのカンで、そう問いかけた。

『…………』

 だが、やはり返答はない。

 

 ひとりで行かせたのは失敗だったのだろうか。少なくとももう一方のチームは、我々と同数のメンバーで構成されている。

 どうしても、ひとりきりのクラウドのほうが危険なのだ。

 セフィロスにだけ注意を払っているわけにはいかない。寝殿に現れるモンスターの生態はほとんどわからない。タークスとして各地に赴いた経験がある私でも、この地域には情報がない。

 

 森の中では、巨大なモンスターにも遭遇したのだが、この場所に棲むものは種が違う。

 精霊のような不可思議な存在……まるでゴーストのように、ふわふわと漂っている得体の知れない輩がいる。

 攻撃を加えてくるわけではないのだが、鬱陶しく感じる。

 背後から、じっと見つめられ、振り返ると、まるで煙のように、フワリと消える。

 

「……もしもし? 応えることはできないのか。ならば会話をできる状態ではないと判断し、一端通話を停止し、着信ナンバーを確認する」

 ナンバーを確認せず、慌てて電話に出てしまった。

 携帯だの、PHSだの、そういった機器は苦手なのだ。

『…………』

「我々は現在、中央回廊に向かっている。無理に今の場所を動くな。いいな、クラウ……」

 言葉を途中で切ったのは、電話口の向こう側に人の気配を感じたのだ。

「返事をしてくれ。負傷をしているなら、すぐに迎えに行く。

 

『クッ……』

 私の言葉に相手が初めて声を立てた。

「クラウド? クラウドなのか?」 

『……クッ……クックックッ……』

 私の呼びかけに返ってきたのは、艶めいた低い笑みであったのだ。