〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<24>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 だが、それは、本来の生命力以上のパワーを、リミットブレイクという強制下で極限まで引き出すもので……

 特にヴィンセントにとっては、負担が大きい。

 体力のある人ではないし、彼のリミットブレイクは、あまりにも常人のそれと違っていたから。

 唾棄すべき輩は、神羅のキチガイ科学者、宝条だ……!

 

「ギィオォォォォォ!」

 カオスの雄叫び。

 とてもヴィンセントのものだとは思えない。

 

「貴様……ヴィンセント・ヴァレンタイン……!」

 首の付け根から血が噴き出した。

 セフィロスは正宗を地に突き立て、それをたてに何とかこらえている。

「……クラウドの仲間に貴様のような輩がいようとは…… グ……アアアアーッ!」

 ブシッと鈍い音がして、首元の傷がさらに開いた。

(もう立ち上がるな……! そのまま伏してくれ、セフィロス!)

 祈るような気持ちで、ふたりの戦いを見守る。

 ヴィンセントはもう限界のはずだ。通常のリミットブレイクならば、とうに解けているはず。

 それを未だ保っているのは、ヴィンセント本人の命を削って闘っている証拠なのだ。

 

「オオオオオァァァ!」

 カオスがふたたび牙を?く。

 セフィロスが刀を構える。

 

(ヴィンセント、やめてくれ……! セフィロス、引いてくれ……ッ!)

 

「……くっ……ふふふ……ハハハハハ!」

 血の噴き出る傷口を押さえつつ、セフィロスが笑った。皮肉な笑みではない。

 わずかに懐かしさを覚えるこの表情……

 

「強いな、ヴィンセント・ヴァレンタイン……! ここまで力のある敵はしばらく記憶にない! 楽しい……心地良いぞ、ヴィンセント!」

 歓喜の混じった声音でセフィロスが叫ぶ。

「グゥルルル……グォォォォ……ッ!」

「その姿になると会話ができないのが残念だ……! 行くぞ!」

「ギィィィィアアアアァァァ!」

 銀と黒がぶつかって弾ける。

 その後に、パパッと朱色のものが落ちて……

 

 そうだ。

 セフィロスは、相手が強ければ強いほど、戦いに楽しみを見出す。

 いかに不利な状態であろうと、口元に笑みを浮かべて立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

「グオォォォォ……!」

 カオスの背が血に染まった。

「クククク…… グ……グハッ!」

 セフィロスの口から血泡が吹きこぼれた。

 もう毒がだいぶ回っているのだろう。

 このまま放置しておけば、セフィロスは死ぬのだろうか……?

 いや、さすがに死なぬまでも、特別な力は失うのでは無かろうか……?

 黒マテリアを、俺たちが死守できれば……?

 

 ならばもう、これ以上……

 これ以上、ふたりが命を賭して闘わなくてもいいではないか……!

 

 俺にはもう正常な判断ができなくなっているのだと思う。

 

 ヴィンセントが傷付くのはもちろん、セフィロスにも死んで欲しくないと願った。

 これまで、あまりにも多くの『死』を見て来すぎたのかもしれない。

 

 セフィロスはもう元の彼ではない。

 『クラウド』と、優しい声で呼んで甘やかしてくれる恋人ではない。

 もう、そんなことはわかっているのだ。

 頭では理解しているのに、目の前の現実がそれを欺こうとする。

 

 長い銀の髪、低い声、敵をも魅了するその剣技……

 俺のすべてが、彼を恋しがっている。泣きたいほど懐かしんでいる。

 

「やめろッ! やめろーッ!」

 喉奥から飛び出た声が、あまりに悲痛に響き、一瞬自分の声かと耳を疑った。