~ 美女でも野獣 ~
~ FF7 ~
<25>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「もう、やめてくれーッ! ア……アンタたち……ッ! 自分の命をなんだと思ってんだよッ!」

 涙が乾いて、口を動かすたび、頬がヒリヒリと引きつれる。

 

「フ……しばらく静かになったと思っていたのにな。……グ……ハァハァ……」

 平静を保っているつもりでも、確実に毒が効いている。

 青ざめた肌、時折嘔吐き、吐血する。

 

 おそらく立っているだけでも奇跡的なのだろうが、そこで刀を手に、戦闘できるのがセフィロスなのだ。

 

「グルルルル……」                               

 背中から血を流したまま、カオスは物言わぬまなざしで俺を見つめた。

「カ、カオス……ううん、ヴィンセント……。なんで……アンタ……こんなにひどい傷……! どうして……こんな目に遭ってまで……」

「グゥ……グルルルル……」

「ごめん……ごめん、俺が情けないばっかりに……自分ひとりの命なら、賭ける権利があるなんてバカなこと考えたから……!」

 拳をギュッと握り、涙を見せないよう気合いを入れた。

 カオスの闇色の双眸が、俺を映し出す。その感情の動きを読み取るのは難しかったが、なんとなく穏やかに見えた。

 

 

 

 

 

 

「もういい、やめて…… セフィロスももういいだろ……!」

 喉が痛い。

 声を張り上げすぎたのだ。

 

「何の役にも立たない子供が……!取るに足らない貴様に仲裁される覚えはないぞ!」

「ギィィィ! グオォォォォ!」

 俺への侮蔑の言葉に、カオスが牙を剝く。

 それを宥めるように、漆黒の巨体に目線を送った。

「……いいよ、それで。でも、俺、もう目の前で……アンタの死ぬところは見たくない」

「フ……一度は貴様が斬り殺した男だぞ」

「だから……もう嫌なんだよ。セフィロス、アンタに黒マテリアは渡せない。俺の命と引き替えって言われたって、それはしちゃいけないことなんだ」

「……黙れ、クラウド」

「今のアンタの状態じゃ、黒マテリアを使うなんて無理だよ。意識があるのがおかしいくらいくらいだろ」

「貴様……」

 セフィロスが狼にも似た氷色の双眸でギラリと睨め付けてくる。

 だが、それは手負いの獣の狂気で、先ほどまでの圧倒的な重量をもつ覇気ではない。 

「……だから、まだ意識があるうちに引いてくれよ! 早く消えてくれッ! まもなく俺の仲間たちがここにやってくる。そうしたら、今度こそアンタ、殺される……!」

「グゥルルルル……」

 まだ変身を解かないが、カオスの鉛のような『気』がやや落ち着いた。

 

「……自分でもおかしなことを言っていると思うけど、アンタが死ぬのも、ヴィンセントが倒れるのも嫌なんだ!……もう目の前でアンタを失いたくない」

 堪えていたつもりであったが、じわじわと熱いものがこみ上げてくる。

 それを何とか宥めて飲み下そうと、必死に耐えているとき……

 

 ……その震動は来た。