~ 美女でも野獣 ~
~ FF7 ~
<26>
第二部
 バレット
 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!なんだこりゃ!」

「こいつァ、トラップかなんかじゃねぇのか!? 祭壇に手ェ触れたらバケモンが出るとかよォ」

 シドが叫んだ。

「聞いてねェぞ、と!」

  と、赤毛だ。

 

「ほい、これ。一番頑丈そうなアンタに預けとくわ、バレットはん。間違いのう、クラウドはんに渡しとくれやす」

 ケット・シーから、ひょいと黒マテリアを放り投げられ、俺は慌てて落っことしそうになった。

「うあっ! とっとっ! 危ねェだろ、ケット・シー!」

「おい、とっつぁんとネコ型ロボット、早く出ろ! マジでヤバイかもしんないぞ、と!」

「誰がとっつぁんだ! テメーの親父になった覚えはねェ! 気色悪ィ!」

「ったく口の減らないアバランチおやじだぜ!」

 悪態を吐くレノの後を追う。

 

 シドのいうとおり、祭壇を動かしたりすると、何らかの罠が起動する仕掛けになっているのかもしれない。

 扉に手を掛け、身を乗り出したとき、ドンと後ろから強く押し出された。

「うおッ!?」

 そのまま前のめりに転げた。

 勢いづいて鼻まで打っちまった!

 

「おい、ケット・シー! テメェ、何しやがる……!」

「確かに黒マテリアのこと頼んだで、バレットはん!」

「お、おいッ!? 待て! どこ行くつもりだ!」

「ええから、わいのことは放っておいて」

「何言ってんだ、早く出るんだよ! あぶねェだろ!」

 

「ケット・シー!?」

 異変に気づいた者たちが、駆け戻ってくる。

「あっちゃ~、せっかく上手いこといったワと思うてたのに」

「バレット、ケット・シー、どうかしたのかよ!」

「そ、それが……こいつが……」

 怒鳴りつけるシドに、説明しようとするが、俺だって何がどうしたのかわからない。

 

「皆はん、おおきに。そんでも、早く行くんや。まもなくこの寝殿は崩れ落ちる。わいが稼げる時間はほんのちょっぴりや」

「ケット・シー!? 何言ってるの! 早く一緒に逃げるのよ!」

 ティファが勇敢にも、閉まりつつある扉に、がしっと手を掛けた。

「そうだぜ! いきなり何言いやがる! 急げよ!」

 シドがティファを助太刀するように、扉を引き開けようと頑張る。

 だが、先ほどはあっさりと開けた石扉が、今度はテコでも動かなくなってやがる。

 

「……皆はん、ええ人たちや。ホンマにええ…… だからこそな、最期に役に立ちたいねん。わいなら、少しの間、この部屋の『仕掛け』を、止めておける。エネルギーを中和させるんや。こいつは機械のわいしかできないことなんや」

「ケット・シー!」

 悲鳴のような声はティファだ。

「最初から決めとったコトや。わいはアンタらを、こんなところで死なせるつもりはないねん。さぁ、行き! 黒マテリアと…… クラウドはん、ヴィンセントはんを連れて早よ脱出してくれや!」

 

 

 

 

 

 

 ガガガガ、ゴゴゴゴ!

 大きな揺れが続き、扉の前に土砂を積み重ねてゆく。

 奥の方に居るケット・シーの姿が、砂埃のせいでよく見えない。

 

「ありがとなぁ。こんなわいとボクを信用してくれて、ありがとなぁ」

「イヤよ! ケット・シー! 早くこっちに来てッ、私の手、掴んでよ!」

「すんまへん、ありがとなぁ。気持ちだけ……もらっとくわ」

「ずっと一緒だったじゃないッ! 私たち仲間じゃない! こんなのイヤよッ!」

「ティファはん…… 脳のコンピューターはバックアップをとってあるし、すぐに同じボディで戻ってくるさかい。クラウドはんたちのこと、頼んますわァ。ごっつ強いアンタが無事でなきゃァ、パーティはボロボロですワ」

 ややおどけた調子で言う。俺たちはつられたように、口をひん曲げた。

 笑うことはできないまでも、こいつの心遣いに必死に応えようとして。

 

「……ケット・シー……どうしてもダメなの……? 一緒に……来れないの?」

「すんまへん。……これしか方法がないんですワ」

「…………」

「ああ、でも、アンタさんらが、この一号機を忘れないでくれとったら嬉しいワ。同じボディとは言っても、ボクはボクだけや。のう、ティファはん」

 宥めるようにケット・シーが言った。機械仕掛けのメカなのに、その声音は優しく……そして潤んでいた。

「……覚えてる……絶対に忘れるわけないでしょ!」

「ティファ、危ないッ!」

 エアリスが、座り込んだ彼女の前に、魔法で壁を作った。

 がれきが崩れ落ちてきたのだ。もはや扉はほとんど見えない。

 

「……おい、野郎ども! ケット・シーの心意気を無駄にするんじゃねェ! 急いでクラウドとヴィンセントを拾って脱出だ!」

 にじみ出てきた熱いものを、乱暴にぬぐって叫ぶ。

「行くぜッ!」

 シドが咥えタバコに火をつける。

「行くぞ、と! ……あ~、ティファ。大丈夫かよ? なんだったら背中乗ってくか?」

「……バカにしないで!」

「いや、アンタ……だいぶ……参っているみたいだぞ、と」

「怪我はしていないわ。……ちゃんと走れる! 絶対……絶対にケット・シーの気持ちを無駄にしない! 生きて……生き延びて、セフィロスにとどめを刺す!」

 ティファが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のまま、ぐんと立ち上がった。

 

「よしッ、皆、走るぜ!」

 俺の掛け声で、元来た道を全力で駆け抜けたのである。