~ 美女でも野獣 ~
~ FF7 ~
<27>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「……何だ、この揺れは……?」

 セフィロスが独り言にようにつぶやいた。

 失血と猛毒で、いつ気を失ってもおかしくないはずなのに、口を聞くときは息を乱さない。

「グゥ……グルルルル……」

 カオス……いや、ヴィンセントがその隙を突いて、俺の手錠を引きちぎる。

 自由になった途端、俺の身体は悲鳴を上げるが、そんなことにかまっている場合ではない。

 俺は即座に、弾き飛ばされた武器を取りに走った。

 

 ……それらの行動にセフィロスが気づかなかったとは思えないが、彼は動こうとはしなかった。

 傷と毒で朦朧としているのか…… いや、『俺なんか』が自由になっても、なんら脅威にはならないと考えているのかもしれない。

 

 だが、この突然の揺れは解せない。

 地震というよりも、この建物自体が揺れている感覚だ。

 

 ……このカンジ……

 ……足の裏に直接伝わってくるのは……

 かなり浅い……?

 

 これはやはり地震ではない。建物が揺れている。

 ……地下で何かあったのだろうか……?

 この寝殿自体がかなり広いので、具体的なことはわからないが……

 

 

 

 

 

 

「グッ……グゥルルルル……グッ……グッ……」

 カオスが苦しげなうめき声を上げた。

 外身を見れば、セフィロスのほうが遙かに負傷の程度がひどい。

 だが、カオスの『中身』はヴィンセントだ。

 

「グッ……グゥル……グッ……グッ……グオォォォォ……ッ!!」

「ヴィンセントッ!」

 

 カオスの身体が不自然に空に浮くと、それはパンと音を立てて砕け散った。

「ヴィンセント……!」

 大剣を背に戻し、その場所に駆ける。

 黒い霞が消えると、宙から紅いものが落ちてきた。

 すぐにわかった。ヴィンセントのマントの色だ。

 

「ヴィンセント……ッ!」

 細い身体が地に打ち付けられる前に、何とか滑り込んで抱き留めた。

「ヴィンセント……ヴィンセント、しっかりして!……つッ!?」

 抱えた身体のあまりの軽さに、背筋に氷を押し当てられたような心地になる。

 華奢な腕……雪のように冷めた肌……俺よりも長身なのに、まるで女の子を抱き上げているくらいの重量にしか感じない。

 

 この脆い肉体で、あのセフィロスと互角以上に闘ったのか……!?

 カオスに変じて、とらわれた俺を庇いつつ、こんなにも長く戦い続けていたのか……?

 

「ヴィンセント、ヴィンセント!」

 声をかけても、瞼すら揺れない。

 魂の抜け殻のような肢体に、生命の脈動を感じないのだ。

 

 どうして……これでは最初から死ぬつもりで闘っていたのと同じではないか!

 彼はリミットブレイクの危険性を熟知していた。生命そのものを削って、超人的なパワーを維持しているのだと自覚していた。

 ならば、おのれの肉体の限界にも気づいていたはずだ。

 

「ヴィンセント…… ヴィンセント……」

 早く……一刻も早く、ヴィンセントに治癒を施さなければ!

 このままでは……本当に『死』……

 

 冷たい身体を抱き上げ、俺は後も先もなく跳んだ。

 この場から逃げるだの何だのという感覚もなかった。

 とにかく、安全な場所で止血して……蘇生術を施さなければ……!

 

「どこへ行く、クラウド」

 ザンと目の前にセフィロスが立ちはだかった。

 自らもボロボロのくせに、ヴィンセントにとどめを刺そうというのか?

 

「……退けよ、セフィロス」

 感情を抑えて低く言う。

 

「……貴様らを逃すと思っているのか……?」

「いいから退けよッ! アンタだって立ってるのがやっとだろッ!」

 叫び声が泣き声にならないよう気を張る。

 今、この場で、腕の中のヴィンセントを守れるのは俺しかいないのだから。

 

「この私を誰だと思っている…… この程度の傷…… おまえたち二人を殺して、尚、余裕があるわ……!」

「黙れ……! 前言撤回だ! 今なら……今なら、ヴィンセントのためにアンタを斬れるッ……! この人を殺すというなら、俺が貴様を殺してやる……ッ!」

 彼を片肩に背負い、俺は利手で大剣を抜いた。

 今は剣の重みが心強い。

 ヴィンセントのためなら、俺は満身創痍のセフィロス相手であろうと、迷いなく剣が振れる。

 容赦なく、全力で向かっていける。