~ 美女でも野獣 ~
~ FF7 ~
<29>
第二部
 バレット
 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉッ!」

 その光景が目に入った瞬間、腕のマシンガンをぶっ放した。

「バレット! 私、ヴィンセント看るからッ!」

 エアリスは即座に状況判断をした。

「バレット! エアリス……みんな、無事だったのか!」

 そこかしこに傷を負ったクラウドが、今度ばかりは心底助かったという表情でこっちを見た。

「バカ野郎! こっちのセリフだぜ! ったくウチのリーダーわよォ!」

 シドが口汚く罵りながらも、すぐにクラウドのとなりへ付く。

「もう、無茶ばっかりして! お説教は後回しね、今はセフィロスを倒さなくちゃ!」

 当然、ティファも戦闘態勢だ。

「セフィロス。アンタ、やり過ぎだぞ、と。いったい何人殺してくれてんだよ」

 赤毛のタークスも、こちら側に着く。

 

 だが、セフィロスは筋一本すら緊張させず、口元に笑みを刻んだ。

 

「……雑魚が何匹増えようと同じだ」

 にぃと、綺麗な半月を描く口唇。

 なぜかそこは人を喰らったように、紅く染まっている。

 ぞぞぞと無数の虫が這い上ってくるような悪寒にとらわれ、俺は冷や汗をぬぐった。

 

 

 

 

 

 

 ……こいつがセフィロスだ。

 こんな風に間近で見るのは初めてだ。

 アバランチ最凶の敵と目してはいても、英雄サマがじきじきにお出ましになる機会なんざ、よほどの大事件でなけりゃありゃしねぇ。

 

 上背は俺より少しあるか……いや、同じくらいか?

 横幅は半分もねェじゃんか。

 顔立ちは女みたいに綺麗でよ、ケッ!

 肌は生ッ白い青びょうたんだ。

 

 この野郎がそんなに強いのかよ? あのクソ長い刀のせいで、みんなビビッてんじゃねェのか?

 いや、確かに英雄と呼ばれるくらいだから、剣技はすごいのかもしれないが、そりゃ一対一の話だろ?

 この際、卑怯だ何だなんて話じゃねぇ。

 一斉にかかれば、こんな野郎……

 

「……下品なまなざしで私を値踏みするな」

 じろりとこちらを見ると、ヤツが低くつぶやいた。

 独り言のようで、良く聞こえなかったのだ。

 一瞬、風が起きたと感じた。

 

「バレット、避けろッ!」

 クラウドの声ははっきり聞き取れた。

 だが、身体が反応する前に、腹に熱い衝撃が走った。

 

「……ヤ……ヤロウ」

 ようやく口からこぼれ落ちたのは、まともな言葉ですらなかった。

 

 いつ斬られた……?

 セフィロスは、クラウドと対峙して、距離をとっていて……

 何だ、この速さは……とても……

「とても……人間業じゃ……」

 ゆっくりと大地が近くなってくる。

 目の前が暗くなって……ゆく。

 

「バレットッ!」

 地面に伏す直前に、力強い腕で身を支えられた。

 ……誰だよ、よけいな世話だってんだ……

「バレット! しっかりしろ! アンタ、この程度で死ぬ男じゃないだろッ」

 眩しい金髪が視界に入って、クラウドだと知れる。

「バレット! こんなところで寝んなよ、コラ!」

「……へっ、たりめーよ」

 何とか言い返してやるが、脇腹をえぐった刀傷からはドクドクと血が流れ出している。

 アバランチ時代には、何度も大けがをしたが、たった一太刀でこんなにも深く斬られたことはなかった。