20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 クラウド・ストライフ
 

  

 

「ほぅ、なかなか良い住まいだな。この土地はいささか暑いが、開放的な気分になる」

 ヴィンセントが丁寧に淹れたお茶を前に、まんざら世辞でもなくルーファウスが言った。

「それはどうもありがとう。ここはクラウドの持ち物だが私もとても気に入っているのだ。明るい陽差しが、遅い時間になっても入ってくるので、気持ちが沈むことが少ない」

「やぁっだ、ヴィンセントってばそんなこと考えていたの!まぁ、確かに日中はちょっと暑いけど俺も気に入っているよ」

 ヤズーがにこにこと笑って茶菓子の用意をしている。

「まぁ、図太いオメーはどんなところでも生きていけるぞ、と」

 と、小声でレノがつぶやいた。もちろんヤズーに対してだ。

「……ところでルーファウス。傷の具合はどうなんだ。お世辞にも軽い負傷という程度ではなかっただろう。もう普通に生活ができるのか」

 やや真面目な声でそう訊ねたのは、あまり口を開くことなく茶を飲んでいたセフィロスであった。開口一番、それを訊ねると言うことは、この人なりにルーファウスを心配していたということだろう。

「ああ、普通にしている分には。まだ走り回ったり、無理な運動をすることはできないけど」

 と妙にしおらしくルーファウスが答えた。

「おまえには感謝している」

「セ、セフィロス……だが、結果的に、ヴィンセント殿を守ったのは、ジェネシスと君だろう。私は非力で……」

「いや、おまえが必死に粘らなければジェネシスも間に合わなかったかもしれん」

「な、ならばよかった。私でも少しは役に……」

 ルーファウスの頬がそうとわかるほどに上気する。

 ああ、この人、やっぱセフィロスのこと好きだったんだな〜とわかる。副社長というある意味なんでも手に入る立場にいたにもかかわらず、本当に欲しかったのはセフィロスだったのだ。もっとも手に入れにくいものを愛してしまったということについてだけは、俺も少々同情した。

「あのときの君は実に勇敢だった。自らの身もかえりみず、私を救ってくれた。ありがとう、ルーファウス神羅。あなたが今こうして元気そうに話をしてくれているのがとても嬉しい」

 ヴィンセントにまでそう言われて、今度こそルーファウスは頬を赤く染めた。ルードは顔色を変えないが、レノは普段見ることの出来ない社長のテレ顔をにやにやしながら鑑賞しているといった風情だ。

「ま、アンタが元気になったのはよかったよ。ヴィンセントのこと守ってくれたみたいだし。……それに神羅はWROに相当協力してるんだろう。いろいろ耳に挟むことも多いからさ」

「元ソルジャー・クラウド。それは私にとっての贖罪と……ビジネスだ」

「いずれにせよ、神羅のおかげで助かってる人たちが多いって言う事実は認めてる。それで、今日は何の話なの?いっとくけど、それとこれとは別問題で、感謝してるからって、なんでも引き受けるわけには……」

「ク、クラウド、まず話を聞かなくては」

 剣呑な俺の言葉を遮り、さりげなく先を促したのはもちろん、気の利くヴィンセントである。

 

 

 

 

 

 

「その……少々私的なことなのだ。だから言いにくくて」

 と、めずらしくもルーファウスは言い淀んだ。そう『ビジネス』の話ならば、滞りなくどんな無理な希望でも、つらつらと言ってのけるツラの皮の厚さをもっているくせに、これは遣り手の神羅社長としてはめずらしいことだ。

「あのな、今、神羅が表の仕事も裏の仕事もかなり軌道に乗ってきてるってのはわかるだろ」

 そう言ったのはヤズーの隣に座っているレノであった。

「裏の仕事〜って、まぁアンタたちがいるんだもんな、裏の仕事もあるよな」

 と俺は言った。

「バーカ、どんなビジネスでも、『裏』ってのは必ずあるんだよ。それを我らがタークスが引き受けているんだぞ、と」

「それで赤毛くん。ビジネスが軌道に乗っているんなら何の問題もないじゃない。ルーファウス神羅の個人的にな話っていうのはどういうことなの?仕事がらみじゃないの」

「ああ、いや……やはり、仕事がらみではあるのだ。ビジネスが順調にいけば当然利益も出る。そのうちの幾ばくかを再興に寄付しているわけだが……その、そういうことではなくて……実は……」

 どうにも要領を得ないルーファウスに、さらに強く問い詰めると、ようよう彼は重い口を開いたのであった。

 

 そう、それはまさしく人生の最高潮とも墓場ともいわれる不思議な一つの物語……

 『結婚』

 と、いう話であった。