20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「なぁんだ、おめでたい話じゃない。それで相手のお嬢さんは?式はいつなの?」

 と身を乗り出して楽しんでいるのは、もちろんヤズーだ。彼はこの手の話に関心が強いらしい。

「いや、違うのだ。結婚は……しなければならない状況に追い詰められている」

「なんだか悲壮感漂う話だな」

 と、セフィロスが人の悪い笑みを浮かべた。

「まったく……冗談事ではないんだ」

「したくないなら、『しない』って言えばいいじゃん。それくらい自分の意志で決めるのが普通だろ」

 と、俺がいうと、なんとなくいたたまれないようにレノが口を開いた。

「いやー、社長はこれでもずいぶんと抵抗してがんばっているんだぞ、と。最近、神羅カンパニーが大分持ち直してきたせいか、対外交渉ごとが増えててな。名刺交換するたびに結婚のことを言われれば、そりゃ社長だってうんざりもするだろうよ」

「ああ、なるほどね、『うちの娘をもらってください』攻撃ね〜」

 物わかりの早いヤズーが、顎に指を当ててうんうんと頷く。いかにもさもありなんと言った様子だ。

 先日のテレビCMではないが、腐っても神羅、しかも復興事業で今はプラスの方向に名前が売れている。もちろん、純利益も倍増となれば、神羅カンパニーとつながりを持ちたいと考える企業は多いはずだ。

 しかも、その社長がまだ若く、独身ともなれば……

「毎日毎日、どのように話を躱すか……中には脅迫じみた物言いをする輩もいるし、泣き落としに掛かる老人もいる。そろそろ身が保たなくなってきた」

 はぁと深いため息をルーファウスが吐き出した。

「それは……さぞ、お困りのことだろう。その……誠意を持って説明しても聞き入れてはもらえないのだろうか。今は結婚する気がないと……」

 ヴィンセントがルーファウスに、お茶のお代わりを入れ直し、言葉を掛けた。

「ええ、私も努力しているのだが……『今はしなくても良いから将来の約束を』と言い出されて」

「ああ、なるほど……」

「それでも、その気がないんだからしょうがないじゃないか。やっぱりはっきり断るべきだよ」

 と、俺はついキツイ口調になって言葉を重ねた。

「はぁ、やれやれ、相変わらず単純なヤツだぞ、と」

 と、レノに言われた。

「なんだよ、それ」

「ちょっと考えてみろよ、と。社長は気軽にお断りできる立場じゃないから、困って居るんだぞ、と」

「まぁ、確かにそうだろうね。復興に寄与しているのは神羅だけじゃないもの、兄さん。表立って名前は出さなくても、影で今の神羅を支えている企業や個人はたくさんあると思うよ」

 そう言ったのはヤズーだった。セフィロスも軽く頷いている。

「オメーは頭が回るな」

 と、レノが言った。

「いや、正直一番厄介な問題は、どの企業も多かれ少なかれ、ミッドガルの復興事業に融資してくれているからなんだぞ、と。下手な断り方をしてへそを曲げられちゃ、最終的に被害を被るのは、あのあたりに住んでいる避難民たちなんだ。エッジの街も含めてな」

 し……んと場が静まりかえる。

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、そ、その……お茶とケーキのおかわりを……」

 と、ヴィンセントが間が持てないというように、席を立った。

「それで?」

 そう訊ねたのはセフィロスであった。

「おまえが結婚問題で悩んでいるのはよくわかった。確かに娘を差し出そうとする連中は両の指でも数え切れないほどにいるだろうよ」

「あ、ああ、でも……私は、結婚など……するつもりはない」

 苦しげにルーファウスがつぶやいた。セフィロスに答えたというよりも、ほとんど独り言のように聞こえた。

「この遺伝子を次に引き継ぐつもりなどないんだ。……会社は誰か信のおけるものにまかせればそれでいいと考えている」

 ふたたび、沈黙が落ちるかと思ったが、機転の利くヤズーが上手に場を引き取った。

「まぁまぁ、考え方は人それぞれじゃない。今はそう言う相手がいなくても、後から巡り会える可能性もあるし、女の人じゃないかもしれないしね!」

「ヤズー……私は……」

「だからさ、今はこれ以上難しいことを考えないで、なんとかその『結婚しろ』攻勢を退けられれば良いんだよね。でも、現実的には、復興事業の利害関係も絡んでいるから、一筋縄ではいかないと」

「そういうことだぞ、と。そこでだ、コスタ・デル・ソルくんだりまでやってきた理由につながる」

 レノが何故か俺のほうを眺めてそう言った。

 

「クラウド、ルーファウス社長と結婚して欲しいぞ、と」

 

 その後の沈黙はこんな行間の空白でなど言い表せない。

 俺自身はともかく、ヴィンセントにセフィロスに至るまでも、沈黙したままマジマジとレノとルーファウスを見つめたのであった。

 

「む……レノ……その言い方は……」

 ぼそぼそと異を唱えようとしたのは、さきほどから一言も口を開いていないルードであった。

「いや、実際そんなもんだろーがよ、と。ああでも、本物のというわけではないけどな」

「あ……あ……アンタたち!何言ってくれてんのォォォ!」

 ようやく俺は爆発することができた。だが、ショックのあまりそれ以上言葉が続かない。

 俺とルーファウスが結婚!?

『おほほほ、あなた』『うふふふ、おまえ』みたいなあの結婚!?

 バカ言ってんじゃねぇ!ヴィンセントとだってそんな甘い新婚生活はしていないのに。