20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「いや、レノ。その言い方はあまりに性急すぎるだろう」

 困惑したようにルーファウスが口を挟んだ。困ってるのはこの俺のほうだっていうの。

「もちろん、正式な話ではない。ようは……その……護衛と、群がってくる企業のお偉いさんたちを納得させるために、だれか名のみの婚約者が必要なのだ。それで……」

「『ああ、なんだ、そういうことか』……なんて、俺がいうと思う!?」

「ちょっと待ってよ、兄さん。ルーファウス神羅の話を最後まで聞こう。今、『護衛』っていってたよね。まさか何かまた……」

 例のDGソルジャーの一件で、神羅カンパニーの周囲にはまだまだ危険な因子が多いのだと知った。実際ルーファウス自身も、ツヴィエートに撃たれ大怪我を負っている。ヤズーはそれを思い起こしたのだろう。

 ヴィンセントが不安そうな面持ちで、端のスツールに腰掛けた。

「いや、あれからDGソルジャーは見ない。絶滅した……とは言い切れないが、そういった連中じゃないぞ、と」

 とレノが応える。彼らはタークスとして、もっともルーファウスに近い場所にいるのだ。そいつの言葉ならば信用してもいいだろう。

「ま、ありゃ、神羅の古参連中と提携会社だろうな。それから、ウータイの過激派残党もまだ潜んでいるらしい。いずれにせよ、ルーファウス社長が、このまま神羅のトップでいるのがおもしろくない連中だぞ、と」

「タークスの皆にも気をつけてもらっているが……敵もなかなか去るものでな。ここは……先週、傷を作った。パーティ会場だったから油断した」

 左手首をまくり上げると、そこには白い包帯が巻き付けてあった。聞けば5針ほども縫ったという、ナイフの刺し傷らしい。

「ひどいことを……もう痛みはないのだろうか」

 ヴィンセントが痛ましげに眉を顰め、ごく自然にルーファウスの手をとる。彼は少々驚いた様子であったが、されるがままに手を渡していた。

「こちらが開催したパーティだ。あまり表だって警護のタークスの皆を会場に侍らせるわけにはいかない。出来れば側近くで危険を察知してくれる人物が欲しい。それが私の婚約者なら、一石二鳥になるのだ」

「ああ、なるほど、それで兄さんと結婚……っていうか、きちんと説明してよね、ようやく合点がいったよ」

 とヤズーが、レノに向かって文句を言った。

 

 

 

 

 

 

「つまり兄さんがルーファウス社長の婚約者になれば、うるさい連中もあきらめるだろうし、側近くにぴったりくっついていても不自然じゃないもんね。彼自身を狙ってくる不逞の輩も取り押さえられるという話しなんだ」

 ヤズーが話をまとめてくれてようやく理解ができた。つまり『結婚して……』というのは、迷惑な婚約者候補を追い払い、かつテロリストからルーファウスの身柄をも守るという、一石二鳥の方法だというのだ。

 

 なるほど……理解はできたが……しかし、俺は……

「その役目ってさぁ、だれか神羅の……ああ、普通の事務職の人じゃ無理だろうけど、タークスにも女性要員がいるじゃん。そーゆー人たちに頼めないの?」

 と訊ねてみた。

「いや、それも考えたんだが、私の周囲の人間は身元が割れてしまっている。私の婚約者ということになれば、連中は執拗に身柄を調べようとするだろう。絶対にそれとわからない人物が好ましいんだ」

 そりゃまぁ、今はコスタ・デル・ソルに居て、本当は男の俺なんて最適だろうけど……でも……

「でも、なぜ婚約者の役割がクラウドでなければならないんだ。このウチには見目の良いのが揃っていると思うがな」

 と、人ごとのように言ったのはセフィロスであった。

「ああ、そりゃアンタ、身長の問題だぞ、と。女装するにしても、社長よりちっこいのはクラウドだけだからな」

 ひょいと手を持ち上げて、レノのヤツが半笑いでそう言った。

「テメェ、レノ、ぶっ飛ばすッ!カダだってほとんど変わらないだろ!」

「まぁまぁ、クラウド。カダージュは臨機応変に動ける子ではないだろう。まだまだ幼いし……」

 本気でレノに殴りかかった俺を、ヴィンセントが止めに入る。

「だって、ヴィンセント〜ッ!やっぱ、こんなの引き受けられないよ。俺にはアンタがいるんだし、ずっとルーファウスの側にくっついてるとなったら、この家を空けなきゃならなくなる」

「いや、ある程度、周囲が落ち着くまでということでいいんだ。何ヶ月も側にいて欲しいとはいわない。長期に渡る場合でも、合間にこちらに戻れるように手配はするし、デリバリーサービスの件は、こちらからも助力を……」

「勝手に話進めんなよ、ルーファウス!……アンタにゃ悪いけど、他を当たってよ。結婚相手のふりなんて……俺にはヴィンセントがいるんだし、形だけでもそんな真似できないよ」

 俺はなんとか説得を試みようとするルーファウスを止めた。それ以上言われても、やはり引き受けるわけにはいきそうにない。