20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「……そうだな、やはりあまりにも都合のよい願い事であった。特に一月後には中間決算の発表があるゆえ、いっそう不安があって」

 柳眉と言ってよいであろう、ルーファウスの眉が、困惑した風にしかめられる。

「う〜……そういわれても、俺にだって生活が……」

「報酬も十分用意するつもりではあったが……そんなことよりも、元ソルジャー・クラウドの気持ちの問題が一番大きいというわけだな」

「そ、そうだよ。それに女装なんて……俺には無理だって」

 と、付け足した。

「いや、その点については大丈夫だぞ、と。いつぞや、オメーはクラブで女装して接客してだろう。胸にあんまん入れて」

「うっ……変なこと思い出させるなよ」

「そのとき、俺の股間はきちんと反応したんだぞ、と。つまり、おまえの女装はそれなりに……」

 ゴッとレノをぶん殴る。ヴィンセントの前なのに、恥さらしな昔話を思い出させたくなかったし、『股間が反応』などという生々しいセリフは聞きたくもない。

「とーにーかーく!悪いけどこの話はなし!」

「だ、だが、クラウド……それではルーファウス社長の身が……」

 と言葉を挟んできたのはなんとヴィンセント自身であった。俺的には少々ショックである。

「いや、良いんだ。これまでもなんとかしのいできたのだから」

「でも、もういい加減にそれも難しくなったから、わざわざ相談にきたんでしょう。その腕の傷だって、その位置なら一歩間違えれば動脈まで入っているところだよ」

「…………」

 ヤズーの言葉に、ルーファウスが逡巡する。

「おい、クラウド、引き受けてくれよ、と。デリバリーの仕事は、こっちも手伝うし、報酬も用意した。オメー以外に適任がいないんだぞ、と」

 そういうと、レノは胸ポケットから明細を書き連ねた封筒を取り出した。

 

 

 

 

 

 

「失敬、赤毛くん、参考までに見せてもらってもいい?」

 といって、ヤズーが横合いからひょいと封書を奪う。ヴィンセントも気になるようで、文書の中をのぞき込んだ。

「え……」

「うっそ……!」

 とふたりの声が重なった。

「どうしたおまえら。そんな法外な金額が書いてあったのか」

 セフィロスもおもしろがって、報酬額を確かめに行く。

 ふん、ようは金の問題じゃねーんだよ、俺のプライドと……どんな場合であっても、ヴィンセント以外の人を婚約者だなんて呼ぶつもりはない。いくら演技でもだ。

「ちょっ……ちょっと、兄さんッ!こっち、こっち来て!」

 ヤズーが血相を変えて俺の腕を引っ張る。

「あのな、ヤズー、たとえ報酬が良くても、もうそう言う問題じゃないからね、コレ。俺はヴィンセントの恋人なんだから。たとえどんな理由があっても、他の人間相手に婚約者だなんて……」

「いいからッ!この数字見て!」

 鼻息も荒く、ヤズーはぐんと俺の襟首を引っつかんで、文書を見せつけた。

 

 一、十、百、千、万……ええと、これって

 なんつーか、天文学的な数字が記入されている。

 

「この家をもう5、6個買っても十分おつりが来るよ!」

「ご、5、6個!?」

 つい先日建て増しと手入れをしたこの別荘……いや、別荘と呼ぶには、十分すぎる家だあろう。正直、実費も相当掛かってふところが寒い今日この頃なのだが……それだけお金を掛けた家が、5つ6つ買えてしまう金額だというのだ。

「兄さん!本当に断っちゃうの?別にお金に目がくらんだわけじゃないけど、ルーファウス神羅は怪我もしてるんだよ。側で護衛できる婚約者が居れば、彼の危険もずいぶんと減るじゃない。互いに予定を付き合わせて行き来すれば、そんな大きな負担にはならないんじゃないかな!」

 だからヤズー……完全に金に目がくらんでるじゃん。

 っつーか、瞳の中に、ギルが見えるんだけど……