20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「ねぇ、じゃ、ヴィンセントは引き受ければいいと思う?俺と離ればなれになってもかまわないってこと?」

 そう訊ねると、ヴィンセントはあからさまに困惑の色を、その美しいワイン色の双眸に浮かべた。

「そ、そんな……それは……そんなつもりではなくて、私だとておまえと離れるのは……つらく思う」

「だったら、やっぱ無理でしょ?一月以上離ればなれになるなんて……俺、がまんできないもん」

「まぁまぁ待ってよ。それについてはある程度解決できるんじゃない?ねぇ、レノ」

 といったのは、ずるがしこい……もとい悪賢い……もとい、頭の回転の素早いヤズーであった。

「言ってみろよ、と」

「だからさァ、兄さんとしても絶対に嫌ってわけではなくて、復興事業に精を出しているルーファウス社長を守りたいという気持ちはあるわけじゃない?」

「ああ、まぁ、それは……」

 オレはその点について素直に頷いた。今、孤児や家を失った人たちに必要なのは、巨大資本による救済措置に違いはないから。

「でも、最大の問題は、今回は『婚約者』って立場だから、かなり親密にルーファウス社長にくっついていなきゃならない。……となると、コスタ・デル・ソルの地理から考えて、中間決算の発表まで、まるまる1ヶ月以上離ればなれになっちゃうんだよね」

「そうだよ。さすがに1ヶ月も離ればなれなんて……俺は正直考えられない」

 そう言葉を重ねる。

「だったらさ、兄さんだけでなくヴィンセントもルーファウス社長と一緒に、ヒーリンやミッドガルへ移動したらどうかな。ま、俺としてはできれば家族ごと面倒見て欲しいんだけどね〜」

「おめぇな、経費ってモンが……」

「いや、レノ。それも選択肢のひとつとして考えてもよいのではないか」

 即座にそう言ったのは、ルーファウス本人であった。

「社長〜、今回は短くても一月以上なんスよ?ここの全員丸抱えで、どこに置いておくつもりッスか?ヒーリンやミッドガルでも、会社はまずいですよ、セフィロスなんかは面が割れてるっしょ」

「だったら会社ではなく、系列系のホテルか、私の別荘はどうだ?来客があるときだけ部屋に隠れていてもらえれば……」

 どうやらルーファウスは乗り気らしい。渋い顔をするレノ相手に今度は説得に回っている。おもしろいことに、ルードは置物のようにしゃべらない。

 

 

 

 

 

 

「オレもごめんだ」

 そう言ったのはセフィロスであった。皆一様に彼を見つめる。

「こそこそ逃げ隠れるような生活など冗談じゃない。こっちはこっちで上手くやってるから、ヴィンセントを連れて行け」

「そ、そうだぞ、と。とりあえずヴィンセントさんおひとりなら……」

 セフィロスとレノが、賛同しようとしたところ、悲痛な声が割って入った。

「セフィロス……!君は……君は一緒に来てはくれないのか?まさかひとりきりで、このコスタ・デル・ソルに残ると言うのでは……」

「別にひとりでも生活できないワケじゃないだろ。メシなら食いに出ればいいしな」

 フンとセフィロスは鼻を鳴らせた。

「そ、それは……それは君にしてみれば、神羅カンパニーのために骨を折るのは業腹かもしれないが……だが一月以上も離ればなれになるなんて……」

「まぁ、セフィロスが残るのなら、俺たちもコスタ・デル・ソルで待ってるから大丈夫だよ、ヴィンセント」

 慌てた様子でヤズーが取りなす。なぜなら彼は、今にも泣き出しそうな面持ちをしているからだ。

「そ、そんな……私だけ、クラウドと一緒に皆と離ればなれで……せっかく、家族で一緒にいられるようになったのに……」

「永遠の別れってワケじゃないんだ。大げさに考えるなヴィンセント」

 と、セフィロスがいったが、これはかえって言葉がよくなかった。

 『永遠の別れ』などという単語は、ヴィンセントにとっては禁句以外の何ものでもない。

「セフィロス……どうしても一緒に来てはもらえないのだろうか?別荘ならば何も逃げ隠れする必要もなかろう。人が集まったときなど、もともと君にとっては面倒くさいだけで、部屋でゆっくりしていればいいではないか。もう一度考えをあらためてはもらえまいか」

 必死に言い募るヴィンセントに、セフィロスがにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。

「ほう、そんなにオレと離れたくないのか?わずか一月程度であっても?」

「セフィ、やな言い方すんなよ!ヴィンセントは家族みんなで居たいって言っているだけだろ」

 俺がそう訂正すると、ヴィンセントがはらはらと涙をこぼした。

 セフィロスがあからさまに『ゲッ』と声を上げた。何も泣かせるつもりはなかったというのだろう。

 となりに座っているレノに、どんと突かれている。

「そういつでも皆で居たいのだ。君と離ればなれになるのは嫌だ。……わずかな間だけでも、どうしても我慢ならないんだ」

「どうしておまえはそうすぐに泣くんだ」

「君と離れることになるかと考えると勝手に出て来てしまう……」

「わかった!わかった!だが、言っておくがルーファウス所有の別荘だぞ。必要以上に逃げ隠れもしないからな!」

 セフィロスがため息混じりにそう怒鳴ると、ほとんどすべて決定という雰囲気になってしまった。

 まぁ、俺としても、あの天文学的な数字を捨てるのは、少々惜しいとは思っていたけど。