20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 クラウド・ストライフ
 

  

 それから一週間後、俺たちはエッジの郊外にあるルーファウスの別荘にいた。

 『こう』と決まれば、とにかく実働部隊の行動は早かった。

 適当に荷物をまとめたところにヘリが迎えに来て、着替えやら日用品などはすべて揃っているという話であったのだ。もちろん、身の回りのものくらいは持っていくことになったが、俺を抜かした他の者たちにとっては、ほとんど物見遊山くらいにしかならないだろうという感じだ。

 なんせ、今回はDGソルジャーを相手に大立ち回りをするわけではない。

 敵は……というべきか、相手は、ルーファウス狙いの婚約者候補たちとその親族、唯一危険をはらんでいるとすれば、ルーファウスの隙を狙って暗殺をもくろむ神羅の元軍部かウータイの残党だろう。それについては、側に付いている俺が気をつけなければならない。

 なんせ、ルーファウスの側にぴったりくっついていて違和感がないのは、『フィアンセ』である、このクラウド・ストライフだけなのだから。

 

「ほぅ、美しい……元ソルジャー・クラウド。いや、クラウディア」

「あっそ、俺は胸とウエストが苦しくてたまんないけど」

「いや……本当に美しくなるものなのだな……」

 俺の嫌みもものともせず、ルーファウスは側近くに寄ってきて、まじまじと俺を見つめた。

 今の俺は用意されたドレスに、軽いメイクをして、長い金髪のカツラ……もといウイッグとやらをかぶっているのだ。

 なるほど全身鏡を眺めてみても、これがあのかっこ可愛いクラウドだとは誰も思わないだろう。

 そう口に出していったら、レノがあきれ顔で、

「中身は変わらないぞ、と」

 といった。

 シャンパン色を基調にしたロングドレスで、やや大人っぽく裾は開いていないタイプのものだ。胸には詰め物をしてあり、腹から腰はコルセットで絞ってある。こんなんじゃ、せっかくのパーティの料理が食べられないと文句をいったら、今度はルーファウスにまで呆れられた。

 わざわざコスタ・デル・ソルくんだりからやってきて、女装までしてやってんだから、好きな物くらい食わせろと言いたいところだが、婚約者の立場としてはあまりがっつくのもよくないらしい。まったく面倒なことだ。

 

 

 

 

 

 

「失敬……入ってもよいだろうか」

 軽いノックの音がして、聞き慣れた声が聞こえた。もちろん、この低くて静かな声はヴィンセントだ。

 正直、女の格好を見られたくはないが、そうも言っていられない。

 ツレだってやってきた家族の中で、もっとも周囲に顔が知られていないのはヴィンセントだ。それゆえ彼にも少々の協力を頼むことになったのが、正直俺はあまり気が進まない。

「どうぞ、ヴィンセント・ヴァレンタイン。元ソルジャー・クラウドの支度も済んだところだ」

「失礼する……」

 そう言って部屋に入ったヴィンセントが、軽く声を上げた。

「ク、クラウド……?これはまた……」

「やだ、ヴィンセント、あんまし見ないでよ、みっともないんだから」

 俺はふくれっ面をしてそう言った。

「そ、そんなことはない。ストレートヘアのウイッグでずいぶんと雰囲気が変わるものだ。それから……メイクも。とても美しく仕上がっている……クラウド」

「そぅお?あー、もうヴィンセントにこんな格好見られるのすごい落ち込むんだけど」

「いや……女性の姿であろうと、どれほどおまえが愛らしく美しいのかということがよくわかった。そうして並ぶと、とてもお似合いのカップルに見える」

 俺の心も知らずに、ヴィンセントがにこにこと笑ってそう言ったのであった。

 

 ヴィンセントとタークスの皆が、席を外してしまうと、俺とルーファウスのふたりだけが残された。これからダンスの練習をするのだというのだ。しかも、ルーファウスと……!(あたりまえだ)

 

「元ソルジャー・クラウド、簡単なステップから始めよう。まず、ポジションだ」

「へいへい」

「その姿で男言葉だと違和感があるな……」

「おほほ、よろしくてよ!……これでどうよ」

「……まぁいいだろう。まず、手は私の胸のあたりに……そう、もう一方の手は私の手の上に置いて……これが基本形だ。ふむ思った通り、身長差も不自然ではないな、ちょうどいいくらいだ」

 ……むかつく。

 一応かかとの高い靴を履いているのに、ちょうどよいポジションが取れてしまう。

 ルーファウスの声に合わせて、足を退き、出し、くるりと回る。

「スピードはいいが、あくまでもダンスなのだからな。優雅さを忘れないように、もう一度最初から」

 パンパンと手が叩かれて、俺はふたたび最初のポジションから足を滑らせた。

「足を退いてから、ターンまでは一連の流れだと考えて動いてみてくれ。ひとつひとつの動作を区切らないように、滑らかに」

 ……なかなか厳しい野郎だ。

 一応、謝礼をもらっている以上、任務は果たさなければならない。

 俺はもう一度、ポジションを取ると、ルーファウスに手を預けた。