20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

「元ソルジャー・クラウド、大分良くなった。休憩をとろう」

「……アンタ、意外とタフだね。ただの坊ちゃんだと思ってたのに」

 わざわざ、タークスの連中を呼ばないで、手ずから茶を淹れてくれるルーファウスにそう言った。嫌みともとれるだろうが、一応誉めているつもりだ。

「一応神羅の跡継ぎだったからな。社交ダンスにスポーツ……いろいろと仕込まれてはいる」

「ふぅん、でもそれ、つまらなさそうだな」

「よくわかったな」

 そう言って笑った顔が、なんだかひどく大人びて見えた。

 

 神羅にいたころはもちろんのこと、その後もずっと嫌なヤツだと思ってきた。正直、今だって、虚心坦懐、心から協力しようという気分にはなっていない。あまりにも長い間、不愉快な気持ちを溜め続けてきたからだ。

「……そうして、優雅に茶を飲んでいると本当にレディのように見えるな、元ソルジャー・クラウド」

「自称な。喉が渇いたんだよ。今日のところはいいかげん、ここまでにしておかない?」

「……そうだな、まだ始まったばかりだ。根を詰めすぎてもよくないだろう」

 と、意外にもあっさりと、ルーファウスは請け合った。シャワーを浴びてくるようにといい、隣室のバスルームを貸してくれたのだ。

 

 男の姿に戻って、さきほどまでの部屋に行くと、ルーファウスはひとりで茶を飲んでいた。年代物のレコードが低い音のジャズを静かに流している。

 なんだかひどく意外な気がして、つい話しかけてしまう。

 

「アンタでもそんなの聴くんだ……」

「ジャズは好きだ。紅茶を飲みながら、ひとりで考え事をするのによく合う」

「ひとりがいいなら、俺、部屋戻ってるけど」

 別に嫌みというつもりでもなくそう応えると、いやというふうに手を振った。

「これは失敬した。そう言う意味ではない。……そこに座ってくれ、クラウド」

 『元ソルジャー・クラウド』ではなく、普通に名を呼ばれ、俺は素直に椅子に腰を下ろした。ルーファウスがまた新しい茶葉を出して紅茶を淹れてくれる。

 普段はポカリやいちご牛乳ばかり飲んでいるのだが、たまには薫り高い紅茶を口にするのも悪くはないと思った。

 ふたりで静かなジャズの音楽を聴きながら、ゆっくりと紅茶を飲む。

 一曲終わったところで、ルーファウスが曲名を教えてくれた。それもまた意外なことであった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アンタさ……」

 曲の邪魔にならないように、静かに口を開いた。

「なんだ?」

「『婚約者』なんて役引き受けちゃった俺が訊くのも何なんだけど……」

「なんだ?」

 ともう一度、同じ言葉を彼は繰り返した。

「好きな人さ……やっぱ昔と同じなの?」

「…………」

「ごめん、いきなり変な質問だったね」

 さすがに今のは直球過ぎただろう。それにあまりにもルーファウスの気持ちを無視した問いかけであった。

 その答えが『否』であったにしても、それでは誰なのかなどと問うほど俺たちは親しくなかったし、答えが『是』であったならば、ものすごく残酷な質問をしたことになる。

「……あやまる必要はない」

 穏やかにルーファウスがつぶやいた。その姿がどうしても昔の記憶の、あの傲慢で居丈高な『若様』には見えない。

「昔は……おまえにひどいことをした。すまなかった」

 唐突にあやまられて、俺はかなり動揺した。

「え、ちょっ……そんなつもりで訊いたんじゃないよ。昔のことなんて、別に……」

「いや、機会があれば謝罪しようと思っていた」

「ルーファウス……アンタ、なんか変わったね」

 と、言った。正直な感想だったから。

「そうか?そうかな……それをいうならおまえだとてそうだろう」

「お互い色々あったってことなのかな」

「ふふ……そういうことにしておこう、クラウド」

「いいんじゃね。アンタはいい男になったよ。セフィもそう言ってた」

「…………」

「ルーファウス……?」

「私は未練がましい人間なのだ、クラウド。さきほどの問い……答えは『イエス』だ」

「え……」

 思わず絶句したおのれに舌打ちをしたい気分になった。少なくとも驚くべきことではなかったはずだ。

 あのときも……あの当時も、どれほど歪んでいたとしても、自分勝手な思いをぶつけているだけであったとしても、ルーファウスがセフィロスを想う気持ちは本物であった。

 俺に対する理不尽な態度も、八つ当たりも、どれもこれもセフィロスへの真剣すぎる想いが引き起こしたものだ。

 知っていたはずなのに……