20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

「クラウディア、こちらへ……」

 パーティ会場では優雅に着飾った男女が、ダンスを踊っている。

 今日は、なんとか夫妻の結婚記念日とやらで、ルーファウスは招待を受けていた。そしてここで、クラウド……もといフィアンセ、クラウディアの登場だ。

 今日は濃紺に、金糸の縫い取りを施した豪華なドレスを身につけている。ウエストのコルセットが苦しいが、それにもようやく慣れてきた。

「ルーファウス」

 彼の名を呼んで、手を預ける。

「彼女はクラウディア……公にするつもりはありませんが、私の婚約者です」

「まぁ、お美しいお嬢様……とてもお似合いですわ」

「どちらのお家の……」

 口々に賛美の言葉や、それに紛れてクラウディアの出自を問う質問がなされるが、ルーファウスは軽くそれらを躱して、俺をワルツに誘った。

 よっしゃ、基本中の基本、このワルツならば踊れる。

 

 ルーファウスの手がやさしく腰に回され、手を取られる。

 こいつに抱かれて踊るのは、なんとも奇妙な気分になるのだが、徐々にそれにも慣れてきた。それにやはりこいつは……上手い!

 簡単なワルツひとつをとっても、もはや素人技には見えない優雅さで俺をリードしてくれている。

(上手いぞ、元ソルジャー・クラウド)

(まぁ、これは簡単だから。しかし、女の人たちの目線が怖いなぁ……)

(『神羅』と結婚したい女性はたくさんいるからな)

(それだけでもないんじゃない)

 と、俺たちは密やかに言葉を交わす。もちろん、他の人たちには聞こえないように。

 それがいかにも恋人たちの睦言に聞こえるようで、周囲の人々には仲の良いカップルに見えるのだろう。

 中にはハンカチを噛みしめている女性もいるし、なぜか呆けたように俺を見つめる男もいる。……このおっぱいは詰め物なのに……阿呆なヤツ。

 

 

 

 

 

 

「クラウディア、そろそろお暇しよう」

「はい、ルーファウス」

 俺はそう応える。

「こちらのリッチモンドご夫妻は、復興事業にも大変ご協力いただいている、とても懐の大きな篤志家であられるのだよ」

「クラウディアです。本日はお招きいただきありがとうございました」

 男の声とばれないように、気を使ってあいさつをするのは何とも疲れる。

「おお、もうお帰りになってしまうのかね、美しいお嬢さん。是非ともまたの機会が欲しいものだねぇ」

 手の甲にキスされるくらいは、一応契約のウチ、笑顔笑顔。

「ええ、またそのうちに……さぁ、クラウディア」

「え、ええ、ルーファウス」

 ルーファウスは俺の肩を抱きかかえるようにして、場を辞した。ひっそり護衛についているタークスの連中がすぐに表に車を回す。

 俺とルーファウスが乗り込むと、スムーズに発進した。

 

「すまん、元ソルジャー・クラウド。あの夫の方は美女と見ると目がない男で……悪い人物じゃないんだが……」

「いいよ、別に手袋の上からキスされるくらい。それより早くコルセット取りたい」

「ああ、ここは別荘からそれほど離れていないからな、すぐにだ」

 ルーファウスの言葉に、俺は少々トーンを落として、

「気ィ使いすぎ」

 と言ってやった。

「もらうもんもらってんだから、あれくらいはへいちゃらだって。あんまり神経質になるなよ」

「いや……私も『フィアンセ』に馴れ馴れしくされるのは不愉快だからな」

 なまじ冗談ともとれない口調で、ルーファウスがそういった。

「今日はワルツも踊ったし、その……この前のドレス姿以上に美しく整っている。この私でさえみとれてしまうほどだ」

「何いきなり誉めてんの。それはドレスがよかったんでしょ」

「濃い紺色はとてもおまえの髪と瞳に似合うのだな。今日、あの場に居合わせた女性たちも、おまえ相手に勝負を仕掛けようという猛者はいなかったようだ。それだけ美しく変身しているというわけだ」

 そういいながら、ルーファウスはほんの少し乱れていた、俺の髪を直してくれた。いや、正確にはウイッグだが。

「あんまりやさしくするなよ。俺は元ソルジャー・クラウドだぞ、と」

 とレノの口まねをして身を躱すが、ルーファウスは、

「それでも美しいものは美しい」

 と言った。そしてたとえかりそめであっても、今は私の婚約者だと言って笑ったのであった。