20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「フォックストロットって難しいね〜……」

 今日も今日とて、ダンスのレッスンに余念がない。

「スロウスロウ、クイッククイック、身体にリズムを覚えさせてしまえば問題はない」

「いやもう俺的にはワンステップでせいいっぱいってカンジ」

「元ソルジャー・クラウドは運動神経はよいのだから、むしろこちらのほうが性に合っているのではないか」

「ん〜……」

 毎日こうして、ルーファウスと、息を合わせるためにも、練習を繰り返しているのだが、それほどストレスに感じていない自分が不思議だった。

 あれからルーファウスと茶飲みがてら話をする機会があったせいかもしれない。あの後も、二、三回は一緒に食事をしたり、アフタヌーンティーを楽しんでいる。これでは本物の婚約者のようだ。

 そんな阿呆なことを考えていると、扉がノックされた。

 

「ああ、どうぞ」

 ルーファウスが俺にタオルを渡しながらそう応えた。

「失敬する、クラウド、ルーファウス神羅、差し入れを持ってきた」

「よぅ、やってるか」

 入ってきたのはヴィンセントとセフィロスのふたりであった。

「あ、ちょっと、何ふたりで仲良く一緒に来てんの!セフィ、離れて離れて!」

「ぷっ……ずいぶん、あからさまなんだな」

 思わずと言った様子でルーファウスが笑う。

「だって!俺がダンスの練習している間、心配なんだよ!ヴィンセント、セフィにいじめられてない?もう、ヤズーたちがしっかりフォローしててくれればいいのに、遊び歩いてて!」

「ク、クラウド、セフィロスに失礼だ。私のことは何の心配もいらない。タークスの人たちにもよくしてもらっている」

 バスケットから焼き菓子を皿に並べ、ヴィンセントが困惑したように応えた。

「ヴィンセント・ヴァレンタイン、あなたにまで助力を乞うことになって申し訳ない」

 とルーファウスが言った。

「いや、私は大した働きはしていない。先日のパーティも注意を払っていたつもりだが、いわゆる『刺客』というような輩はいなかったな。これからも十分注意をしてくれたまえ、ルーファウス神羅」

「ああ、なるべく気を付けるつもりだ。だが……つい話し込んだり、ダンスを踊るとなると、気が逸れてしまうな」

「ああ、まぁ、その辺は俺が一緒なんだから大丈夫でしょ。一応頼ってくれていいよ」

 そのための婚約者でもあるのだから、俺はルーファウスに安心するように言った

 

 

 

 

 

 

「ところで今練習していたのは、フォックストロットか。クラウド、どうだ、少しは以前より踊れるようになったのか」

 セフィロスがさっそくヴィンセント持参の茶菓子を頬張りながらそう訊ねてきた。

「フツーのワルツはなんとかいけるんだけど、フォックストロットの難しいヤツはね、スロウスロウ、クイッククイック……と、今身体に覚えさせているところ」

「ただ、漫然と繰り返してステップを覚えるのではなく、上手いヤツのを見てカンジをつかむのも大事なんだぞ。……そうだ、ルーファウス!」

 がぶがぶと紅茶を飲み干すと、セフィロスはCDの準備をしていたルーファウスに声を掛けた。

「おまえ、フォックストロットの曲はどれも得意だったな。女性パートは踊れるか?」

「え……ああ、まぁ」

「それなら都合がいい。クラウドに教えるときは、まず手本を見せてやってから教えると効率がいいぞ。『四つの銅貨』あたりでどうだ」

 セフィロスがさっさと曲目まで指定してしまう。『四つの銅貨』はスローフォックストロットの中でも有名な曲だ。パーティでも流れることが多いので、覚えられればよいのだが……

「ルーファウス」

 セフィロスが、手を差し伸べる。

「え、あ、ああ」

「どうした、得意だろう」

「そう……だな。女性パートを踊る機会は少ないが」

「リードはオレだ。いつもどおり踊ればいい」

 そういうと、曲に合わせてふたりがステップを踏み出した。スロウスロウ、クイッククイック……

 ……うわぁ、ルーファウス上手い!

 もちろん、男性パートのセフィロスが踊れているのは当然だが、ルーファウスの女性パートはなんて滑らかで美しい動きをするのだろう。

 ゆるりと足を出したらクッと引いて、セフィロスの腕の中でくるりと回る。

「すばらしいな……」

 小さくつぶやいたのはヴィンセントであった。

「ホントだ……」

 今、ルーファウスはどんな気持ちで、ステップを踏んでいるのだろう。セフィロスの腕の中で、優雅に可憐に舞う彼は、心の底から綺麗だと思えた。

 別にドレスを着ているわけではなく、化粧を施しているわけでもない。

 だが、わずかな迷いもなく軽やかにステップを踏むルーファウスは、本当に美しかった。その動きも、表情も、足の運びひとつをとっても、艶やかで徒めいていて、曲が終わったとき、思わずヴィンセントと一緒に思い切り拍手を送ってしまったほどであった。