20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

「とても素晴らしかった……ふたりとも!」

 ヴィンセントが惜しげもなく拍手する。

「い、いや、セフィロスのリードが良かったから、なんとか踊れたといったところだよ、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「昔からフォックストロットは得意分野だもんな、ルーファウス」

 よく覚えているというようにセフィロスが言った。

「いいか、クラウド。おまえの場合、動きはいいんだからあくまでも相手と呼吸を合わせることを意識しろ」

「う、うん、わかった。……でも、なんで、セフィロスとルーファウスってそんなに上手く合わせられるの?ルーファウスだって、普段は男役で踊るわけだろ」

 不躾にも思わずそう訊ねてしまう。それほどふたりの息がぴったりと合っていたのだ。

「さぁな。だが今のはルーファウスがオレに合わせてくれていた。だよな?」

 と、セフィロスが彼にたずねる。

「いや、意識していたわけではない。リードに任せていただけだ」

「コレが正しい女性パートだぞ、クラウド」

 といって、話は終わりだというように手を振った。

「そうだ、ルーファウス、脇腹の傷はどうだ。確か一番深かったのはそこだろ」

 やや唐突な質問だが、もともとこの部屋にやってきたのは、それを訊ねるつもりだったという。コスタ・デル・ソルに彼らがやってきたときにも、同じことを質問しているにもかかわらずだ。

 セフィロスなりに、ルーファウスのことを心配しているのだということが、なぜか俺には嬉しく感じた。

「え……あ、ああ。激しい運動をしなければ」

「そうか……肩と脇腹だったよな。おまえはそれほど頑丈なヤツじゃないんだから無理をするな。さっきのダンス……大丈夫だったか?」

「ダ、ダンスくらいならば問題ない。……それより君が私の心配をしてくれるとは思わなかった。その……ありがとう」

「なんだ、別におかしくはないだろう。数年見なかっただけなのに、おまえはなかなかいい男になったぞ」

 セフィロスの言葉に、ヴィンセントが微笑んでいる。

 ルーファウスの顔が、まるで朱を刷ったように真っ赤になってしまったからだ。

「め、面と向かって恥ずかしいことを言わないでくれ。……私は昔のままの意気地なしだ。何も変わっていない」

「意気地なしが他人を庇って負傷なんぞできるか」

 そうなのだ。ルーファウスの肩と脇腹の大怪我は、あのとき目の見えなかったヴィンセントを守ってのことであった。

 そう考えれば、ルーファウスは俺にとっても恩人ということになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 セフィロスとヴィンセントが部屋を出て行くと、しんと静まりかえってしまう。それだけあの英雄は存在感があるということなのだろう。

「そうだったよな、アンタ、大怪我してたんだ。あんまり動き回っちゃまずいよな」

「ふ……出血は多かったが傷口はそれほど深くなかったんだ。銃弾が掠めたような感じだったからな」

「いずれにせよ、ヴィンセントを守ってくれたんだよな。俺まだそのお礼言ってないや。ありがとうな、ルーファウス」

 きちんと頭を下げて礼を述べると、ルーファウスはやめてくれというように手を持ち上げた。

「結果的にそうなっただけで、ただ、私が間抜けだっただけだ。あれから一応、銃の扱いはレノやルードに教わっているんだ。今度はきちんと誰かを守りきれるようにとな」

「へぇ、そうなんだ。ま、護身用としても扱えて損はないよ」

「ああ、そのつもりだ」

「ねぇ、ルーファウス。まだ、顔、紅いよ」

 と、つい意地の悪いことを言ってやる。

「なっ……バカな」

「ははは、ホントだよ。今日はもう終わりにしよう。俺、アンタの傷のことほとんど忘れてたよ」

 そういうと、

「さぼりの口実にはならないぞ」

 と、ルーファウスが笑った。

 

 俺の好みに合わせてみたという南国風のトロピカルティーを飲みながら、またふたりでソファに並ぶ。

 最近、シャワーの後は、ほとんどこんな風にして過ごしている。

 とはいっても、まだ3日程度だから、『ほとんど』などというのはおかしいのかもしれない。

「……なぁ、セフィに……言えばいいのに」

「何をだ」

「決まってるだろ。アンタの気持ちだよ」

 やや性急に俺はそう言った。

 確かに今のセフィロスには、ヴィンセント似の支配人さんもいるし、いわゆるそういう関係になれるわけではないだろう。

 でも、『特別』にはなれるのではなかろうか。特別に大切な友人のポジションならば……

「……迷惑を掛けるだけだ」

「そんなふうには思われないんじゃないかな」

「だったらいいな……」

 といって、ルーファウスは儚げに微笑んだ。

 この人……俺と同じ、金髪碧眼だが、どちらも色味がずっと薄いのだ。プラチナブロンドに、湖面のような双眸を持っている。

「ルーファウス、綺麗じゃん。セフィ、綺麗な人好きだよ」

「ぷっ……なんだ、それは」

「本当のことだったら。俺とのことだって、最初は容姿に惹かれてのことだと思う」

「それはそれはずいぶんと自信家だな、元ソルジャー・クラウド」

 と、少しばかりおどけた風にそう言った。

「ホントなんだってば!……ルーファウス、ちょっと俺に似てるじゃん。それにセフィ、アンタのこと見直してる。すぐに……は無理かもしれないけど、好きだって気持ちは大事に持っててもいいんじゃないかな」

 そこまでいって、またもや言い過ぎた!と反省する。そもそも人を想う気持ちなど、自分でどうこうできるものではないのだ。

「またよけいなこと言っちゃったかな。でもね、前に言ってたみたいに嫌われてるなんて考えない方がいいよ。それだけは確かだ」

「そうか……それならば嬉しいな」

 と、彼は独り言のようにつぶやいたのであった。