20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

『正面玄関異常ありません』

『駐車場問題ないぞ、と。これよりヒーリンへ発進するぞ』

『レノ、安全運転で』

 上からイリーナ、レノ、ルードの順番だ。

 ヒーリンは療養所などが多い場所だが、今日はそこの地主に招待されているということだ。ルーファウスとしては、それらのいくつかを融通を利かせて欲しいという折衝をするつもりなのだろう。

 車の中でまで熱心に資料を読み込んでいる。

「おい、ほどほどにしておけよ、ルーファウス。少しは休めよ」

「え、ああ、大丈夫だ」

「大丈夫じゃねーよ。顔色悪いし、今日はあまり踊らないでニコニコしてような。俺もとなりでテキトーに笑顔作っておくし」

「ふ……ははは、わかった。我が婚約者殿におまかせしよう」

 今日のルーファウスは、比翼仕立てのドレスシャツに黒の上下というややストイックなファッションだ。ヤズーじゃないが、こいつの容姿ならふんだんにレースを使った白の上下でも似合いそうだが、ルーファウスとしては、すでに婚約者が居ると言うことと、神羅の社長ということで、敢えて年齢以上に大人っぽい服装をしているらしい。

 もっとも、仕立ての良い、シンプルな黒の上下もルーファウスにはよく似合っていたが。

 ちなみに俺は、水色のマキシム丈のドレスを着ている。いつかの濃紺の裾引きに比べると、割と愛らしい感じだ。

 今夜はガーデンパーディということだし、若い人たちが多く出席するということで、雰囲気を合わせたのだ。

「……今日の元ソルジャー・クラウドは、可愛らしい感じだな」

「あ?何言ってんの。ドレスとか髪型選ぶのはそっちでしょ」

「ふてくされるな、誉めているのだ。今日は婚約者攻勢が激しそうだからよろしく頼むぞ、クラウド……いや、クラウディア」

「ああ、まぁそういうのは任せてよ。うるさく言い寄ってくるのがいたら、俺の色気で勝負にならないことを教えてやる」

「おいおい、言っておくが戦闘のミッションじゃないんだぞ、と。嫉妬に狂った女は怖いからなぁ。十分気をつけろよ、と」

 運転しながらため息混じりにレノがそう言った。

「フン、今日のクラウディアだって、キレーだろ。その俺に勝負しかけてくるなら、一刀両断、ルーファウスから撃退してやる」

「社長……どうもこころもとないぞ、と」

 そういいながらも、レノはけらけらと笑っている。どうせ護衛として参加するなら、自分たちもパーティ会場では、十分に楽しませてもらおうと考えているのだろう。

 だが、残念ながら、そうはいかない。

 クラウディアはミッションを完璧にこなすのだから。

 

 

 

 

 

 

「ルーファウスさま……!」

「まぁ、ルーファウス様、本日はこられると伺って、父に無理をいってしまいましたわ」

「わたくしも……お久しぶりですわね。ルーファウスさま……少しおやせになったのでは」

 おおっと、今日はどうやら、本当にやりがいのあるステージらしい。

 ルーファウスと俺が会場に入っていくと、主催のご夫婦よりもまず先に、妙齢の女性たちが押しかけてきた。なるほど、こういった連中が、神羅カンパニーの『妻』になりたがっているんだな。

「やぁ、お嬢さんがた、しばらくぶりですね。ここのところ多忙で……なかなか顔を出すことができませんでした」

 ルーファウスも至極丁寧に答えている。きっと、小山のように集まってきた女たちも、名のある資産家のご令嬢といったところなのだろう。神羅カンパニー総帥の妻として遜色のない教養有る美しいお嬢さん方だ。

 レノが入り口付近の死角から、俺に向かって指示を出す。

『クラウド、いや、クラウディア仕事だぞ、と!』

 わかってるさ。今日はこの女の子たちを追っ払って、疲れているらしいルーファウスに休養を取らせなければならない。

「失礼、ルーファウスは疲れているようなので、あちらで飲み物でも……」

 俺は不躾にならないよう、女性たちとルーファウスの間に割って入った。

 パッド入りの胸を強調するように、ずいと身を乗り出す。

「まぁ……どちらのお嬢様かしら」

「ルーファウス社長とお親しいご様子ね」

「青いドレスがよくお似合いですこと。ご親族の方かしら……?」

 口々に訊ねてこられ、辟易するが、ここは一発言ってやらなければならない。

「おほほ、わたくしはルーファウスのフィアンセですの」

 どこぞのマンガで見たような、片手は腰、もう一方の手で高笑いをすると、俺は堂々と『婚約者』だと言ってのけた

 わっと歓声があがるのは、いかにお貴族様なお嬢さんたちであったとしても致し方がないところだ。