20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

「あなた……ルーファウス様の婚約者って……いったいいつ……」

「おほほほ、いつでもようござんしょ。愛に時間は関係なくてよ」

 俺は思いきり高笑いしてみせた。なぜかルーファウスが不安げな面持ちでこちらを眺めている。

「あ、あら、まだお名前もお尋ねしていなかったわ。どちらのお家のご令嬢なのかしら」

 ずんずんと輪を狭くして、女の人たちが迫ってくる。身の危険は感じないが、これはこれでなかなかの迫力だ。

「わたくしの名はクラウディア。ルーファウスと親しい関係だとだけ申し上げておきますわ。今日のルーファウスは疲れ気味なのですよ。そっとしておいていただけないかしら〜」

 『おほほほほ』とお愛想笑いをしながら、俺はそう言った。

「そ、そんな一方的に……」

「わたくし、本日はルーファウスさまと踊っていただこうと……」

「このところ、ルーファウスさまとお話しする機会がなかったと思っていたら……このような……」

 女性陣にとってはどうにも不満なのだろう。それはそうだ。

 久々にパーティに顔を出したと思ったルーファウスが、婚約者を連れていているなどということは。

「おほほほ、恋は唐突に訪れますのよ、お嬢さん方。彼はわたくしの恋のとりこ。……どうぞ生温かい目で見守って遣ってくださいな」

 くるりと踵を返すと、俺、クラウディアはルーファウスの手を取った。

 

「さぁ、ルーファウス、楽になさって。何か食べられそうならとってくるわ」

 クラウディアは花が開くように、ルーファウスに微笑んだ。

「あ、いや、では飲み物を……」

「そうね、軽いシェリーにしましょう。座ってらして」

 バーテンダーからグラスを受取り、一方をルーファウスに渡す。そのときに、俺は即座に耳打ちした。

「いやー、なかなか壮観だねェ、あの辺りにいる女の子たち、ほとんどルーファウスファンクラブじゃん!」

(ク、クラウド声が大きい。だが、主立った女性たちが集まっているな。気をつけてくれ、クラウド)

(任せろよ。女相手に遅れはとらねーって)

 ふふんと、胸を突き出すようにして俺はそう言ってやった。

 

 

 

 

 

 

(あの方……どちらの縁戚の方?)

(クラウディアさんって……聞いたことありませんわ)

(お身内なのかしら?それともカンパニーの取引先などの……)

(でも、とてもお美しい方ですわ。到底かないませんもの……)

(背がお高くてモデルのような方ね。金の髪と碧い瞳が……ああ、うらやましいこと!)

 

 ……女が噂好きという話は聞いていたが、俺は十数名はいる妙齢の女たちの恐ろしい熱照射を受けていた。

 そろそろ腹も減ってきたし、主催の夫婦へのあいさつも終えた。

 

 ……食べに走りたい……

 この欲求を抑えるのはなかなかつらい。

 広いパーティ会場内には、あらゆるところに美味しそうな料理が並べてあり、若い男などはわりと遠慮なく取って食べている。

 もっとも、年頃の女性で食い気に走っている輩は見かけないので……くそ、なかなか不自由なものだ。

 

「ルーファウス、なんか食べる?俺、取ってきてやるよ」

「……いや、今の我々の姿を考えれば、食べ物をとってくるのは私の役目だろう。仕方がない。行ってくるがここでおとなしく待っているんだぞ」

「了解、了解。空きっ腹に酒だと悪酔いするだろ。おまえもちゃんと食べろよ」

 そう言ってルーファウスを送り出す。

 まぁ、その間は手持ちぶさたではあるけど、休憩用のソファに腰を落ち着けて待っていることにした。

 しかし、まるでその隙を狙ったかのように集まってきたのは、今度は男連中だ。こんな大きなパーディ会場なので、何かされる心配はないが(しようもんならしてみろ!)、ヴィンセント以外の男にかこまれても嬉しくもなんともない。

 

「失礼、レディ……。ルーファウスの友人です」

「君が彼の恋人だとは……初めて耳にするよ」

「ルーファウスめ、こんなに綺麗なお嬢さんをいったいどこに隠していたのか。おなまえはクラウディアさんというそうですね」

「金の髪と、青い目に吸い込まれてしまいそうだ」

 ……そんなら、吸い込まれて勝手に死ねといいたいところだが、今の俺はルーファウスのフィアンセだ。さすがに乱暴な態度を取るわけにはいかない。

 適当にお愛想笑いをしていたが、こんな気色の悪い優男どもの相手は、けたたましい女相手と同等以上にストレスになるのであった。

 

「ルーファウスとはどちらで……?」

「ああ、いや、クラウディアさんはどこのお家の方で……」

「おほほほ、ル、ルーファウスとは神羅の本社で会ったのが初めてかしら。私のことはまだ内緒に……ではこれで失礼……」

「あ、クラウディアさん、是非ともダンスのお相手を……」

「え、ええ、そのうち。今はルーファウスが待っているようにと申しておりまして……ごめんあそばせ」

 と、俺は席を外そうとした。

 だが、それを待ってましたとばかりに、逆サイドを固めやがった連中がいる。

「お待ちください、クラウディアさん、わたくしたちともおしゃべりしましょうよ」

「そうですわ、神羅の社長を射止めたお美しい方と、もっといろいろとお話ししたいわ」

 そう、さっきの女どもだ。

「ご、ごめんなさい、私とルーファウスのことはまだ内密に……と彼から言われているので……」

「あら……でも、今日のパーティでは婚約者だとお話していらっしゃいましたわよね」

「そうですわ。せめて、ルーファウスさまのことだけでもお聞かせ願えませんかしら」

 ……あながち、ミーハーとも言えないのは女性たちだ。

 どうやら本気でルーファウスを慕っているふうの少女らもいる。

 いくら演技とはいえ、完全に無視して逃げ出すのは容易なことではなさそうだった。