20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

「ええと、その……ルーファウスのことならば、少しは……」

 俺の出自だの、家系だのというプライバシーに触れることでなく、クラウディアとして、ルーファウスとどうつきあっているのか程度のことならば、彼女らの好奇心を満足させてやれそうであった。

「さきほど、ルーファウスさまに初めてお会いしたのは、神羅本社だとおっしゃいましたわね。第一印象はいかがでしたの?」

「第一印象……チッ、くそスカした野郎……じゃなくて、ええと、その……あ、頭の良さそうな人だなと……」

 地声になりそうなのを何とか踏ん張って、クラウディアとして答える。

「で、では、こ、告白……というか、お付き合いをするようになったのは、どちらから……」

「ほほほ、もちろん、ルーファウスにお願いされてですわよ。ま、まぁ、今はフィアンセですので、わたくしもルーファウスをあ、あい、愛しておりますけど」

 くそっ!ヴィンセント相手以外には、ぜったいこんなセリフ言いたくなかったのに。今の流れじゃどうしようもないじゃないか。

「うらやましいわ、クラウディアさん。ルーファウスさまはなんとおっしゃったの?『君を愛している』かしら『それとも結婚しよう』といきなり……?」

「え、そ、それはその……ま、まぁ、言葉で打ち明けられて……あの……」

「『愛している、クラウディア。私のものになってくれ』」

 ここ数日で聞き慣れた声が、耳元で響いた。そのまま、俺はぐいと引き寄せられると唇にキスをされたのだった。しかも軽い口づけではない。女性の前でははばかられるような舌先の忍び込んでくる深いキスだ。

 もちろん、当の相手はルーファウスその人である。

「うげッ! ル、ルーファウス……!てめぇ……じゃねー、あなた、いきなり何するの!」

「失礼、お嬢さん方、クラウディアは照れ屋さんなのでね。なかなか上手にしゃべることはできないのですよ。……せっかくの週末なんだ。私とクラウディアにふたりきりの時間をください」

 そういうと、俺はルーファウスに腰を抱かれるようにして、集団から引き離された。

 

 ……やれやれという気持ちと、唇にキスをされたという事実が入り交じって、なんだか妙に落ち着かない気分にさせる。

 

「……ほら、クラウド。食べ物だ。これくらいならば、食べてもおかしく思われないだろう」

「おい、ちょっ……ルーファウス!さっきのキスはなんだよ!あんなの予定に入っていなかっただろう」

「大の男がキスのひとつくらいで、そう執拗に抗議しないでくれ。あの場所から引っ張りだすには、もっとも効果的だったろう」

 そういって、ルーファウスは皿の上のローストビーフを切り分けてくれた。まるでそうしなければ、俺がそのままかぶりつくのではないかというように。

「……ったく、俺の口づけはヴィンセントのためだけに……」

「それでは後で、くれぐれもヴィンセント・ヴァレンタインに謝罪しておくことにしよう」

 皿を俺に手渡しながら、ルーファウスはこの上なく楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

「なんだよ、どうしたの?」

 しっかりと取り分けてもらった料理を食べながら、俺はルーファウスに訊ねた。

「いや、携帯に着信が入った。……まいったな、連絡するなといってあるのだが……急用なのだろう。ちょっと手洗いに行ってくる」

 そう言い置くと、ルーファウスは早足で会場から出て行った。

 またもや、物見高い人々に囲まれてしまうのではないかという心配は杞憂だった。

 なぜなら、彼がすぐに戻ってきたからだ。

「ヒーリンの私邸にすぐにいかなければならなくなった。あそこには重要機密が置いてある」

 ルーファウスが声を潜めてそう言った。

「こことは別件だ。寺院の関係者から至急連絡を取りたいと言ってきたらしい。……大きなチャンスだ」

「ふーん、よくわかんないけど、孤児院が関係しているってことだよね。だったら、その資料取りに行って、すぐ現場に直行すべきじゃない」

「ああ、だが……こちらのパーティも規模は小さいが大切な関係者のものなのだ。中座するのは礼を失するのだが……クラウド」

 最後にいきなり名を呼ばれて、ちょっと驚いてしまった。

「私は中座せざるを得ないから……ここの後を任せて大丈夫か?レノは置いていくから、後は適当にあしらって、終了後すぐにエッジの別荘のほうへ戻ってくれ」

「ヒーリンの別荘、すぐ近くっていっても大丈夫なの?レノについていってもらったら?俺はタクシーでもなんでも拾って帰るし」

 そういうと、指をたてて頭を振った。そんな気障なしぐさも、スーツでビシッと決めたルーファウスならば、なかなか決まってる。

「おまえは今、私の婚約者のクラウディアなんだぞ。そんなことをされては怪しまれるし、第一不自然すぎるだろう。神羅カンパニー総帥の未来の妻が、タクシーを拾って帰宅するなど、翌日にはあっというまに社交界に広まってしまう」

「ふーん、そんなもんかねぇ」

「そんなものなのだ。ここから私の別荘は車ならば十分もかからない。そこからすぐに聖カタリナ教会へ移動しても……ふむ、間に合うはずだ」

 ルーファウスは時計を見ながらしきりに頷いていた。この辺のことになると、もう俺にはわからない話だ。

 彼はパーティの主催者ら、話を付けてくると言って、さっさと踵を返した。

 こうなったら、後のシゴトは、なんとか怪しまれずに、お開きまでクラウディアちゃんを演じることになるのであろう。

 まぁ、レノも影から見守ってくれているし、俺の方は問題なかろうが……

「じゃあ、クラウディア。すまないが先に失敬するよ。ここの主人の車を出してもらえることになったから」

「そっか、わかった。じゃ、俺は適当に引き上げるから、それでいいんだろ」

「ああ、そうしてくれ。疲れているのにすまないな。レノによく言ってあるから」

 そういうと、ルーファウスは、携帯電話をいじりながら、足早に会場を後にしたのであった。