20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 ……これが失敗だったのだ。

 俺がうかつすぎた。

 そう、いつでも後からそのことに気付く……いや、気付かされるのだ。

 

 ルーファウスが立ち去った後、俺だけがあまり遅くまでおじゃましているのもおかしいと思い、レノを促して退席することにした。

 

 ご招待いただいたご夫妻に、丁寧にあいさつをすると、ルーファウスにはこちらのおうちの車を運転手付で貸したので心配しないようにとやさしく言われた。

 ……なんというか、金持ちってみんなこんなふうなのだろうか。

 招いてもらったのはこっちなのに、最後まですごく親切でやわらかな対応をしてくれる。レノがいうには、パーティ会場にはまだ神羅関係の企業の者たちが大分残っているので、婚約者が退席するのも、問題ないだろうという話であったが、わざわざ手みやげまで頂戴するとひどく申し訳ない気分になってくるものだ。

 綺麗な小箱に入ったお菓子を頂戴すると、わざわざ玄関口まで送ってくれようとするので、それだけは必死に辞退し、俺はレノの運転する車に乗り込んだ。

 ……一応、最後まで、『クラウディア』であることを疑われずに済んだのだと思う。

 

 そしてその十分後、俺は信じがたい光景をバックシートから見ることになった。

 

 ドンッ!

 

 と、思い地響きがすると、さきほどまで俺たちが歓談していた屋敷が火柱に包まれていた。

 まだほんの少し……十分屋敷が見える範囲にいた俺たちが見間違いようはずがない。

 何の火種もなく、屋敷が唐突に炎を噴き上げたのであった。

 

 ……何なんだ?

 一体なにが起こった?

 

「クラウド、つかまっていろよ、と!」

 そういうと、レノがアクセルをグンと踏み込む。のんびりしていては巻き込まれる恐れがあると考えてのことだ。

「な、なんだよ、あれ!なにが起こったんだよ」

「クラウド、みやげにもらった箱を窓から捨てろ、早くしろよ、と!」

 レノに怒鳴られて。俺は綺麗に包まれた小さな箱を、窓から投げ捨てた。それは爆発することはなく。草むらに吸い込まれるように姿を消したのだった。

 

「レノ!今の……屋敷が爆発したのって……」

「現時点ではなにもわからない。だが、自爆……だとしたら、社長が危ないぞ、と!」

 キキキキィと車体が斜めに浮き上がるようにドリフトさせ、レノはものすごいスピードで別荘へと帰途を急いだ。

「じ、自爆……?なんで、だって、屋敷に人はまだ大勢いたんだぞ。神羅関係の人間だって多かったはずだ!……そ、それにそんなことするような人たちには……」

「見かけで判断するなよ。神羅を憎んでいる人間たちは、そこかしこに潜んでいるんだぞ、と!」

 レノがそう言ったときだった。

 あの親切そうな老夫婦が……?ルーファウスの賛同者たちを道連れに……?

 バカな、そんなこと信じられない。

 だったら、ルーファウスがいる間に爆破させるのが順当なのではないか?

 

 どうしても信じられなくて、俺は何度も自身の中で思考した。

 

 車の電話が鳴った。場違いな優雅なメロディが流れる。俺とレノは、一瞬石のように固まってそれを見つめた。

 

 ここの番号は俺たちやルーファウスしか知らないはずだ。

 

 

 

 

 

 

「クラウド……とってくれ。『クラウディア』としてな、と!」

 相変わらずレノは運転に余念がない。

 俺は一つ二つ咳払いをすると、そっとカーテレフォンを手にした。

「も、もしもし……」

 と、女性を装った高い声で電話に出る。

「ルーファウス神羅の婚約者か?」

 どことなく訛りを感じさせる野太い声が、電話の向こう側から聞こえた。

「え、ええ……」

「ルーファウス神羅は預かった」

 そいつは唐突にそう言った。

「え、ええっ!? なんだとッ! い、いや、なんですって?」

「言葉通りだ。ヤツの身柄は我らが手中にある」

「ま、待って……あなたは……」

「神羅カンパニーに敵対する者とだけ言っておこう。神羅カンパニーの総帥とその偽善の象徴は明日の日の出と供に、この世から消えてなくなる。我らが民族を絶滅寸前まで追い込んだ神羅の罪が消えると思うな」

 『みせしめ』だ。

 ルーファウスをその他大勢とともに爆死させるつもりは最初からなかったのだ。

 彼を『処刑』するつもりなのだ。もっとも効果的な形で。

 敵対者の目的……神羅カンパニーの総帥を、象徴的に殺害してこそ、『神羅の罪』を贖わせることができると考えているのだろう。

「待て!……あ、いや、ま、待って!ルーファウスは……ルーファウスは違う!今は、何の分け隔てもなく、移民や孤児たちを受け入れる施設を作っている!神羅の罪を背負って、必死に努力している……!」

 女言葉にすることも忘れて必死に俺は食い下がった。このなまりはウータイの人間のものだ。間違いない。『絶滅寸前の民族』という点でも合致している。

「あなた……ウータイの人よね!お願い話を聞いて!ルーファウスを返して!」

 必死に俺は婚約者らしく追いすがった。

「……なんの分け隔てもなく……?孤児院にはウータイの子どもはひとりとしていない!しょせん、神羅の人間のやることなどそのようなものよ!総帥の処刑は明日の日の出だ。数だけ増えた貴様らの子どもも道連れよ!ウータイの無念、今こそ思い知るがいい!」

 がちゃんと電話は一方的に切れた。さーっと血の気が引いていくのが自分自身でもわかる。

 電話の相手は本気だ。さっきの屋敷の主と同様に、自らの身をも滅ぼしても、ルーファウスに復讐するつもりなのだ。

 それも彼自身の処刑と、孤児院を道連れに。

 

「レ、レノ……!やばい、もう本当にどうしようもないくらいマズイ状況だ。セフィたちに連絡するよ!」

 ああ、俺が付いていながらむざむざとルーファウスをさらわれるなんて!

 到底、皆に顔向けができるものではない。だが、今はそんな悠長なことを言っているよゆうさえないのだ。

 日の出ともに……?後何時間あるんだ?

「よっしゃ、もう別荘に着いたぞと!」

 レノは信じがたいスピードで車をぶっ放し、セフィロスたちの控えている元の別荘まで戻ってきていたのであった。