20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

 女神が胸のところで十字架を抱きしめている。

 聖カタリナは、慈悲深い笑みを浮かべ、礼拝堂に佇んでいた。

 

「クラウド、ボイラー室はどうだ?」

「ダメだ。いないよ」

「チッ、くそ、このだだっ広い教会が!」

 セフィロスがするどく舌打ちする。聖カタリナ寺院は、数ある教会の中でももっとも大規模なつくりをしている。当然子どもたちの多くが収容されており、その中にはウータイの子どももいる……かもしれないし、いないかもしれない。

 この教会に到着して探索を開始したのは午前二時……日の出までといったら後、二三時間がよいところだろう。

 まずはこの教会にいる子どもたちを全員避難させるところからだろう。それが定石であるのはわかっていたが、そんなことをしていたら、全員屋外へ出したところで夜明けになってしまう。それにその人数を他に収容できる場所などなかったし、かえっておおさわぎになるのではないかと考えた。

 俺とセフィロスは一か八かの勝負に出たのだ。

 もちろん、ただの賭けではない。それなりの勝算はあってのことではあったが……

 

 たった今、探索したボイラー室はかなりの優先候補であったのだが、そこにはルーファウスも爆弾もなかった。

「ねぇ、セフィ……まさか、普通のどこかの部屋ってことはないよね。子どもの眠っているどこかの部屋ってことは……」

「一体いくつあると思っているんだ……!この教会をまるごと吹っ飛ばす心づもりなら、どこかの小さな個室に仕掛けるというのは考えにくい。誘爆を促せる場所か……それとも、この教会の中心に当たる場所だ」

 そのとき、クラウドの携帯が小さな音を立てた。

 ヴィンセントからの定時連絡だ。

 ……となると、時刻はすでに午前三時か……!

 

「セフィ、ヴィンセントからだった。ダメだ、まだどこでも見つかっていない」

 俺はほとんど責任感で半分泣きべそをかきながらそう報告した。

「そうか……」

「どうしよう、他に捜すところなんて……礼拝堂の中はしらみつぶしに当たったし、他に思いつくところなんて……」

 このままじゃ、ルーファウスの命はない。

 それどころか、教会の中で生活している人々も、木っ端みじんに吹き飛んでしまうのだ。当然、年端もいかない子どもたちも含めて。

 ああ、どうしてあのとき、ルーファウスをひとりにしてしまったんだろう。なぜ、ほんのわずかでも疑わなかったんだろう……!

「しっかりしろ、クラウド。ここで泣いても事態は変わらん」

 セフィロスが言った。

 

 

 

 

 

 

 ……教会の中心にある場所……

 そこが爆発したら決して、教会そのものが無事では済まない場所……

 

「クラウド、屋根裏だ……!」

 唐突にセフィロスが叫んだ。それと同時に彼はもう跳んでいる。俺は慌てて彼の後に続く。

「この教会で一番広いのは礼拝堂だその周辺に個室が散らばっている。それならば、礼拝堂を爆破するのがもっとも手っ取り早い」

「で、でも、礼拝堂には……」

「礼拝堂じゃ目立ちすぎる。礼拝堂がこの広さなんだ。ここの屋根裏はかなりの空間があるはずだ。そしてもし、そこが爆破して天井が落ちてきたら、一巻の終わりだろう」

「そ、そうか……」

 確かに礼拝堂を支えている天井は、円筒形で広く個室の方にまでつながっている。そこが崩れ落ちてきたら、中にいる子どもたちが無事に済むとは思えない。

「もし、カタリナにルーファウスがいるなら天井裏だ。それ以外にもう思いつく場所がない!急げクラウド、時間がない!」

 

 俺とセフィロスは、聖カタリナの屋外へいったん出ると、外の特殊階段を使って屋上へ上った。

 横殴りの風がビュウっと俺たちに吹き付けてくる。

 屋上から礼拝堂の屋根裏へ入れる入り口があるはずだ。屋内から天井裏へ上る階段がないはずはなかろうが、万一のことも考え、外から迂回するルートを取ったのだ。

 

「ここだ、窓ガラスをぶっこわすぞ!伏せろ、クラウド」

 そういうと、セフィロスは何の迷いもなくガラスに蹴りを食らわせた。そこが容易に割られ、冷たい外気が一気に吹き込んで行く。

 

「ルーファウス……!」

 だだっ広い屋根裏の端に、人影がある。後ろ手に縛られ転がされたその人物は間違いなくルーファウス神羅その人であったのだ。

 

 白いジャケットが煤で汚れ、殴られたらしい顔に、声が出ないように猿ぐつわをされている。

「ルーファウス、しっかりしろ!」

 セフィロスが彼に駆け寄り、抱き上げる。意識がはっきりしないのか、ぼうっとした表情でセフィロスを見つめる。俺は急いで彼の口元を覆っている布きれを外してやった。