〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
 
 ヤズー
 

 

 

 

『ミッドガルの廃墟に奇態な風体の兵士あらわる!』

『白昼の惨劇! 元神羅カンパニーの社員数人が犠牲に』

『事故犯罪件数、過去最高を記録!』

 

「いやだねぇ。まったく物騒な世の中だ」

「貴様が言うか、貴様が」

「おまえにだけは言われたくないなァ、セフィロス」

「ま、まぁまぁ二人とも。ただ……気になるのがこの記事だが……」

 

「あの、スイマッセン。ごく自然にファミリーになじんでいる野郎がおりますが、アンタ何くつろいでんの、ジェネシス!」

 我が家の平均年齢からすれば、『大人組』になるのだが、相変わらず雰囲気は幼い。彼のコトを『兄さん』と呼ぶこの俺よりもね。

 

「いやぁ、すまないな、チョコボ。どうにも居心地が良くてね」

 まったく申し訳なさそうに長身の青年が応じた。俺も背は高い方だが、彼はなんとセフィロス級なのだ。

 彼の名は『ジェネシス』。

 元神羅の社員で、セフィロスと並び称されるトップソルジャーの双璧だった男だ。

 

「アンタ、先週も来たよね? しっかり晩飯食って行ったよね?」

 つけつけとした態度を崩すことなく兄さんが言う。

 せっかくの日曜日だ。ヴィンセントの側でいちゃいちゃしたいのに、最愛の人の側にはお邪魔虫がひっついているというわけである。

「ク、クラウド、よしなさい。せっかく遊びに来てくれたのに……」

「別に『来て』って頼んだわけじゃないもん」

「クラウド……子供ではないのだから。彼は我々にとって大切な友人だし、おまえには神羅での大先輩だろう?」

 ヴィンセントはすぐにジェネシスの味方をする。隙あらば「女神」などと言い寄る輩なのに、彼を『親しい友人』と認識しているらしいのだ。

「それに先週はこちらのほうがお引き留めしたのだぞ? わざわざ手土産をいただいたのに、そのまま帰せるか?」

「帰せます」

 彼の無愛想な返事に、セフィロスとジェネシスが、声を上げて笑った。

「まぁまぁ、いいじゃない、兄さん。引きこもりがちなヴィンセントに、友人が増えるのはいいことだよ」

 俺は頃合いを見計らって、焼き菓子と紅茶のおかわりを持って居間に顔を出す。

 ジェネシスと気が合う俺は、兄さんにこの場面では敵方と認識されているのだろう。大きな青い目でギッと睨んでくる。

「いやだなぁ、兄さん。そんな宿敵を見るようなまなざしで凝視しないでちょうだい」

「だってヤズー、ジェネシスに甘いもん。ヴィンセントと同じ」

「ク、クラウド……なんて言い方を……」

「まぁまぁ、ほらァ、いただきもののフィナンシェだよ。メープル味、好きなんじゃない?」

「いただきます!」

 彼はやけ食いのように、ジェネシスの持参したお菓子をほおばった。

 大家族と大食らいというのを考慮してのことか、たかが手土産とはいっても、二三箱は持ってきてくれる。

 そんな気遣いは無用だと言っているのだが、趣味人のジェネシスは、自分の好みの菓子や茶などを持参するのを楽しんでいるらしい。

 ヴィンセントがとても喜んで受け取るのも理由の一つだろう。

 

 

 

 

 

 

「女神、どうしたの。さっきからぼうっとして。気分が優れない?」

 ジェネシスの言葉で意識をこちら側に戻す。

「え……あ……いや……」

「コイツが呆けてるのはいつものことだろ。いちいち気にとめるな」

 もちろんこの無礼な発言はセフィロス以外の何者でもなかった。

「セフィ、この野郎! ヴィンセントに失礼な言い方すんなッ」

「騒々しい。暴れるなクソガキ。ホコリが立つだろ」

「ちょっと、うるさいよ、兄さんもセフィロスも」

 このふたりは、つまらない理由で簡単にケンカになる。それをいつものように受け流してヴィンセントに注意を向けた。

 この人と来たら相変わらず遠慮深く、おとなしい人なのだ。個性的な連中が集まっている我が家では、声を出して主張しなければ、なかなか気づいてもらえないのに。まぁ、もっとも、それではヴィンセントがヴィンセントでなくなっちゃうわけだが。

「どうかした? 旅行から戻ってきたばかりだからね。疲れが出たかな?」

 とジェネシス。

「え……あ、い、いや、そんなことはないのだが」

「なんでそこで赤面するんだ。一緒に行ったオレがなんかしたみてーじゃねーか」

 からかうようにセフィロスが言う。

「アンタ、ホントになんかしてくれたんじゃないの!? っつーか、だいたい俺に断りもなく、どうしてヴィンセントと一緒に泊まりがけで出かけるんだよ! ヴィンセントは自分から嫌って言えない人なんだから! もうちょっと気を使って……」

「クラウド、そんな言い方はよしなさい。……この前の一件は、むしろ同行してくれた彼に感謝しているくらいだ」

 短い言葉で兄さんをたしなめるヴィンセント。この前の旅行というのは、ヴィンセントの定例行事、セフィロスを生んだ女性への墓参だったという。ならばセフィロスの行動には、十分過ぎるほどの正当性があるといえよう。

「しかし、うらやましいねェ、セフィロス。女神と泊まりがけでゴールドソーサーか。まるでデートコースじゃないか」

「……おまえ、しゃべったのか?」

 じろりとヴィンセントをにらみつけるセフィロス。

「え……あ、あの……あんまり嬉しかったものだから。ジェネシスは友人だし……い、いけなかったのだろうか?」

「チッ……」

 セフィロスは低く舌打ちしただけだった。ヴィンセントにはわからないだろうけど、あれは彼の照れ隠しだ。

「あーあ、ゴールドソーサーね〜。昔行ったよね、ヴィンセント。すっごい、ム・カ・シ!」

 あからさまに遙か過去だということを強調する兄さん。もうちょっと大人にならないとね。

「そうかァ、チョコボも女神とゴールドソーサーに行ったことがあるんだね」

「まぁ、当然泊まりですけどね、コレ」

 と得意げな兄さん。

「ああ、そうだろうな。おまえら、何人かでパーティ組んでたもんなァ。みんなで仲良くお泊まりってか?」

「うっさい、セフィ!」

「だったら、今度は俺の番かな」

「アンタ、なにそれ。何の順番。もしなんかそーゆーイベントがあったって、アンタは部外者なんだからね! ましてヴィンセントと一緒になんて……」

「クラウド……」

 ぐいとヴィンセントに袖口を引っ張られ、浮き足だった兄さんはようやく大人しくなった。……ただ、口の中に物を詰め込んでいるだけなのかもしれないが。

「だ、だが……あのときは本当に夢のように楽しくて、我知らずはしゃいでしまったのだ。きっとセフィロスにはひどく煩わしかったのだと……」

「別にそんなこと言ってねェだろ」

 不良息子のように無愛想につぶやくセフィロス。この人もたいがい素直じゃないよなァ。

「君からの贈り物もあるし……是非また……」

「あのフリーパス! アンタ、あれいくらだったんだよ。そんだけ金持ちなら家計に助力してくれませんかねェ!」

「ク、クラウド……そんなさもしいことを言わないでくれ」

「だあってさぁ〜!」

「せっかくセフィロスが私を気遣ってくれたものなのに……」

「あー、ハイハイ。わかった、気が向いたらな」

 面倒くさそうに受け流すセフィロスだが、もちろん不快に思っているわけではなかろう。

「うらやましいな、セフィロス。女神とゴールドソーサーに遊びに行ける権利を譲ってくれないか? カード限度額内なら買い取り可能だ」

 紅茶をすするセフィロスに、ジェネシスが真顔で言った。

「ちょっとアンタらねェ!」

「もう!兄さんもいちいちふたりのジョークに反応しないの」

 と遮っておいて、

「ね、ヴィンセント。さっき、何か気になることがあるって言ってたじゃない? なぁに、この新聞の記事のこと?」

 横道に逸れる前に、俺は冒頭のやりとりに引き戻した。