〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 レノ
 

 

「皆、よく来てくれた。送迎用のヘリとはいえ、窮屈だっただろう。今日は時間も遅いし、ゆっくり休んでくれたまえ」

 ウチの社長さんは、せいぜい機嫌良くそういって彼らを出迎えた。……ったくたまにはオレらのこともねぎらって欲しいぞ、と。

「お腹空いたんですけど−」

 むっつりと不機嫌そうに頬を膨らませて、クラウドが言った。ヴィンセントさんは行儀の悪い息子を叱るように、ヤツの腕を引っ張る。

「あ、ああ、そうだな。では会食をしながら話を……」

 準備はすでに済ませてあるのだろう。社長は何の問題もないというように頷いた。

 というか、本音のところではクラウドの不躾な態度さえ、気にする余裕もなさそうだった。

 その様子にツォンさんも不快を感じているのだろう。この人はいっさいの感情を顔に出さないので、空気を読み取るしかないわけだが。

 ツォンさんが苛立っているのは、クラウドの態度になんかじゃない。ぶっちゃけ、あのチョコボ小僧など眼中にないだろう。

 そう、セフィロスに対する社長の動揺だ。

 社長もあからさまな態度はとらないが、セフィロスのことが気になって仕方がないのである。神羅時代からセフィロスに対しては強い執着を見せた彼であったが、今もなお関心はなくならないらしい。

 いや、むしろずっと会えなかったせいか、その気持ちは強くなっている様子だ。

 話を聞くのも面倒くさいとばかりに、そこらの壁に寄りかかって大あくびをしているセフィロス。社長は、なんとか彼に話しかける機会を伺っているようであった。

 

「ルーファウス様、到着されたばかりで皆様お疲れです。まずはくつろいでいただいては? 細かなことはそれこそ夕食の席でよろしいでしょう」

 冷ややかな声音でツォンさんが言った。

「あ、ああ、そうだな……」

 社長が退屈そうなセフィロスを盗み見る。

「……レノ。まずは皆を部屋に案内してくれ」

 まるでオレたちを追い払うように言ってくれるツォン主任。

 ……いや、もうちょっと友好的にしろよ、と。

 もともとウチの主任はソルジャー部門とはあまり交流がない。

 唯一……すごく昔の話だが、ザックスというヤツとは思いの外、気が合ったようだが、彼もまた不幸な事件でこの世を去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ハイヨー。こっちの部屋自由に使ってくれや。一応二人部屋になってるけど、一人がいい人は勝手にどうぞ、と」

 無言のまま、ヴィンセントさんの荷物を持っているルードを無視して、オレは連中に声を掛けた。

「よかった!二人部屋だって! ヴィンセント、一緒でいいよね!」

 と、クラウド。ヴィンセントさんは曖昧な笑みを返す。

 はしゃぐクラウドには申し訳ないが、それはちょっとこっちの都合が悪かった。

「あーえー、どうも申し訳ないんスけど、ヴィンセントさんはこっちの特別室使ってもらえますか?」

「なんでだよ! ヴィンセントは今、目が良く見えないんだぞ! しゃべることもできないし! そんなのにひとりぼっちにしとけっていうのかよッ!」

「クラウド、落ち着けよ、と。まさか一人きりにするはずないだろう。必ずタークスの誰かが護衛も兼ねて付くことになっているぞ、と」

「護衛なら俺でいいじゃん! 俺が側についてるのが一番安心だろうが!」

「いや、だからな、と……」

 ヴィンセントさんの目の前で、説明するのは嫌だったのだが致し方がない。オレは言葉を選びつつ、話そうとした。だが、またもや上手く場をさらっていったのは、嫌みなロン毛野郎だった。

「違うよ、兄さん。彼らの立場で考えてごらん。俺たちがルーファウス社長の要請に応じたのは、ヴィンセントの治療の為でしょう? つまり拘留中にヴィンセントが自然回復でもしてしまったら、俺たちに協力義務はなくなるわけ」

「だから!? それで?」

「彼らとしては、最上級の人質様として、ヴィンセントを遇したいとそういうことなんだよ」

「なッ……」

「怒るな、クソガキ」

 ぼそりとセフィロスがつぶやいた。そういや、ヘリの中ではよくしゃべっていたが、カンパニーについてからはあまり口を開かない。

 なにか思うところがあるのかと感じていたのだが、なんのことはない眠いとのことだった。

「フツーに軍人視点で考えて見ろ。当然のこったろ。オレがルーファウスでも、同じようにするだろうさ」

「セフィ! なんだよ……そんな……ヴィンセントが人質だなんて……!」

 クラウドはどうも『人質』という響きに動揺しているらしかった。

 そういや、こいつは神羅に居た頃、セフィロスとデキていたのだが、その頃から相手の状況をひどく心配するタイプのガキだった。 

「それにそこの赤毛は、ヴィンセントにずいぶんと好感を持ってるようだしな。唯一『ヴィンセントさん』だよなァ」

 からかうような物言いに、オレはけっこう真面目に応えてやった。

「そいつは当然だぞ、と。社長の従兄弟の件では誰よりも世話になった。クラウドに断られたときも、ヴィンセントさんが口添えをしてくれたおかげで、一番よい結果になったんだ。どれほど感謝してもし足りないぞ、と」

 そういってヴィンセントさんを見ると、真っ白い頬が少し上気していた。オレと目が合うなり、困惑した面持ちで小首をかしげる。

 そういや、この人、元タークスだっけ……信じられね〜……

「でも……今、ヴィンセントは食事するのにも時間がかかるんだよ? 部屋の間取りだって初めてのところだから、転んじゃうかもしれないし……」

「普段、真っ昼間の浜辺で、すっころぶヤツだもんなァ、フハハハハ!」

「セフィロス、よしなさいよ。意地が悪いね!」

 ロン毛野郎……ヤズーは、手厳しくセフィロスの物言いを戒めると、ヴィンセントの肩を抱いた。

「……まぁね。こういう事情だし、ヴィンセントのことは君らにまかせるよ。間違いがないようにしっかり守ってちょうだい」

「当然だぞ、と」

「ただしね、もし万一、彼に怪我をさせたり、意にそぐわない行為を強要することがあったら……」

 そこまでいうと、ロン毛野郎は不自然に言葉を切った。そして、怪しい微笑を浮かべ、

「……ただじゃおかないからね」

 と続けた。

 ヤツの声音は、アイシクルエリアのツンドラ気候より冷たかった。

「もちろんだぞ、と。オレたちの任務は、アンタらのシゴトをサポートしつつ、ヴィンセントさんを守ることだ」

「……そう。その言葉忘れないでね。もし約束を違えることがあれば、できたばかりのこの神羅ビル…… 社員共々跡形もなく消え去ることになるから」

 そういってニッと壮絶な笑みを浮かべた。その瞬間首筋に氷を宛がわれたような感触がオレを襲った。

 クラウド他の連中も、一緒にゾッと背筋を竦ませている。

 ……ただセフィロスだけはニヤニヤと嘲笑っていたが。