〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<31>
 
 クラウド
 

 

 

「レノ。すぐにカダたちに連絡を取ってくれ! 今すぐだ。居場所を知りたい」

「ああ、わかってる。今、本部に掛けてるから、すぐそっちにも掛け直すぞ、と」

「早くしろよ! さっきから何回言わせるんだよ! あー、もういい! えーと、この救急車の電話って使えんの!? ねぇ?」

 上の空のレノを無視して、俺は返事を待つ前に、自分で救急車に設置されたワイヤレスホンを手に取った。

 俺的にはいつでもみんなと連絡が取れるように、携帯持参を希望したのだが、三者会談中はマズイということで取り上げられていた。ったく信用がないんだから!

「カダ…… 頼む、無事でいてくれよ……」

 俺のつぶやきはほとんど声になっていなかったと思う。とにかく一刻でも早くカダージュと連絡を取り、彼らの居場所に合流する。

 何故かって?

 ……筋道立てて説明ができるほど、今、俺の頭は冷静に動いてはいない。

 だが、とにかく嫌な予感がするのだ。

 

 『朱のロッソ』のゾンビ……

 ロボット相手にゾンビというのもおかしなものだが、思考を司る脳みそが本物なのだから、甦りといっても差し支えないと思う。しかも、生前よりは遙かに強靱な肉体に、その『魂』を宿して……

 ロッソは、おのれを倒したヤズーを襲った。何の迷いもなく、彼を殺そうとしたのだ。

 ヤズーはおのれの油断が招いた結果と言っていたが、それだけではないのだ。敵自体が以前よりもパワーアップしているのだから。人間の思考と鋼の肉体を持つツヴィエートに襲われれば、いくらウチの連中だって無傷とはいかない。実際ヤズーは一行を守るためとはいえ、ひどく負傷しているのだ。

 

 あの時、俺たちが倒したツヴィエートは『朱のロッソ』だけではなかった。

 カダージュとロッズは『蒼のアスール』を相手にしたのだ。ネロとヴァイスは生きている。ロッズと同じ状況で生かされているとしたら、アスールだろう。

 ならばヤツが狙うのは……

 ああ、思い過ごしであってくれ。

 いくらロッソがああいう呪わしい形で生かされていたとしても、必ずしもアスールまでもが同じようによみがえっているという保証はないのだ。たまたまロッソだけが、まだマシな状態で遺体を回収されたのかもしれないし……

 いや、だが、万一……

 

  トゥルルルル……トゥルルル……

 

 電話の呼び出し音が鳴り続ける。

 まるでそれは俺の焦燥を煽るように、耳に響いた。

 

 

 

 

 

 

「……チッ! くそ、つながらない!」

 そう吐きだしたのは俺ではなかった。さきほどから携帯をいじっているレノだ。

「何してんだよ、ツォンさん……!」

 人を食ったレノらしくもない物言いに、俺は背筋が冷えていくのを感じた。声を掛けようとしたのだが、すぐにまたリダイヤルをし直す。

 彼のクセなのだろう。レノはガジガジと爪をかじって応答を待っていた。

「ああ、ダメだ! 何なんだよッ!」

 次は3コールほども待たずにレノは携帯を切った。俺の方もむなしく呼び出し音が鳴り続けるばかり。本当はもう少し粘りたかったのだが、レノのほうの状況も気になっていた。

「レノ、本部か?」

 と俺は短く問いかけた。

「ああ。……俺と交代でツォンさんが詰めているはずなんだが…… さっきは社長もいたし……ヴィンセントさんも……」

「……ッ!!」

 『ヴィンセント』の名を口にされて、心臓をわしづかみにされるような恐怖が首筋を撫でた。俺の反応に気づいたのだろう。レノは口ごもり、後の言葉を続けなかった。

「だれも……でないのか?」

「…………」

 俺の問いかけに、レノは無言のままこちらを見た。

「そっちはどうなんだよ」

 と訊ね返してくる。

「コールは鳴るんだけど……出てくれない」

「……こっちもだ。嫌な感じだぞ、と」

「なんだよ……昼間では上手くいってじゃないか…… 何のトラブルもなかったし」

「クラウド、落ち着けよ」

「ロッソは自分を倒したヤズーを狙ったんだ」

 レノの制止の言葉など気にも止めず、俺は考えたことをそのまま口に出した。

「…………」

「レノも見ただろう? あの女は脳みそだけで、身体は機械仕掛けだった」

「……ああ」

「ツヴィエートで、あのとき、うちの連中にやられたのは、朱のロッソと蒼のアスールなんだよ。アスールをしとめたのはカダージュとロッズだ」

 俺の物言いはほとんどうめき声になっていたのだろう。レノは心許なげに俺の顔をのぞき込んだ。

「……連絡がつかないのか? カダージュかロッズに……?」

「何度も掛けているけど……ダメだ。本部に何か入っていないかと思ったけど……そっちもダメなんだろう?」

 そう聞き返すと、レノは苦しげに頷いた。

「ツォンさんが居るはずなのに……」

「…………」

「嫌な感じだぜ、クラウド……」

 レノの物言いに、俺も知らずのうちに爪を噛んでいた。