天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 ヤズー
 

 

 

 その電話がかかってきたのは、とりかえばやになってから、4、5日経ってのころだったと思う。

 いつものように、家の電話は俺がとる。

 兄さんは携帯しか気にしないし、セフィロスがわざわざ家電をとるはずもない。ヴィンセントがいるだろうと思われるだろうが、彼はしつこい勧誘電話に弱く、結果的に俺がとるのが一番問題がないと思われるからであった。

 

「え……WROから……?」

 ヴィンセントが戸惑いを隠しきれずに、そう聞き返してきた。

「そういってるよ。局長のリーブさん」

「そ、そうか……わかった」

 といい、ヴィンセントが電話に出る。

 WRO……『世界再生機構』は、メテオ後の世界を、その名のとおり再生しようとする目的で作られた組織だ。もとは神羅の都市建設部門の重役であったリーブ氏が、今はその局長を務めているということらしい。

 彼の人となりをくわしく知るわけではないが、ヴィンセントやクラウド兄さんにとっては、大切な仲間のひとりということになるのだろう。

 

「あ……その……声が違うのは……ええと事情があって……いやその、今は困る」

 ヴィンセントがちらりとこちらを見て、そうつぶやく。

「そ、その……ちょっと問題が起きていて……すぐに行くわけには……ああ、確かに預けっぱなしで、気にはなっていたのだが……」

 どうも雰囲気から読み取るに、ヴィンセントにWROの本部へ来て欲しいという申し出のように思われた。

「ね、何の話?」

 と、俺は横から声を掛けた。もちろん、ヴィンセントの姿でだ。

「い、いや……ちょっと説明するのが……難しい。銃を預けていることと……その他にもいろいろ……」

 受話器の口の部分を押さえて、俺の姿でヴィンセントがつぶやく。

「いいじゃない、ふたりで行けば。リーブさんとやらのことはよく知らないけど、ああ、お酒に酔っぱらってヴィンセントの膝にしがみついてる姿しか覚えていないんだよね。……まぁ、別に俺がそこに行っても、大きな問題じゃないでしょ」

「だ、だが……」

「大切な用事なんじゃないの?ちょっと、電話貸して」

 と断ると、俺はひょいと受話器を横取りしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「はぁい、どうも。ヴィンセント・ヴァレンタインでーす」

「ヤ、ヤズー!」

 と、あわててヴィンセントが袖口を引っ張る。

『あ、あれ……ヴィンセントですか?ええと、さっきまで話していたのは……』

「まあまぁ、いいじゃない。ところで、どんな話?俺にそっちまで出向いて欲しいってコト?」

 そう訊ねると、リーブは先ほどまでのやり取りを繰り返してくれた。

 ヴィンセントの銃を預かっていて、改良が済んだので試めして欲しいということ。また、昨今のWROの活動について、話を聞いてアドヴァイスが欲しいという、至極真っ当な依頼であった。

「ああ、オッケー。それぐらいならお安いご用だよ。ただし、今回はちょっと事情があってね、同居人をひとり連れて行くから」

「ヤ、ヤズー、そんな無茶を……」

 と、まだヴィンセントは困惑している様子だ。

「同居人だよ、大丈夫。信頼できる人だからさ。じゃ、いつ行けばいいの?オッケー。じゃ、そのときにまたね★」

 ちゅっと最後に、受話器に向かってキスを送ると電話を切った。

「ヤ、ヤズー。か、勝手なことを……どうするのだ。私とおまえが二人揃ってリーブのところに行くことになるなど……おまけにこのような状態なのだぞ?」

 思案顔のヴィンセント……もといヤズーの図である。

 もちろん『このような状態』のこのようなは、中身が入れ替わってしまったということを指して言っているのだ。

「まぁまぁ、別にいいじゃない。局長さんには会ったときに事情を説明すれば納得してくれるでしょ」

「そ、それはそうかもしれないが……」

「ヴィンセントの膝でうっとりして寝ちゃうようなキャラでしょ。ちょっと興味あるんだよね。もしかして、ヴィンセントのこと好きなのかも」

 茶目っ気たっぷりにそういうと、俺の姿をしたヴィンセントは、今度こそ、「ヤズー」と俺をたしなめにかかってきた。

「冗談冗談。だいたいヴィンセント、大切な銃を預けているんでしょ。それを受取りにいかないと」

「まぁ……確かに気にはなっていたのだが」

「だからさ、それを受取りに行こう」

 そういうと、ようやくヴィンセントは納得してくれたのであった。