天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 ヤズー
 

 

 

 

「もう、こんな状態のヴィンセント連れて、WROに行くなんて!しかも泊まりがけ?ヤズーってば信じられないよ!」

 案の定、きゃんきゃんと吠え掛かってくるのは兄さんである。

「まぁまぁ仕方ないじゃない。ちゃんと用件があるわけだし、WROの本部から、ここまでは日帰りじゃ難しいんだし」

「ヤズー、バイク乗れるんだろ。なんとか理由付けて、その日のうちに帰ってきてよ」

「いっておくけど、運転するのは、ヴィンセントの身体の俺ってことになるけど?」

 そういうと、さすがの兄さんも思案顔になる。

「ク、クラウド、リーブにはきちんと事情を話すし、用件のひとつは私の銃のことなのだ。ヤズーならば機転が利くから、困るようなことにはならないと思う」

 すでに決定事項だという様子でヴィンセントが口を挟んでくれた。

「……ヴィンセントとヤズーなんて、あのおっさんの大好物だぞ。ヤローむっつりスケベだし」

「だったらまかしといてよ、むしろ、ヴィンセントひとりで行くより、俺が同行するほうが安心じゃない」

「そりゃまぁ……そう言われればそうかもしれないけど……まぁ、一番いいのは俺が一緒に行ければいいんだけどね」

 そういうと、兄さんはむっつりと黙り込んだ。

 予定は平日なので、兄さんにはデリバリーの仕事がある。

「……それじゃ、ヤズー、くれぐれも気をつけてくれよな。ヴィンセントの身体だってこと忘れるなよ」

「わかってるわかってる」

「おまえの身体に入っているヴィンセントのほうも頼むぞ。……っていうか、WROの研究室で、元に戻る方法とかわかんないのかなー。それと我が家に起こる不思議の根源を解明して欲しいんだけど」

 さすがに兄さんも気になっているのだろう。そんなことを相談するような口調でつぶやいた。

「兄さんがそういうなら、リーブさんに訊ねてみる?」

 と、問い返すと、

「あー、やっぱいい。あんまりWROと関わるとよけいヴィンセントの負担が増える。ただでさえ、今だって何かあれば都合良く呼びつけやがって、リーブのやつ……」

 最後は独り言になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 当日。

 俺は久々の遠出を楽しみにしていたのだが、ヴィンセントはどうしても、家を空けることが気になるらしい。

 ヴィンセントと俺……つまり、家事が出来る人間ふたりが、揃って外泊することになるのだ。大人ばかりの家だから心配などする必要はないというのに、なかなかそうとは納得してくれない。

「その……セフィロス。そういう事情なのだ。申し訳ないと思うが……あの……その……」

「ああ、わかったわかった。行ってこい。別に俺には関係のないことだ」

 一体何度目であろうか。予想通りというべきか否か、ヴィンセントはセフィロスのことが気になって仕方がないらしい。

 クラウド兄さんや俺たち三兄弟は、東海岸にあるこのコスタ・デル・ソルの家を気に入っている。ここに居たくて集まっている人間たちなのだ。だが、セフィロスについては、事情が異なる……とヴィンセントは信じ込んでいるらしい。

 自分のわがままで、この家に留め置いているのだと考え、何かあるたびに彼の動向を気にするのだ。

 俺に言わせれば、もはやセフィロスだって、この家が気に入って滞在しているのだから、よけいな心配は無用だというのに、なかなか信じようとしてくれない。

「セフィロス、なるべく早く帰ってくるから……この家で……その……」

「わかったわかった。別にどこにも行く当てはないんだからな。いちいち心配するな」

「そ、そうか……ならば……よいのだが」

 おずおずと頷く彼を見て、セフィロスは盛大にため息を吐いた。

「ああ、もう、そのイロケムシのツラで迫ってくるな。胸元で手を合わせるな」

「え、あ、あの……」

「腹黒いイロケムシがそんなポーズを取ると思うのか。とにかく似合わねーんだよ。気持ち悪いから、上目遣いで近づいてくるな」

 しっしっとばかりに手を振るのを見て、さすがに俺も抗議してやる。

「ちょっとさすがにシツレーじゃない、セフィロス。可愛いじゃない俺。まぁ普段はあまりそういうしぐさはとらないけどね」

「テメーはテメーで、ヴィンセントの姿で斜めから睨み付けるな。ヴィンセントはそんなことしないだろう」

「フン。ま、いいけど。とりあえず、ちゃんとおうちを守っていてちょうだい。どうせ、一泊してすぐに戻ってくるけど」

 俺がそういうと、ヴィンセントになっている俺の顔すら見ずに、「わかったわかった」と繰り返し、新聞を片手に部屋に引っ込んでしまったのだ。