天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヤズー
 

 

 

 

 車を飛ばして約半日。

 俺とヴィンセントは、無事にWROの本部に着いた。

 ほとんど大陸を横断するような距離だ。日帰りは難しいと言われたが、なるほどそのとおりだと思う。

 旧神羅ビルとは対照的な、低い三階建ての建物。もっとも敷地はこの不毛の土地ならではというべきか、相当広範囲にとっても、たいして費用もかからないということなのだろう。

 

「へぇ、けっこう綺麗なものね。まわりは殺風景だけど」

 ヴィンセントに教えられた道筋を辿って、車庫に車をしまうと、そこからしてかなり近代的な作りになっているとよくわかる。

「まぁ……まだ新しい建物だからな。それよりヤズー疲れただろう。ずっと運転させてしまってすまなかった」

 ヴィンセントがいう。久々のドライブ気分だった俺はまったく気にならず、遮蔽物のない道を突き進んでいくのは爽快だった。

 そう応えると、ヴィンセントは俺の姿で苦笑した。

「いや……普段のヤズーならなんともなかろうが、今は私の姿で動きにくいだろう。かなりの長距離運転だったしな」

「ああ、全然平気。それより、さっそくリーブさんのところに行くのよね?ちょっと楽しみだ〜」

 コスタ・デル・ソルで初めて見た彼は、スーツ姿で、落ち着いた髭を伸ばしていた素敵なオジサマといった雰囲気だったが、酒に酔い、ヴィンセントの膝で眠りにつくという失態を見せてくれた。

 今日もこの姿で彼に会えば、なにかおもしろいことが起きないかとワクワクする。

 なんせ、今の俺は、リーブ氏の熱愛するヴィンセント・ヴァレンタイン、その人になっているのだから。

 ヴィンセントはキーカードを取り出すと、正面入り口をくぐり抜けた。そのままエレベーターに乗って最上階に行くという。

 ちょっと髪を直したかったが、ヴィンセントはまるきり気にならないようで、手洗いなどに寄ることもなく、そのままリーブのいるらしき三階の奥の部屋へ足をすすめる。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセントさん、よく来てくれました」

 部屋に入るなり、リーブは抱きしめんばかりに歓迎してくれる。

 電話で事情を話したものの、やはり外見がヴィンセントになっている俺を、当の本人だと認識してしまう。こればかりは致し方ないことだろう。

「どうも、こんにちわ〜」

 と、愛想良く言ってから、

「言っておくけど、ヴィンセントの中身はあっちの身体に入っているからね。その辺よろしく」

 そう告げると、俺はヴィンセントの姿で、彼の頬に親愛のキスをひとつ落とした。

「ヤズー、からかうのはよしなさい」

 ヴィンセントがため息混じりにそう言い、リーブの目の前に歩み寄った。

「ややこしくてすまないが、私が今、ヴィンセントなのだ、。この身体の持ち主はヤズー。今、おまえの頬に口づけた人物だ」

「え、あ、は、はぁ。電話では伺っていましたが、目の前に並ばれるとよけいに……いや、失礼、ヴィンセント。では、ヤズーという方が……」

「そう、電話で話した、とりかえばやの相手で、今、私たちと同居している仲間なのだ」

 ヴィンセントが俺の姿でそう説明してくれた。

「はい、リーブ。俺とは初めましてだよね。今日はこんな事情で俺も一緒させてもらいました。どうぞよろしくね」

 にっこりと笑ってそういうと、リーブは、困惑したように、俺の姿形をしているヴィンセントのほうを見て、口を開く。

「ええと……じゃあ、ヤズーさんの本来の姿というのは、そっちの……」

「そう、そのとおり」

「は、はぁ……これはまたヴィンセントとは、趣の異なる綺麗な人ですね」

 感歎の吐息混じりでそういわれ、悪い気はしない。

「どぉもありがと。ま、できればWROさんに、この謎も解明して欲しいんだけど、今日の用件はヴィンセントの拳銃のことだったよね」

「ああ、そうなのだ。ケルベロスのメンテナンスを依頼している」

 ヴィンセントが、「リーブ」と声を掛けると、すでに承知しているというようで、俺たちを促した。