天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 ヤズー
 

 

「射撃場で確認してもらうのが一番よいでしょう」

 地下までエレベーターで下りると、専用の射撃場がある。なるほど、軍事関係のものは、ほとんどこの地下室に配備されているのだと見て取れる。

 そういえば、一階から外に続く道に、研究所があった。

「ヴィンセントさん、ケルベロスです。ええとその……どちらの方が試しますか?」

 途惑ったようにリーブがいう。

 なるほど、この三ツ口の美しい銀の銃を操るのは、ヴィンセントの華奢な身体だ。だが、意識も当然彼本人である。

 ヴィンセントは、ごく当然というように、

「私が」

 といって、俺の身体でケルベロスを受け取った。

 俺とリーブ氏が、少し離れたところに移動すると、ヴィンセントは何の迷いもなく、的に向かって引金を引く。

 ガゥンガゥンガゥン

 と、ケルベロスが咆哮すると、的の額の部分に、三つとも当たった。

 さすが、ヴィンセントだ。あのセフィロスをして、神業と言わせるだけの腕前だ。しかも今の肉体は本人じゃなくて、俺の姿をしているのである。それにも関わらず、ヴィンセントはもっとも難しい部位に、三つの弾丸を撃ち込んだのだ。

 俺は思わず拍手していた。

「さっすが〜!ヴィンセント。おみごと!」

「いや……」

 大した感慨もなさそうに、ヴィンセントは銃を下ろした。

「どうですか、ヴィンセントさん。調整は必要ですか」

 リーブが訊ねる。

「いや、十分だ。……ヤズー」

 頷き返した言葉の最後に、俺の名を呼んだ。

「おまえも試してみてくれないか」

 銀の美しい銃を目の前に差し出される。

「え、でも……」

「問題はないと思うが……念のためだ」

 と、ヴィンセントがささやいた。

「でも……かまわないの?俺が触れて」

「もちろん。……ただ、ケルベロスは、三連銃だ。反動がけっこう激しいから、少し注意してくれ。もっとも、そんな心配はおまえには無用だろうが」

 と彼は、俺の手に銃を置いた。

 『ケルベロス』……地獄の番犬の名がふさわしいとは思えない、この美しい銃には、俺自身憧れがあった。ベルベットナイトメアとはまた趣の異なるその銃身を片手に携えると、俺は射撃場の定位置に立った。

 

 

 

 

 

 

 右手で持ち、念のため左手を添える。

 もっとも基本的な姿勢で、俺は引金を引いた。

 ガゥンガゥンガゥン

 と、三連の銃音が響き、俺は的の心臓部に三発の銃弾を撃ち込むことができた。

「さすが、ヤズーだ」

 パチパチとヴィンセントが手を打ってくれた。

「やっだ、でも、すっごいドキドキしちゃったよ〜。確かに反動が重めだね。でも、コレ普段は片手で撃つんでしょう?」

「……最近は使うことがないが……一応」

 と、ヴィンセントが静かに答えた。

「やっぱり、ガンマンなんだね。腕の筋が鍛えられているんだ」

「……そうなのかな。自分ではよくわからないが……扱えない銃というのはほとんどないと思う」

 ヴィンセントは玄人が聞いたらとんでもないと驚くセリフをさらりと口にした。

「どうだった、ヤズー。違和感はなかったか?」

 そう聞き返されて、

「問題ないんじゃないかな。俺はこの銃触るの初めてだけど、思った通りに撃てるし」

「少し不思議な気分だな……」

 独り言のようにヴィンセントがつぶやく。

「私がケルベロスを撃つ姿を、端から眺めることができるなんて」

「言われてみればその通りだよね。どうだった?かっこよかった?」

 ふざけてそう訊ねると、ヴィンセントは案の定頬を染めて、頭を振った。

「きちんと撃ててたな。まぁ、おまえだから大丈夫だとは思っていたが」

「いや、でもすごいですよ。ケルベロスはかなりの達人でも使うのが難しいのです。三口銃ですし、反動も特殊ですからね。ヤズーさん……でしたっけ。かなり銃を使い慣れている様子ですが」

「まぁね、俺も一応ガンマン。ヴィンセントの足元にも及ばないけど」

 謙遜でもなくそう応えた。

 リーブは、なんとなく不思議そうにヴィンセントの入っている、俺の肉体のほうを眺めた。俺とヴィンセントは身長も同じくらいだし、細身の体格をしている。もちろん、筋肉などは俺の方がしっかりしているし、体重もあるが。

「ありがとう、リーブ。銃は受け取っていく。他にまだ用件があれば聞くが」

 ヴィンセントはそういうが、リーブは慌てたように、

「いや、今来られたばかりでしょう。まずは部屋に戻ってお茶にしましょう」

 と言ったのだった。

 きっとヴィンセントは、これまでも、同じように用件のみを切り出して、終わったらさっさと帰ってしまっていたのだろう。

 そう思うと、少しだけ、リーブ局長さんが気の毒になった。