天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 ヤズー
 

 

 

「少なくともあなた方は私にとっては、命の恩人です。この星を壊したいならば、いくらでも機会があったでしょう。しかし、あなた方はそんな振る舞いはしていない。むしろ、守るように動いている。……私にはそう見えます」

 慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりとリーブは言った。

「そう……どうもありがとう。きちんと答えてくれて」

 俺がそう言うと、さきほどからハラハラと成り行きを見守っていたヴィンセントが、ようやく腰を落ち着けてため息を吐いた。

「ヤズー、これでわかっただろう?だれもおまえたちを調べたり、脅威に思っている人間はいないんだ。いままでどおり、コスタ・デル・ソルで、穏やかな日々を送っていれば……」

「はははは、やぁだ、ヴィンセント。穏やかな日々って、しょっちゅうこんな目にあってるじゃない」

 と、ややオーバーなリアクションで、入れ替わり騒動のことを指し示してやった。

「そ、そうだが、命に関わる問題ではないだろう。リーブの今の言葉には嘘はないと私が保証する。おまえたちは安心してあの家で暮らしてくれればいいんだ」

「はいはいわかったよ。でも、リーブさん、もし俺たちの存在に関心ができたらいつでも声を掛けてくれてかまわないよ。俺も自分のことをよく知りたいし、やはり不思議な存在だとは思うから」

「ヤズーさんはさばけてますねぇ」

 というと、彼はハハハと声を上げて笑った。

「まったく……おまえは……」

 ヴィンセントなどは額に手を当てて頭を振っている。

「でも、今回は一緒に来られて良かったよ。WROのことって、兄さんもあまり話さないし、どういう組織なのかわからなかったから。ああ、もちろん、リーブさんのことも含めてね」

「WROは、その名のとおり世界再生機構です。孤児の問題や、教育、街などの環境問題を少しずつですが解決、推進しています」

「うんよくわかったよ。神羅カンパニーとの関係もね」

 そういうと、彼は『やれやれ』というように頭を振って、

「ご指摘のとおりですよ。今これだけの規模で活動ができるのは、神羅カンパニーからの援助ありきです。ヤズーさんにとっては不快なことかもしれませんが……」

 と、言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

「いいえ、全然。その辺は俺、『さばけてる』から。むしろ無関係だったら、こんなに積極的には活動できないでしょうしね。利用できるものは何でも使って、『世界再生』をすればいいと思うよ。はからずも、俺たちもそれに協力出来るような心持ちになっているのは確かだ」

「そう言っていただけると、嬉しく思います」

 そんなふうに彼は話をまとめた。

 

「さてと……他に話はないのかな」

 ヴィンセントが言葉を挟んだ。まるでリーブが何か失言をして、俺の機嫌を損ねるのではないかと、早く話を切り上げたいように。

「まったく……ヴィンセントさんはいつもこうなんですよ。用事が終わると、さっさと帰ろうとして……そもそも、コスタ・デル・ソルのイーストエリアからここまで日帰りするには距離的に厳しいというのに」

「さすがにそうだね。ヴィンセントったら、ここだと妙にせっかちだね。家にいるときと大違いだ」

 と、リーブに話を合わせると、ヴィンセントは緩慢な動作でそれを否定した。

「別に……そんなつもりはないが、家には待っている人たちがいるからな」

「いつもヴィンセントは待ってあげる側でしょ。たまには他の人を待たせるのもいいもんだよ。今頃兄さんたち、ヴィンセントの存在の大きさを噛みしめていると思うなぁ」

 軽口を叩くと、すぐに彼は困惑したように目線を泳がせた。

「そ、そんなことはなかろうが……皆、ちゃんと食事をしただろうかと……気になるし。つまらないことでケンカなど……」

「もうすっかりうちのお母さんだよねぇ、ヴィンセントってば。まぁまぁ今日は一日俺と付き合ってよ。ねぇ、リーブさん、泊めてくれるんだったら、部屋を用意してるんでしょ?」

「もちろん。すぐにでもご案内いたしますよ。ですが、まもなく夕食の時間です。運ばせることもできますが……」

 と申し出てくれた。できれば、彼としては夕食をともにしたいところなのだろう。

 もっとも選ぶのはヴィンセントだ。

「リーブ、部屋へ案内してくれ。すまないが、夕食はルームサービスで軽めに頼みたい」

 となんともそっけない言葉を返している。

 もっとも俺としても、ヴィンセントとふたりでゆっくりした時間を過ごす方を選びたかった。六人もの男がごったがえす自宅では、まずなかなか得られないシチュエーションであったから。