天使と悪魔の交代劇
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 ヤズー
 

 

 

「クラウドは私にとっては恋人であり、大切な年下の友人でもある……」

「ふぅん。年下の友人ね。どっちかっていうと親子みたいだけど」

 思ったことをあっさりというと、ヴィンセントは苦笑した。

「ヤズーはあけすけにものをいうな」

「まぁね。ヴィンセント相手に、オブラートに包んだ話し方しても、どうせすぐばれるし、せっかく今日はふたりきりなんだしさ」

 そう言って、俺は寝台から身を乗り出した。

「ふたりきりか。そうだな……ヤズーの身体は本当に綺麗だ」

 ほぅと息を吐き出すと、しみじみとヴィンセントがつぶやく。

「ねぇ、それじゃ、ヴィンセントは俺のことはどう?好き?」

「当然だろう、何をいっているのだか」

「でも、その好きは恋人の『好き』じゃないね。寝てみたい相手っていうのとは違うでしょ」

「ヤ、ヤズー、まったく……もう、おまえたちの世代にはついていけない。ヤズーの愛しい相手は他にいるだろう」

「ま、それはそうなんだけどね。後はジェネシスにセフィロスあたりはどう?」

「……あたりはどうって……」

「ジェネシスなんて、もう全身で女神命って感じだものね。紳士的だし、きっとやさしくしてくれるよ」

 ジェネシスは相変わらず、女神女神で一週間と開けずに、ちょくちょく顔を出してくれている。もちろん、そのたびにヴィンセントの好きそうなお土産を手にして、満面の笑顔でだ。

 セフィロスと同じソルジャークラス1stで、あんな甘いマスクをしているジェネシスが、もてないはずはなかろう。地下室の女神に出会うまえは、きっとセフィロスと同じように、浮き名を流していたのだろうと思われる。

「ジェネシス……まったく物好きな人だ。彼にはもっとずっと似合いの人がいるだろう。どうして私などに……」

「でも、ヴィンセント、ちょっと嬉しくない? ジェネシスにあんなふうに求められるの」

「……す、好きといってもらえるのは……その……正直に嬉しいと思う」

「正直、兄さんより、まだジェネシスのほうが、恋人といわれてもピンとくるんだよねェ。ヴィンセントって、一応彼には素直に頼ることもあるものね」

「そ、それは……その、ジェネシスは一人前というか、機転も早いし、危うさがないから……つい、私も……頼りがちで……そ、そのまずいのだろうか?」

 口元を両手で隠しながらヴィンセントがつぶやく。見慣れた自分の顔なのに、なんだかひどく可愛らしい感じだ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、セフィロスは?ずばり本命ってカンジ?」

 俺はもっとも訊ねたかった問いを口にした。

「……ほ、本命だなんて!セフィロスにはちゃんと恋人がいるのだし、わ、私は決して彼のことを……」

「そのわりには必死だよねぇ、ヴィンセント。いいじゃん、俺には本音で答えてよ」

 俺はヴィンセントの入った自身の身体から、すっと手を取ると、悪ふざけをしてキスを落とした。

「そ、その……セフィロスは……特別なのだ。誰かと比較することなどできない相手なのだ」

「ふぅん、わかるようなわからないような。恋愛感情じゃないってこと?でも、前に支配人さんに嫉妬してたよね〜」

 軽い気持ちで言ったにもかかわらず、ヴィンセントは呆れるほどに動揺した。もちろん俺の肉体をしているのだから、『ヤズーが真っ赤になって悶えている』という絵づらになるわけだが。

「それは……その、セフィロスを奪われるのは、たとえ支配人の彼が相手でも……ええと……」

「げんこつでガチで勝負するほどがまんできない?」

 茶化してそう言ったのだが、ヴィンセントはしばらく考えた後に、ゆっくりと頷いた。

「そんなことになったなら、……平常心を保つ自信がない。どうしよう、ヤズー」

 逆に訊ねかけられて、俺は苦笑するしかなかった。

「ああ、まぁ、この件については、これ以上突っ込むと家族の結束に関わるからね。とにかくヴィンセントにとって、セフィロスが別格だというのはよくわかったよ。俺的には不満だけどね」

「…………」

 朱くなった頬に手を添えて、天井を見つめている彼にそう言ったが、返事をするつもりはなさそうだった。

「さ、もう寝よう、ヴィンセント。ライト消すよ」

「ああ」

 暗くなった寝室の中、しばらくするとヴィンセントの規則的な呼吸音が聞こえた。

 俺の身体になると、どうやら寝付きもよくなるらしかった。

 俺は何をするとも為しに、高い天井を眺めながら、つらつらと家人のことを考え、いつの間にか眠り込んでしまったのであった。