The beginning of Autumn
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
Interval 〜05〜
 ヤズー
 

 

 

 
 

 

 

 

「だからさ」

 まとめるような口調で俺は切り出した。

「ヴィンセントにとって、アコガレの対象であるセフィロスが、ちゃんと彼のことを心に留めているって、態度にあらわせば嬉しいだろうし、こう……安心もすると思うんだよね」

「……フン、別にアレのことを疎んじているわけではない。ただ、いつもビクビクおどおどしてやがるから、からかいたくなるだけだ」

「……だからね、からかうんじゃなくて、やさしくしてあげて」

「無理無理無理!! セフィは筋金入りのイジワル男なんだからッ! ずっと一緒に居た俺が一番よく知ってる! 人が泣くの見て喜んでるんだからね、この人でなしは!」

 セフィロスの言葉を遮るように、椅子を蹴倒して兄さんは叫んだ。さすがに不快に思ったのだろう。まるでカチーンと音がしたかのように、セフィロスの整った面が強ばった。

「このチョコボ小僧が……! さっきから黙って聞いてりゃ言いたい放題だな、このヤロウ! だいたいおまえの、クソわがままで甘えたがりなところも、ガキの頃からまるきり直ってないだろーが!  いつもいつも側に引っ付いてきて、我が儘ばかり言って泣き喚いていたくせに!」

「それはセフィが意地悪するからだろッ! あのころ、俺、子どもだったのに!!」

「おまえが勝手ばかりして手こずらせるからだッ!」
 
「ああ、もう、やめてったら! あなたたちふたりがそうやってヴィンセントのことで言い争いするのも、ストレスになっているのかもしれないんだよ?」

 睨み合う両者に、叩きつけるようにそう言ってやった。

 兄さんは、ウッ……と喉につまったような様子で、一歩引き、セフィロスはフンとばかりに顔を背ける。

 

「ね、だからさ。ここはだまされたと思って、ヴィンセントの前だけでも、仲良くしてみせてよ。対ヴィンセント作戦としては、兄さんはクールにやさしく紳士的に。セフィロスは穏やかに見守るような雰囲気で」

 ね?と、ふたりを眺めやり、確認するように首を傾げてみせた。 

「……やさしく紳士的って……いつもの俺じゃん」

 ブツブツと文句を言う兄さん。セフィロスはお手上げというように溜め息をついたが、双方、俺の言い分を理解はしてくれた様子であった。

 一応、カダージュ&ロッズにも、これまで以上にお手伝いと、自分のことは自分でするように、きちんと言い聞かせることは忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、ちょっといい?」

 とりあえず、解散となった後、セフィロスに声を掛ける。

 

「はぁ? まだ何かあるってのか? いいかげんにしろ、面倒くさい!」

「違うよ、別にお説教したいってワケじゃないんだから。ただね、聞きたいことがあったんだよ。……大分前から」

 最後に付け足した言葉が気になったのか、カダージュたちが退室した後、先を促してきた。それでも充分煩わしげな態度を崩さずに、だが。

 

 誰もいなくなった居間で、自分とセフィロスの分のお茶を淹れる。

 俺はフレーバーティ、彼の分はブラックコーヒーだ。

 カップをふたつ手にして、どっかりとソファに腰を下ろしたセフィロスのとなりに座った。そう、向かいではなく隣だ。その方が、声が漏れる心配がないから。

 珍妙な顔つきで俺を眺めるセフィロス。

 

「あのさ。単刀直入に訊くけどね、セフィロス」

 俺はそう口火を切った。この人相手に回りくどい物言いは必要ないと思ったから。

「なんだ」

「以前から思っていたんだけどね……ヴィンセントは、あなたのことを好きなんじゃない?」

 コーヒーカップに口をつけたまま、アイスブルーの瞳が、俺を睨め付ける。その色合いからは、感情を読みとることが出来ない。

 ソーサーにカップを戻すと、フンと鼻で笑った。

「クラウドの間違えじゃないのか?」

「はぐらかさないで、セフィロス。真面目に聞いてるの」

「……さてな。だいたい質問の仕方がおかしいだろ。主語が『ヴィンセント』になっている。アレの気持ちなんざ、オレの知ったことか」

「そう。じゃあ、質問の仕方を変えようかな。あなたはヴィンセントのことが好き?」

「ああ、気に入っている。アレはなかなか退屈させない」

 即座にそう答えるセフィロス。だがそれは俺の欲しい返答を、巧妙にはぐらかせただけであった。

「……ヴィンセントをクラウド兄さんから取り上げて、あなただけのものにしたいとは思わないの?」

「くだらんことを言うな。クラウドもヴィンセントもオレの気に入りのコマだ。どちらもいずれオレのものになる。わざわざこの場所で不要な争いを起こす必要はないだろう。面倒くさい」

「……そう。もういいよ」

 ふぅと徒労感を感じ吐息する。もともとこんな尋問で口を割るような人じゃない。それに俺自身『セフィロス』という人物について、わからないことがまだまだある。

 人の機微を読みとるのは得意だし、それは対セフィロスにしたって同様だ。だが、ときたまこの人は、ひどく上手く心を隠す。冷たく整った白い顔に、皮肉な笑みが刻まれ、霞がかったように見えなくなるのだ。

 

「ごめんね、手間取らせて。ヴィンセントの面倒は俺が看るけど、さっきも言ったように、セフィロスも話相手をしてあげてね。ああ、もちろんやさしく、だよ。」

「フン……やさしく、ね」

「そう、やさしく。」

「やれやれ。……手間がかかるな、アレは」

 お手上げとばかりに両手をひょいとあげ、おどけてセフィロスはつぶやいた。

「そこがまた可愛いんじゃない」

「気が多いことだな、イロケムシ。弟が本命で、町中の女に声掛けて、挙げ句の果てにはヴィンセントも気に入りか」

「やだなぁ、そんな言い方しないでくれる? 俺にはいつだってカダージュだけだよ」

 にっこりと笑ってそう言い返した。

「女の子たちはちょっと仲のいいお友達みたいなものだから、ね。女性相手に、ひどい真似はできないでしょう」

「まぁ、女は後々面倒だしな」

「身も蓋もない言い方するねェ。いずれにせよ、ヴィンセントは俺にとっても大切な人なの。だから、あの人が嬉しそうにしてくれていると、気分がいいんだよ」

「たいしたもんだな、ヴィンセント」

 挑戦的にセフィロスは宣った。

「どういう意味?」

「悪魔の申し子のような貴様に、天使の真似事をさせるだけの力があるわけだからな」

「言いたい放題だね。まァ、あなたになら何言われてもかまわないけどさ。さァて、ヴィンセントの様子見に行ってから、買い物に出掛けなくちゃ」

「当てつけがましく言うな」

「あはは、バレたァ? 悪いけど、買い物に行ってくるから、その間よろしくね」

 さっさとそう言い置くと、俺は居間を後にした。

 すぐに兄さんに声を掛けて外出する。

 

 ああ、もちろん、買い物に行くというのは口実ではなくて、本当に必要なことであった。なんといっても男が6人で住んでいるのだ。何かと物いりなのは理解できよう。

 ヴィンセントが不調なのだから、家事一般は残された人間が担うべきあたりまえのことだと、あらためてそう思った。