とある日常の風景。 
〜コスタ・デル・ソル with 銀髪三兄弟〜
<朝の部>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

7:30

 休日にしては早い目覚めだ。

 せっかく目が覚めたんだ。今日は俺は朝飯を作るか。

 

「兄さん、おはよう! ねぇねぇ、今日、いい天気だよ、どっか行こうよ!」

 ……ロッズ、うるさい。

 俺より、横も縦もデカイ男に兄さんって言われてもな……まぁ、性格はこいつが一番可愛いのかもしれないが。

 ワンパターンのロゴ入りTシャツに短パン。

 もちろん、短パンからはスネ毛ボーボー。

 ……朝っぱらから萎える。

「……早いな、ロッズ」

「うん!だって天気がいいんだもん。ヤズーも起きてるよ!」

 そりゃそうだろう。

 遊びにきて、そのまま居着いているこいつらだが、ヤズーがひとりで家事全般をほとんど担当している。俺も含めて、男四人ともなれば、かなりの労力になると思うのだが、ヤツは無表情のまま淡々とこなす。

 ヤズーは一見、無頓着なタイプに見えるが、料理にしろ、掃除にしろ、何にしろ、乱雑で適当に行われるのが不快らしい。

 一応、ロッズは一生懸命手伝おうと努力はする。しかし努力が実ることが少ない。かえって邪魔になって、ヤズーに追い出されることが多い。

 対照的なのは、カダージュだ。身の回りのことにまったく関心を払わない。

 

 

7:50 

 ロッズを適当にいなして、キッチンに行く。

 キッチンは明るくて広い作りになっており、いつも清潔に保たれている。今は留守にしているが、ヴィンセントが、神経質なほど衛生に気を配っているのだ。

 

「おはよ、ヤズー」

 俺は声をかけた。

「おはよう、兄さん」

「たまにはゆっくりすればいいのに」

「そうはいかないよ。食事作らないとね」

「いや、俺だってできるし。いつもやってもらってて悪いと思ってるんだ」

「別にいいよ。おい、ロッズ、もうすぐできるから、テーブル拭いておけ」

 ヤズーが命じる。ロッズは頼まれ事が嬉しいのか、台ふきんを持って、犬ころのようにダイニングにすっ飛んでいった。

 ヤズーは、セフィロスのような長い銀の髪をしている。それをリボンで緩く縛り、黙々と立ち働いている。

 あまり感情をあらわにしてくれないので、正直何を考えているか一番わかりにくいヤツだ。

「兄さん、カダージュ、起こしてきてくれる?」

「あ、ああ、わかった」

 俺は頷いた。

 カダージュは低血圧なのだそうだ。いつも一番最後に起きてくる。というか、起こされてようやく起きる、というカンジだ。

 

 

8:00

 カダージュの部屋へ。

 案の定、しっかりとカーテンが引かれ、カダージュは眠ったままだ。

「おい、カダージュ、朝だぞ、起きろ」

 もちろん、返事はない。このままでは埒があかない。

 ……毎日のことなのであるが。

「ほら、もう飯だぞ」

 俺は無理矢理カーテンを開ける。すると、南国コスタ・デル・ソルの太陽が容赦なく差し込んでくる。夏場でなくとも、ここの日差しは強烈だ。

「……う……うん……」

「ほら、しっかりしろよ」

 俺は寝ぼけてうごめいてるカダージュの、肩に手をかけ、引っ張り上げる。

「う〜ん……兄さん……?」

 三人の中で、一番小柄で、一番年少のカダージュは、ひどく甘ったれだ。

 俺の背中に手を回し、

「起こしてよ、兄さん……」

 などと言ってくる。

「はいはい、ほら、ちゃんとしろ」

「うん……ふぁあ〜……」

「本当におまえは寝坊スケだな」

「だって……なんかね……朝って苦手なんだよ……身体に力入らなくて……」

 俺に抱きついたまま、ぼそぼそつぶやく。

「ほら、顔洗ってこい」

「は〜い……」

 それでも俺の言うことはよく聞く、とヤズーが言っていた。機嫌が悪いと、ヤズーが言うことさえ聞きつけないのだそうだ。

 

 

8:20

  カダージュが部屋付けの洗面所に行く。

 これでもう大丈夫だろう。俺はようやくダイニングに戻る。

 

 

8:30

 朝ご飯。

「いただきまーす!」

 かけ声と共に、ロッズが怒濤のような勢いで食べる。本当に犬か、コイツは。俺も腹は減っているが、勢いでは負ける。

 今朝の朝食は、あきたこまちの白ご飯と、大根と油揚げのみそ汁、鰺のひらきに、梅肉とオクラの和え物、卵納豆。ヤズーは外見に似合わず和食好きらしい。後の二人は出されたものは素直に食べる。

 鰺のひらきの骨が取れないと、カダージュが訴える。ヤズーが丁寧に取ってやる。

 ロッズを見ると、骨ごと食ってる。

 そういえば、ヴィンセントも和食が好きだったな。

 早く戻ってきてくれないかと、リーブを恨む。

 

 

9:00

 朝食終了。

 後かたづけは皆で。

 とはいっても、食器を下げて、ディッシュウォッシャーにセットするだけだ。

 この時間になって、ようやくカダージュは完全に目覚めたらしい。食事中は借りてきた猫のように大人しかったが、いきなりロッズをからかってイジメ出す。

 ドッタンバッタンととっくみあいになるが、さすがにロッズは手加減しているようだ。それがまた不愉快なのか、カダージュのほうが好戦的だ。ハーフパンツから細い脚を見せて、ソファもろともひっくり返る。三人の中で、俺より背が低いのはカダージュだけなのだ。

 まともに相手をして、大泣きするロッズ。このふたりが一緒にいると本当ににぎやかだ。 ヤズーは、ダイニングで日本茶を飲みながら新聞を読んでいる。時々、ゾッとするような微笑を浮かべるのは、何故なのだろう。

 

 

10:00

 食後休憩終わり。一部の人間にはまったく休憩になっていないが。

 洗濯は昨日まとめて済ませているので今日は無し。

 

「兄さん、どっか行こうよ」

「行こう行こう!」

 カダージュとロッズが俺の腕を引く。

「どこに行くんだよ、疲れるところはごめんだぞ」

 俺は言う。

 こいつらと居ると、「兄さん」と呼ばれるせいか、なんとなく年よりじみた発言をしてしまう。

「海行こう!」

「行こう行こう!」

「海? ……まぁ、いいけど、さすがに今は泳げないぞ」

 俺は言った。まだ泳ぐには早い。

 常夏の国、コスタ・デル・ソルもそれなりに四季はあるのだ。

「えー、俺、泳げるよ〜?」

「ひとりで泳いでろ、馬鹿ロッズ!」

「なんだよ、カダだって泳ぎたいくせに!」

「僕をおまえみたいな体力バカと一緒にすんな!」

「うわ〜ん、カダージュがいじめる〜ッ!」

「ほら、もうよせ、ふたりとも」

 俺は割って入る。なに、いつものことだ。ヤズーはめんどうくさいのか、よほどの大げんかにならない限り、口出しをしない。

「ヤズー、ふたりが海行きたいって、どうする?」

「いいんじゃない。行って来たら?」

 なぜかいつも留守番モードのヤズー。

「行くなら、おまえも一緒に行こうよ」

「そうだよ、ヤズー、行こう行こう! 俺、ヤズーと一緒がいい!」

 ロッズ、うるさい。

「僕も、ヤズーと一緒がいい! たまにはロッズ留守番してろ!」

 意地悪カダが言う。ぶっちゃけカダージュが留守番していたことなど、昼寝してて置いてけぼりにされたとき以外にないだろう。                                 

「えー、嫌だよ! だったら、カダが留守番してろよ!」

「ふざけんなよッ! 僕がヤズーと兄さんと行くんだ!」

 またケンカになりそうな気配を横目に、俺はヤズーに言ってみた。

「ほら、なんかまたウルサくなりそうだし、付き合ってよ、ヤズー。みんなで出かけよう」

「……うん。兄さんがそれでいいなら」

 新聞を畳み、ヤズーはそう言ってくれた。