コスタデルソルへようこそ 
〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&銀髪三兄弟〜
<6>
18禁注意
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

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 性交渉の手管というのは、皆どこで身につけてくるものなのだろうか。

 ささやかな名誉のために付け加えておくが、私だとて、まるきり経験がないわけではない。だが生来、そういった方面への興味が薄かったというのも事実だ。

 ……心の底から愛した女性はいた。

 

 美しく聡明なルクレッツィア……だが彼女は別の男のものだった。

 

 そして、彼女はセフィロスを産んだ。

 ……セフィロス……

 

 ……神羅の英雄……そして哀れな片翼の天使……

 

 ……クラウドの運命の人……

 

「ヴィンセント……なに考えてる……?」

 耳元で名を呼ばれ、私は物思いの淵から引きずり上げられた。

「あ……」

 ぼうっと頭が霞む。私は熱に弱い。

 私にとって、クラウドは熱のかたまりのような存在で……

 彼の与えてくれる愛撫は、氷のごとく凍てついた私の心を無慈悲に砕き溶かす。

 

「ね、何考えてたの? 言ってみろよ」

 耳の後ろに唇を滑らせ、クラウドが問う。こういうときの、心の機微には長けているのが困ってしまう。

「……なに……も」

 私は途切れがちになる言葉を励まして、そう答えた。と次の瞬間、首筋に疼痛が走る。

「痛ッ……!」

「ウソつくからだよ、ヴィンセント。余裕、あるみたいだね? 他のこと考えられるなんてさ……」

 首筋を噛まれたらしい。じわじわと熱い痛みが背筋を蠢かす。

「ち、ちがう……私は別に……」

「アンタの身体……何回抱いたと思ってんの? 俺にわからないはずないだろ?」

「…………」

 露骨な物言いに、頬に熱が上り、目眩がしてくる。

 私はとんだ間抜け者だ。クラウドとこうしているときに、あの人間のことを考えてしまうとは……

 

「……セフィロスのことを……」

 観念して、私はその名を口にした。

「……セフィロス?」

 さすがに私の返答が意外だったのだろう。下肢をまさぐるクラウドの手がわずかに止まった。

「へぇ……セフィロス……? なんで?」

「……あ……わ、わからない……」

「わかんないのに、考えたの? 俺とこうしているのに?」

 クラウドの声が酷薄な色味を帯びる。

  

 うかつだった。このまま終えて欲しいのに。今日は声を上げさせられるような、酷いことはされたくないのに……

 

「キモチよくない? ヴィンセント……」

「あッ……ああッ!」

 思いがけず迸った嬌声に、私はあわてて口を両手で塞ぐ。

 さきほどから焦らされ、固く張りつめたそこに爪を立てられたのだ。

「やめッ……クラウド……!」

 下肢に顔を埋めた彼の頭を必死に引き剥がす。だが私の力では彼を押し戻すことはできない。両の脚を、大きく割り広げられたあられもない自らの醜態を視覚し、さらに羞恥が増すばかりだ。

「あっ……クラ……」

 彼の金の髪に指を埋める。

「も……ダメだ……やめ……」

「…………」

「やめ……てくれ……」

 私は懇願した。

 さきほど、一度触れてくれただけで、今は足の付け根に口づけを繰り返している。そうして焦らされるのは拷問に等しい。緩慢な刺激では上り詰めることはできても、解放するのは不可能だ。

「……ク、クラ……」

「もうダメ?」

「…………」

 言葉が紡げず、頷いてみせる。

「イキたい?」

 あからさまな物言いで滴るように訊ねてくるクラウド。さきほどの空事の仕返しなのだろうか。

 頷いてみせるが、許してくれない。

「ほら、たまにはアンタからねだってみろよ。そういうヴィンセントも見てみたい」

「…………」

「なに? ガマンするの?」

「…………」

 ぐっと口を噤む。別に意地を張っているわけではない。

 私はどうしても、世の恋人たちが交わすような、睦言の類が不得手なのだ。いや、「不得手」などという生やさしいものではなく、こんなにも肉体が欲していてさえ、言葉にして希うことができないのだ。

 

「我慢強いね、ヴィンセント」

 少し意地悪くそう言うと、クラウドは噛み締めた私の唇に口づけした。からかうような軽い口づけ。

 その拍子に、ボッと火が点ったように、瞳の奥が熱くなる。何だかひどく切なくなり、つらくなり、情けないことに、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。

 

「ヴィンセント」

 クラウドの唇がそれを吸い取ってくれる。

「何も泣くことないだろ? 本当に強情だね、アンタは」

「……はっ……はぁ……はぁ」

 ぼうっと耳鳴りがする、血液が下肢の一点に集中し焼け付くような痛みを感じる。

「苦しいんでしょ? ほら」

「……んっ……あッ……あッ……」

「やれやれ、泣かれちゃうと弱いんだよな」

 そういうと、ゆるりとした感覚が、熱の中心を包んだ。すぐに彼の口腔に含まれたのだとわかる。私はそれをされるのは嫌いだ。このまま続けられれば、どうしても彼の口に吐き出してしまうことになる。

 

「やッ……よせっ……クラ……ウ……ド」   

 股間でうごめく彼の髪を、渾身の力で掴み締め、力のかぎり引き剥がそうと試みる。

「ああッ……や……やめ……」

 訴えも言葉にすらならない。ふたたび、眦からぼろぼろと涙がこぼれ落ちてゆく。

 いつもいつも、それは嫌だと言っているのに、なぜ彼は私の羞恥心をかきむしることばかりするのだろうか。

「あッ……あッ……んッ……」

 自分の喉元から迸っているとは信じがたい、鼻にかかるような甘い呻き。

 もう、限界だった。クラウドと私の腕力は歴然としているのだから。

 おぞましい嬌声を発する前に、自らの口を両の手で封印する。

 

 次の瞬間、私は彼の望むがままにのぼりつめ、そして果てた。

 

 

「うっすい胸……」

 せわしなく上下する胸元を、やさしくクラウドの手が愛撫している。私は目を閉じたまま、快楽の余韻に荒い息をついていた。

「はっ……はぁッ……はっ……」

「大丈夫、ヴィンセント?」

 頬に張り付いた髪を撫でつけ、額に口づけるクラウド。

 私はキッと彼をにらみつけた。

「怒るなよ、よかっただろ?」

「……嫌だと言った……」

「だって、あのままだとよけいつらいだろーが」

「……なぜ、おまえは……そうやって……」

「ああ、ほら、泣かない泣かない! いいじゃんか、そんなに恥ずかしがることないだろ」

「………………」

「にらむなよ……ってゆーか、俺、限界なんだけど……」

 クラウドが音を立てて、軽く私の唇に口づけた。

 

 クラウドがそっと私の上に身体を重ね、体重をかけないように注意しながら、下肢を割る。私は目を閉じ合わせる。

 何度行為を繰り返しても、受け入れるのには苦痛が伴う。

 

『アンタが苦しそうにしてるの見るの、つらいんだけど、興奮すんだよね』

 世間話のように、そんなことを言っていたクラウド。もちろん、いきなりそう言われたときは、どうしていいかわからなかったのだが。

 

『なんていうのかな。アンタが嬉しそうにしてるの見るのは好き。でも、痛みに耐えたり、つらそうにしてる姿もいいんだよな。アンタが笑ったり泣いたりすんの、それは全部俺がさせていることだと思うと、すごく……興奮する。サドっ気あるのかな、俺……』

 そんなふうに自己分析されても困る。

 される側の身にもなって欲しい。

 

「ヴィンセント、力抜いて……」

 ずるりと指が引き抜かれ、張りつめた熱の塊が当てがわれる。

「……あッ……くっ……」

 私は唇をかみしめた。どうしても貫かれる瞬間は、肉体が本能的な恐怖に竦む。何度も繰り返され、覚え込まされた痛み。

 しかし、どうしても慣れることはできない。

 逃げを打つ腰を、クラウドが強い力で引き戻した。

「あッ……つッ……」

「……痛い?」

 私はかぶりを振る。

 そんな私を、クラウドが頭ごと抱きしめてくれる。

 きつく寄せた眉間に口づけを落とし、眦に溜まった涙を吸い上げる。

 

 抱きしめてくれたまま、落ち着くのを待ち、苦痛をまぎらせるように私の下肢を撫でる。一度、精を放った私の肉体は、未だ火種がくすぶっている。それはほんの些細な刺激であっという間に燃え広がり、惰弱な私に声を漏らさせる。

「あ……あっ……あっ……ク、クラ……」

「……ん……いい?」

 ガクガクと首を振るように頷く。なんて浅ましい姿なのだろう。

「なんか、今日……いつもとちょっと違うね、ヴィンセント……ああ、満月だからかな……」 

 クラウドが滴るようにささやいた。

 彼が腰を引くと、ずると熱の塊が移動する。それは二度目の絶頂へのぼりつめる私には、度に過ぎる刺激であった。

「ああぁ……ッ!」

 自分でも驚くような声が飛び出た。クラウドも少し驚いたように私を見ている。だがそれはすぐに人の悪い微笑にとって変わられた。彼だとてもう余裕はないはずなのに。

 

「アンタのそんな声、初めて聞いた」

 くすっとクラウドが笑った。

「あっ……はぁ、はぁ……はぁッ……」

「可哀想に、また泣いちゃってるね、ヴィンセント」

「ク……クラウド、もう……」

「うん、俺も限界……」

 彼はかすれた声でそうつぶやいた。ふたたび彼の身体が私の上で動き始める。

 クラウドは身長がコンプレックスだと言っていたが、決して低い方ではないと思う。確かに私の方が上背はあるが、彼の身体はとてもしなやかに筋肉がつき、均整がとれて美しい。そんな肉体をもつクラウドに、この貧相な身体を見られているのかと思うと、私の方が遙かに憂鬱になるというものだ。

 びくびくと下腹が震える。二度目の絶頂はいともたやすくやってきた。

 

 悲鳴を上げないように、手の甲を噛み締める。

「ヴィンセント……よせよ……傷……つくぞ」

 切れ切れにクラウドが言う。きつく寄せられた眉、やや幼さを残した整った顔立ちが、とても精悍に見える。

「ヴィンセントったら……」

 手を外そうとしない私の腕を掴み、無理矢理外す、クラウド。

「ダメ……だ、声が……」

「……いいじゃない。聞こえないよ」

「い、いや……だ……」

 私は必死にかぶりを振った。

「しかたないな。……ほら、つかまって」

 ぐいと強く抱きしめられ、頭をクラウドの肩口に押しつけられる。

「噛んでろよ」

 かぶりを振る私。だが、彼の譲歩はそこまでだった。

 

 すでに私の身体は、吐き出す寸前まで高められていたのだ。抱きしめられたまま、わずかに動かれただけで、すぐさま嬌声が喉をついた。

「あッ……ああッ……」

「ほら、声……聞こえちゃうんじゃない……?」

 迷っている暇はなかった。私は差し出されたクラウドの肩口に歯を立てた。

「んん……ッ ん……う……」

 クラウドの手が、抱きしめた私の髪を撫でる。

「ん……俺も……ダメそ……」

 耳元でクラウドがつぶやいた。

 

 わずかな間隙の後、私は思う様に自らを解放した。薄れゆく意識の中で、クラウドが私の内で果てたのを感じとっていた。