とある日常の風景。 
〜神羅カンパニー with クラウド〜
<朝の部>
 
 セフィロス
 

 

 

 

7:00

 起床。

 洗顔、着替え。このときばかりは、クラウドの気に入ってくれている長い髪も邪魔なだけだ。

 朝食を取るため、社員食堂へ。

 今日は、チーム研修がある。俺の下に次回のミッションの為に配属された人員が数名。ソルジャーのザックスとは、いつも組んでいる。他に一般兵のクラウドも一緒だ。

 いつもは煩わしい教官業務が、待ち遠しいほど楽しみになっている。不覚。

 

 

7:30

 朝食。

 私は特に好き嫌いはないが朝はやはりそれほど欲しくはない。定番メニューのトーストとプレーンオムレツ、アスパラとトマトのサラダ。こんなもので十分だ。

 

「ちゅーす、セフィロス! 今、メシか? 一緒していい?」

 朝っぱらから騒々しいザックス。食事くらいゆっくりとりたいものだ。

 しかし、その巨体の影に、我が運命の恋人の姿を見つける。

「お、おはよう、セフィロス」

 まだ、親しく口を聞くことに慣れていないのか、クラウドは少しオドオドした様子だ。

 何の迷いもなく、となりに座らせる。ザックスは、向かいの席にでも座っていろ。

「お、なんだよ、案外少食だな、英雄。そんなんで足りんのか?」

 不躾な質問はもちろんザックスだ。私のクラウドはそんな下品な物言いはしない。

「おまえの量が異常なんだ。よく朝っぱらからそんなに食えるな」

 私は言った。

「フツーだろ。健康な成人男子とくりゃ。おいおい、クラウド、おまえももっと食え。背ェ伸びねぇぞ」

「……そうかなぁ、やっぱ、もうちょっともらってこようかな」

 クラウドは言った。どちらかというと小柄な体格を気にしているのだろう。

 純真なこの子は、他人の言動に左右されやすい。私から見ればそのままで十分可愛いと思うのだが。

 正直にそう告げてやったら、怒られてしまった。何がいけなかったのだろうか。

 

 

8:00

 朝食を終える。

 研修は午前9時開始だ。一時間ほどの食後休憩が入る。もっとも、起床時間が遅くて、今から慌てて食事をとる者も多かろうが。

「今日はリミットブレイクの訓練だったな、自信はあるのか? クラウド」

「おうおう、余裕だぜ、このザックス様にかかりゃ……」

「おまえには聞いとらん」

「ええと……うん、何度か練習してみたんだけど……力の溜め方が上手くいかないみたいで……」

「そうか。コツを掴んでしまえば、それほど難しいことではない」

 不安げな面もちで、おのれのふがいなさを恥じているのか、色白の頬にはほんのりと赤みが差している。

「今日はセフィロスが教官をしてくれるんだよね」

「ああ」

「俺、がんばるよ。みっともないとこ、見せたくないし」

 思い詰めた瞳をしてそう言った。

 クラウドは今年16才になる。少年から青年への過渡期特有の危うさが、また庇護欲をそそる。できることなら、居室を私のとなりにして、手取り足取りいろいろ教えてやりたいのだが、私はVIPルーム、クラウドたちは共同居室のため、共に居られる時間は少ない。

 唯一、週末の休暇のときだけ、外泊許可を申請した上で、私の部屋に泊まりに来られる。もっとも彼の上官は私なのだから、休日に限らずいつでも許可してやるのだが。

「ダメだよ、俺はただの一般兵なんだから……そうでなくても、セフィロスと親しくしてるってだけで、妬まれちゃうのに……」

 少し寂しそうにそう言った、クラウドの顔を思い出す。

 萌え。

 

 実害があるのなら、早々に不届きな輩を処分してやりたいと思う。だが、私が彼のためにあれこれと動くのは、必ずしもクラウドの望むところではないらしい。

 彼には彼の、少年らしい矜持があるのだ。外見は食べてしまいたいほどに愛らしくても、けっこう頑固だし、気の強いところがある。それは恋人同士という関係になった今でも変わらない。

 

 

8:30

「……セフィロス、じゃ、俺、行くね」

 そう言って、クラウドが立ち上がった。

「なんだ、もう行くのか?」

 つい、呼び止めてしまう。どうしても一緒に居られる時間は限られてしまうのだから。

「何だよ、クラウド、まだ時間あんじゃねーか」

 ザックスが口を挟む。

 うるさい。

 事情を知っているのだから、私とクラウドに気をきかせてもらいたいものだ。

「う、うん。でも、みんな、セフィロスのこと見てるし……」

「別に勝手に見させておけばいいではないか」

「でも、一緒にいるの、俺じゃ全然釣り合わないし……」

 そういって、しゅんとうなだれるクラウド。

 ここが食堂でよかった。私の部屋ならば即座に押し倒しているところだ。

 クラウドの可愛さは神羅一、ミッドガル一であると断言する。いや、さらに言わせてもらえば、世界一とまで認識している。私も一応、トップソルジャーと呼ばれる身だ。これほど釣り合いのとれたカップルがあろうか。

「では、人目のないところに行くか? クラウド」

「え? えッ……う、ううん、セフィロスはゆっくりしててよ。俺、友達のところ、行くから」

 そう言うと、タッと走り出していってしまった。向かう先には、同室の友人なのか、私も見知った顔が何人かいる。同僚の輪の中に入ってゆくクラウドを追いかけるのは、さすがにはばかられる。

 どうせ、研修で会えるのだ。ここは我慢すべきなのだろう。

 

「あーあ、逃げられてやんの」

 ……ザックスをシメる。リミット技のキレは今日もよい。

 

 

9:00

 演習場に行く。研修生4名はもちろん、すでに並んで待機している。

 教官は、私。副教官はソルジャー1stのザックスだ。

 今日は戦闘演習。リミット技指南である。

 ザックスに他3名を任せ、クラウドを個別指導する。

 ……何? ひいきだと?

 ああ、その通り。それでかまわない。だが、きちんとした大義名分がある。

 他の3名はなんとかリミットブレイクできるのだが、クラウドだけ不発に終わっているのだ。戦闘のセンスは他の者より優れているのだが、コツをつかみきれていないのだろう。

 

 

9:10 

「クラウド、来い」

「は、はいッ! よろしくお願いしますッ」

 さすがに演習中だ、緊張しているのだろう。

 いつもと違って敬語だし、声がうわずっている。そんなクラウドもこの上なく可愛い。

 そう、よくよく考えれば、可愛くないクラウドなど存在しないのだ。こうして、真剣に演習に臨むクラウドも可愛いし、身長を伸ばそうと、一生懸命食事をしているクラウドも可愛い。

 もちろん私の腕の中に居るときなど筆舌に尽くしがたいし、一夜明けた朝、寝ぼけ眼で私の髪を握りしめている姿など……

 いかん、私のほうがリミットブレイクしてどうする。

 

「では、少し動くぞ、構えてみろ」

「はい!」

 得意の大剣をピタリと構える。うんうん、サマになっている。

 最初、小柄な身体で、そんな大きな剣など、筋を痛めたりしないかと懸念したものだが、クラウドには使いやすいらしい。ザックスのような図体ならば心配などしないのだが。

「実戦だと思って、斬り込んでこい」

「はいッ」

 ザッと踏み込み、向かってくるクラウド。

「はッ!」

 空色の瞳が強い光を帯びる。金の髪と相まってとても美しい。不謹慎ながら、そんなことを考えてしまう。

「ふんッ!」

 クラウドは必死だが、まだまだだ。普通の兵隊相手になら通じるだろうが、私には剣先が止まって見える。

 別に無理をして、ソルジャーだの何だのになる必要もないと思うのだが、「セフィロスのようになりたい」と、大きな瞳を煌めかせて訴えられると、応援してやりたくなる。

 ただ、私にとっては、クラウドは、ただそのまま、そこに居るだけで、愛おしく愛すべき存在なのだ。

 ガキンと剣が合わさって、白い火花が散った。間髪入れず、二撃目三撃目を繰り出すクラウド。身が軽いのだろう、いいテンポだ。

「いいぞ、クラウド」

「はいッ!」

 クラウドは小柄だし、まだ身体も出来ていない。当然、パワーは劣るが、この敏捷性は戦闘で十分武器になるレベルだ。

「はぁッ!」

 つっこんできたところを、正宗で軽く払う。途端にバランスを崩し転びそうになるクラウド。それを片腕で抱きとめ、「そこまで」と言う。

 はぁはぁとせわしない吐息と、心臓のあたりが激しく波打っているのが、可愛らしいことこの上ない。