〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<1>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 ……調和を司る神コスモス……

 ……混沌を司る神カオス……

 

 次元の彼方に君臨する二柱の神。

 世界の安定なこの二柱の力の拮抗によってもたらされていた。

 

 だが、今……その拮抗は破られたのだ。

 そう……禁断の軍勢を従えたカオスの猛攻で、調和の神コスモスの力は、今まさに潰えようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

「んむ〜……」

『……!……!』

「ん〜?……ヴィンセント……、もう食べらんないよぉ……えへっえへっ……」

『……!……!』

「え……なぁに? もっと側に来てよ……」

『おい……!……!』

「側に来て言ってくんないと聞こえない〜……」

『おい、おまえッ! 目を覚ませッ!』

「ヴィンセントってば〜」

 ふと手を伸ばすと指先に、やわらかいものが触れる。

 俺はそれを抱き込むように、ぐいと引っ張った。

『ぎゃあ!』

 ……ヴィンセント?

 やだなぁ、ヴィンセントってば、そんなひどい声上げなくても……

 

 ぶぁしっ!!

 

 左の頬に激しい衝撃を感じて、俺は目を覚ました。

 痛みよりも、直接耳に響く激しい衝撃音で……

 

「うぐ〜」

 俺は酔っぱらいのようにうめいて、何とかその場に起き上がろうとした。どうも昔から寝起きが悪くて仕方がない。

「しっぽ、放せ〜ッ!」

「お、おい、ジタン! ……おい、おまえ、しっかりしろ!」

「うう〜……」

「悠長に眠っている場合じゃないだろう!」

「ちょっと!その前にしっぽ放せ!しっぽ!」

「おい、こら大声を上げるな。この場所もカオスの軍勢に見つかったら……」

「へへん、望むところだ! このティーダ様が返り討ちにしてくれる!」

 頭の上で、聞いたことのない怒声の応酬が聞こえる。

 霞む瞳をようやく見開いたとき……俺の周囲を取り囲んでいたのは、それこそちんどんやのような……いや、まるきり俺たちの世界とは異なる衣装を身につけてた野郎共だった。

 いや、だって、ここコスタ・デル・ソルだもん。

 観光客ならアロハとかさ〜。俺だって日中はTシャツだのノースリだのしか着ていない。

 一呼吸おいて、俺はようやく声を絞り出した。

「……な、なに……あんたたち……」

「しっぽォ!」

 と怒鳴られて、俺は自分の右手がしっかりと、猿の尾っぽを握りしめていることに気づいた。

「うわっ! ゴ、ゴメン…… っつーか……ここ……なんなの? アンタたちは?」

「貴方はコスモスの戦士なのでしょう?」

 密やかにそう訊ねてきたのは、小柄な見目のいい女の子だった。

「………え?」

 としか答えられない俺。

「俺らの姿が見えてて、こうしてコンタクトできるんっス。まちがいなくコスモス側の戦士っしょ!」

 妙にノリのいいヤツが聞いてきた。いかにもスポーツやってます!って感じの……

「……は?」

「コスモスの戦士ならば、俺たちの仲間だ! 名を教えてくれ」

 槍に剣、弓と、武器屋のような道具がかえの男が言う。一見好戦的なタイプに見えるのだが、むしろさやわかさんタイプだ。

「コ、コスモス? なにそれ?」

 初めて聞く名に困惑する俺。

「おまえはコスモスの戦士なんだろう? 世界の均衡を促すため、クリスタルを求めてこの地に……」

「はぁ? なに? 何なの、それ? そんなの知ったこっちゃ無いよ! 俺は昨日まで、フツーにコスタ・デル・ソルの家で、ヴィンセントと一緒に……」

「あぶないッ!」

 俺たちが身を潜めていた大岩が目の前で吹き飛ばされる。

 よくよく周囲を見渡せば、見たこともない風景だ。海の蒼と、南国の強い緑の樹が繁る俺の居場所とは、まるで正反対の……

 そう、いつか見た、北の洞穴のような場所だ。異なるのは、今も活火山が真っ赤なマグマを吹き上げ、ゴツゴツとした大地が地平線までつながっている。

 樹木など一本もない。

 断崖絶壁が大なり小なりあらゆるところに形成され、俺たちが今まで居た場所は、大岩と絶壁の隙間であったのだ。

 

 

 

 

 

 

「こっちだッ! 別の場所に移るぞ!」

 巨大な角の生えたようなヘルメットをつけた、妙に神々しい男が、ぐんとばかりに俺を横抱きにする。

「あ……ちょっ……」

 紙一重で彼はその場を逃れたのだった。

 なんか……みんないい連中らしいけど、俺には何がどうなっているのかもわからない。

 俺は皆と一緒に、それこそ小山のように盛り上がった。岩陰に身を隠した。

「……今は絶対的に不利なんスよ」

 さっきの、体育会系のノリのヤツが俺に耳打ちする。俺と似た、金髪碧眼だから、比較的他の連中よりも、身近な印象だ。

「あ、こんなときになんスけど、オレ、ティーダっす。エース・オブ・ブリッツっす!」

 ……ブリッツボールの?

 っつーか、フツー、自分でそう言うか?

「え、ああ、俺は……クラウド。クラウド・ストライフだ」

「よっしゃ、クラウド! 今はまだ体制が整ってないんだ。カオスの軍勢に見つかるとやっかいだぜ」

 そう言ったのはさっき尾っぽを掴んでしまった少年。

 ……そう、こっちは本当に少年という雰囲気だ。小柄で身のこなしが早そうなヤツ。

「俺はジタンだ。……ぼんやりすんな! 連中の攻撃は見境なしだぜ」

 ジタンにぐいと頭を押し込められる。

 いいかげん、イライラゲージがMAXに達し、俺は大声で反発した。

「痛ってェな! 何でこんなに隠れてばっかなんだよッ! 敵なら戦って勝てばいいじゃん!」

「そりゃそうっスけどね。この場所はカオスの支配力が強いんス。まずはここをやり過ごして、他の仲間と合流しないと……」

「あぶない、ティーダ、来るぞ!」

「うわぁ!」

 またもや傍らの岩山を砕かれ、その破片が雨と注いだ。

 何なんだよ、こいつら。ビビリまくりやがって。さっきの女の子はともかく、他の連中は、どうみてもいわゆるヒーロー系のキャラたちだろ!?

 この状況で、ひたすら逃げ回って助かろうっての?

 カオスだのコスモスだの……そんなことはどうでもいい。敵がいるんなら、さっさとそいつらをぶっ倒せば、コスタ・デル・ソルに帰れるんじゃなかろうか。

「埒があかない! どけよ!」

 俺は小柄なしっぽ小僧……もといジタンの手を振り切って、ホルダーから大剣を抜き取り、断崖から跳躍した。

「おい、クラウドッ!」

「よせっ、クラウド!」

 背後から俺を止める声が飛んできたが、んなもんにはかまっていられない。

 これがフツーに夢なら、敵大将を倒せば、エンディングだろ? クラウド青年は、無事、ヴィンセントの待っているコスタ・デル・ソルに帰りましたとさ……だろ!?

 もし……夢じゃなかったら……

 夢にしては、妙に溶岩が熱いなぁとか、そんなふうに感じるわけだけど。