〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<31>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

 

「なぁ、あっち、相当深刻じゃね?」

 クラウドらの様子を伺い、ラグナがこっそりと耳打ちしてくる。馴れ馴れしい態度が不愉快で、張り飛ばしてやりたくなったが、俺としても彼らのことは気になるのだ。

 ティファという女性は、仇敵という態度でセフィロスを睨み付ける。だが、その時期よりも先の記憶を有しているクラウドは、なんとか彼女を止めようと頑張る。

「クラウド、どうしちゃったのよ!? 私たちはこの男を倒すために旅に出たんじゃない!」

「……それはもう終わったんだよ、ティファ」

 クラウドがつぶやいた。

 ひどく疲れた声音であった。

「終わった……? 終わったってどういうことなの? 私たち、まだやり遂げてないでしょ!? エアリスや、他の皆のためにも……」

「やめてくれよ! もうすべて済んだはずだ。俺はもうセフィロスとは……」

「クラウド!」

 少女の声が大きくなる。

 言葉の上手くないクラウドに居たたまれなくなって、俺はラグナを押し返し、彼らの間に割って入った。

 

「待ってくれ。クラウドを責めないで欲しい」

「あなたは……? 見たところ、コスモスの戦士よね」

 彼女はその特徴的な胸を突き出すようにして、聞き返してきた。

 ……余談だが、俺は余り肉感的な女性は得意ではない。

「そうだ。俺の名はスコール。この地まで、クラウドを含む数名の仲間とともに、旅をしてきた」

「そう。私たちはね、元の世界で、そこの男を倒すために戦っていたのよ。セフィロスを放置しておくわけにはいかない!」

「そうか、君の記憶はそこまでなんだな。……ティファ……だったな」

「記憶……? 何の話?」

 不安げに俺を見つめ返し、ふたたびクラウドに目線を戻す。

「ティファ……それに、セフィロス。ふたりの記憶は、俺にとって過去のものなんだ。すでに元の世界では時が進んでいる」

 クラウドが言った。

「ど、どういうこと?」

「さてな、私にもよくわからんな」

「あなたに訊いたんじゃないわ、セフィロス!」

 キッとセフィロスを睨み付けるティファ。

 彼女もなかなか気が強い女性らしい。だが、やはりセフィロスのほうが一枚上手だ。

 フフンと鼻先で笑うと、不安を隠しきれない彼女を挑発する。

「……いずれにせよ、おまえたちとやり合うことに異議はない。だが、そこの聞き分けのない子供が、応じようとしないだけだ」

「セフィ。昨日も言ったけど、俺の気持ちは変わらないから。もう、アンタを倒す理由がなくなった。……俺の最愛の人を悲しませるようなことは……絶対にしない」

 『最愛の人』というのは、以前、旅の宿で話してくれたヴィンセントという人物のことだろう。

 

 

 

 

 

 

「ティファ。さっきも言ったようにアンタとセフィロスは、過去の記憶に捕らわれている。いや、まだそこまでの記憶しか持たない段階で召喚されてしまったのかもしれない。だが、直近の今現在を知る俺は、セフィロスに剣を向けることはできない」

「……確かに……ここは不思議な世界だけど…… でも……でもッ! この男と和解するなんてこと、あり得るの!? どれほど時が経とうとも、彼がやったことは……」

 カッと頬を昂揚させて、彼女は言い募ったが、それを強い口調で遮ったのは他ならぬクラウド本人であった。

「そうだよ、ティファ! 許されることじゃないさ! セフィロスを許せない奴は許さなくていい。だが、俺はもういいんだ。もう、済んだことだって、そう考えている」

「どうして? ニブルヘイムの……私たちの村を焼き払ったのはこの人なのよ? あなたのお母さんも亡くなった。私の父も死んだわ!」

「違う、セフィロスじゃない! ニブルヘイムの村を消し去ったのは神羅カンパニーだ!」

 叩き付けるようにクラウドが叫んだ。

「セフィロスが、神羅に何をされたかアンタだって知っているだろう!? 普通でいられるはずがないじゃないか! もし、俺だったらきっと同じように狂気に捕らわれただろう。いや……情けない俺は、真実を知ったその場所で……生きることをあきらめたかもしれない」

「でも……でも……クラウド!」

 ゆらりとセフィロスが立ち上がった。

 クラウドの前を素通りして、ティファの前に立つ。

 

「では……憎しみを抱く貴様の相手となろう。その手で、この私を倒せ、ティファ」

「……クッ!」

 ティファはダン!と後退し、間合いを調整した。

 セフィロスは、長刀を手に取ることすらせずに、丸腰で相対する。

 ティファの全身がバネのように躍動し、体重とスピードの乗った拳が、今にもセフィロスの心臓を打ち抜こうという時だ。