End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
Interval 〜04〜
18禁注意
 クラウド・ストライフ
 

 

 

  

 

 

「ん…………ッ」

 ヴィンセントの喉元が苦しげな音を立てた。

 戸惑うように胸元に突っ張っていた腕にも、力がなくなってしまう。

「……ヴィンセント……好き……」

 耳元でささやきかけ、そのまま耳朶を噛み、薄く線の浮いた首筋に唇を滑らす。

「……あ……ッ」

 俺はヴィンセントの反応をまともに確認しようとしなかった。あまりにも我が儘な自分の要求に、非難の言葉を口にされるのを恐れていたのだ。

 きちんと着込んだ夜着のボタンをひとつずつ外してゆく。『セフィロス』の指の先で、徐々に露わになる薄い身体……でも、そっと手を触れると、確かに息づいているヴィンセントの胸。

 色白を通り越して、まるで透けそうなほど、蒼白い肌……

 

 喉元を辿った口唇を、徐々に胸元に下ろし、淡く色づいた部分に触れると、華奢な姿態がビクリと反応した。

「……あ……」

 掠れた声が上がる。

「クラ……ウド…… 傷の痕が……」

 途切れ途切れに訴えるヴィンセント。

 言われてみると、脇腹から腰のあたり、そして二の腕に数カ所、薄く桜色をした部分があった。

「……痛かった……でしょ? ヴィンセント……」

「え……?」

「アンタのこと……傷つけるヤツは絶対許さないって誓ったのに……」

 俺はうっすらと痕の残った肌に触れ、癒すように舐めてやった。

「……あッ…… や……」

「あんなに強い気持ちで誓ったのに……いざとなったら何にもできなかった」

 胸の内に押し込めた口惜しさが甦ってくる。

「あ……あッ ……ク、クラ……ウド……」

 せわしない吐息の中、俺の……いや、『セフィロス』の髪に指を差し込み、ヴィンセントは焦れたように身をよじった。

「ゴメン……ヴィンセント。あのとき、セフィが居なかったら、俺、もうどうしていいかわからなかった……」

 彼の顔を見ずに、俺はつぶやいた。もっと早く言いたかったこと……あまりにふがいない自分をヴィンセントに謝罪したかったのだ。

 

「こんなにアンタのこと大切なのに……俺じゃ、できないこと、いっぱいあるみたい」

「……クラウド……そんなことは……ない」

「あるよ。俺、セフィには敵わない。どう頑張ってもあんな風にはなれそうもない。アンタのために命賭ける覚悟はあるけど、ただそれは自己満足でしかなくて……結局は力が及ばないんだ」

 俺は飽きるほどに薄桃色の傷痕に接吻し、謝罪の言葉を繰り返した。そう、まるで教会で懺悔をするように。

 

「……クラウド……誤解……してはいけない」

 そうささやいたヴィンセントの声は、こんなときにも関わらず、静かで厳かだった。弾む吐息を押さえつつ、ゆるやかに言葉を紡ぐヴィンセント。

「強いというのは……おまえの言うような……そういうことだけなのであろうか?」

「……え?」

「戦闘能力に長けている……剣技が使える……腕力がある……それらは確かに戦士としてはすばらしい能力だろう」

「う、うん……」

「だが、本当に強い人間というのは……それだけではないはずだ。おまえのように思いやりがあり……深い慈しみを併せ持つ者こそが……真に強い人なのだと思う」

「……ヴィンセント」

 ようやく俺は身体を起こして、ヴィンセントの顔を上から見下ろした。

 彼がボッと火を噴いたように頬を染めたのは、中身は俺とはいえ、裸の『セフィロス』がじっと見つめたからであろう。

「と……とにかく……クラウドは何も気に病む必要はない…… 私にとって……おまえは光そのものであり、進むべき方向の道しるべなのだから……」

 まるで新劇ばりのセリフを真顔で綴ると、ヴィンセントは自らの言葉に照れたように目線を反らせた。

 

 

 

 

「ヴィンセント……」

「…………」

「ヴィンセント〜〜ッ!」

 俺はヴィンセントの胸に飛び込んだ。いや、端から見れば、巨躯のセフィロスが、華奢なヴィンセントに喰らい付いたように見えたことだろう。

「う、うあぁッ!」

 頓狂な悲鳴で、ハッと我に返る。

「ご、ごめん! や、やさしくするって言ったのにッ」

「ご、ごほっ……い、いや……あの……」

「ちゃんと、やさしくするからッ!」

「あ、あの……クラウド……その……ど、どうしても……?」

「どうしてもッ」

 バカみたいに正直に頷いてみせた。

 今のシリアスなやり取りで、陶酔しつつあったヴィンセントに、羞恥心が戻ってきてしまったようであった。

「そ、その……やはり……こういうことは……元の身体に戻ってからのほうが……」

「だっていつ戻れるかもわかんないもんッ 俺、ヴィンセントのこと好きなの。好きだから独占したいのッ ずっと触れていたいのッ 『好き』って言って欲しいのッ」

 セフィロスの姿で、駄々っ子のように言い募った。

 

 俺のあまりに必死な様に、ヴィンセントはやや呆れたように目を瞠った。

「お願い、ヴィンセント。おとなしくしてて……抗わないで」

「……クラウド……」

「今、セフィロスの身体だから……勝手がわからないから……ううん、もちろん中身は俺だけど……」

「…………」

「だから、ちゃんと……気をつけるから……!」

「……クラウド……」

「いつもみたいに……受け入れて……お願いッ」

 縋るようにそう希った。

 細い腕に絡まったままの、脱がせかけた上衣を引き剥がす。慌てたように胸に片腕を突っ張るヴィンセント。

 それを乱暴にならないように、引き離すとヴィンセントを見つめた。

 彼の顔が真っ赤に染まってしまう。

「ね、お願い……ヴィンセント」

「あ……ク、クラ……」

「大好き、ヴィンセント……もうアンタが居れば……何も要らない……それだけ、アンタのこと、好きなの……大好きなの」

 薄く骨の浮いた胸から脇腹に鼻先をこすりつけ、啄むようなキスを繰り返した。

「ク、クラウド……や……あ、痕が……」

「いいから」

 反応した身体を見られるのが恥ずかしいのだろう。

 俺がパジャマのズボンに手を掛けると、ヴィンセントは困惑した風に身じろぎした。