Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「……彼女を舞踏会に送り出そう」

 ヴィンセントの発言に、シンデレラちゃんは目を丸くした。

「そう……そうすれば必ず良い方向に流れてゆくはずだ」

 そして後の言葉はほとんど独り言のようにつぶやいた。

「まぁ、そうだよね。そいつが一番理に適っている」

「オイオイ、てめェら。どうやってこの小娘を城とやらに潜り込ませるんだ? 小汚い格好じゃ悪目立ちするだけだぞ。だから、さっさとむかつく継母とクソ親父を……」

「ちょっと、よしてよ、シンデレラちゃんに聞こえるってば!ほら、こっちきて、セフィロス!」

 ヤズーはぐいぐいとセフィロスを引っ張って、部屋の隅っこに連れて行った。シンデレラちゃんには、安全きわまりないカダ&ロッズと、紳士的なヴィンセントに囲まれている。

 ……その様子が、なんというか一番うれしそうなのはシンデレラちゃんなのだ。

 

 舞踏会がどうのという話ではない。

 ただ単純に、自分のまわりに人がいること……話の出来る「友人」が居ること、ただそれだけが嬉しいようなのだ。彼女のさっきの身の上話ではないが、今、本当につらい思いをしているのだと思う。

 そんなことを考えつつ、彼女の方はヴィンセントたちに任せておけば良さそうだったので、ヤズーの話に加わった。たぶん、具体的な方策を練ることになるのは、こっちのチームだろうから。

「いい?セフィロス。『成功』に持って行くためには邪魔者を消すだけじゃ意味ないんだよ。一時的に彼女の状況を変えても仕方がないでしょう?」

「ならば、どうすればいいんだ、めんどくせェ」

「物語に即した形で、彼女をフォローするんだよ」

 ヤズーはそう答えた上で、言葉を続けた。

「ねぇ、セフィロス。『シンデレラ』の物語は知っている?」

「は? ……ああ、ガキのころ、聞かされた覚えはあるが、詳細はよく覚えていないな」

 へぇッ!

 セフィが童話を知っているなんて意外だ!子供の頃から神羅にいたらしいけど、いったいだれが彼に本を読んであげたんだろう。

「兄さんは?」

「え? ああ、俺もセフィみたいなカンジ。聞いたことはあるけど、そんなにくわしいわけじゃないよ、童話なんて。女の子が読むものなんじゃないの?」

「いやいや、そいつは偏見だと思うよ。名作と呼ばれるものがたくさんあるそうだから。……っていうのは、ヴィンセントの受け売りだけどね」

「ヴィンセントがそう言うんなら今からでも読む」

「まぁまぁ、今回論点はそこじゃないから」

 と、俺の意思表示を軽く受け流し、ヤズーは少し低めの声に会話を切り変えた。たぶん、シンデレラちゃん本人に気遣っているのだろう。

「……確かに今、彼女はつらい状況にあるけど、もちろん物語では最終的にとても幸せになれるんだ。そのためにはヴィンセントが言ったとおり舞踏会に行かせなくちゃならない」

「そうだっけ? どんな展開になるんだっけ?」

「あのね、シンデレラは舞踏会に行って、王子とダンスを踊るんだよ。そして彼に見初められる。でも0時までに帰らなくちゃならなくて、うっかりガラスの靴を脱ぎ落としてしまうんだ」

「あー、そうそう。ガラスの靴!必須アイテムだよね。でも、ぶっちゃけガラスの靴って履けるもんなの?靴擦れできて痛くね?」

 とけっこう俺は真剣に聞いたのに、

「兄さん、茶々を入れないで」

 と、眉を顰めて一蹴されてしまった。

「そしてね、王子がその靴の持ち主を妃にすると宣言して、シンデレラを見つけ出し、彼女は妃になるんだ。ま、それでめでたしめでたしって話だね」

「ケッ、安直なストーリーだな。その軟弱な王子とやらも好かん」 

 即座に言ってのけるセフィロス。

 いや、俺的にはいいと思いますよ。たったひとつの靴を形見に、必死に最愛の人を見つけ出す……そんな泥臭い恋愛はけっこう応援したくなるのだ。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そういうわけだから、とにかくシンデレラちゃんと王子様とお城で逢わせなきゃ何も始まらないんだ」

「……要点はわかった。最終的に目指すのは妃の座だな」

 端的にセフィがまとめた。

「大奥陰謀物語みたいな言い方しないでよね、セフィロス。まぁ、間違っちゃいないけどさ」

「よーし、そうと決まったら、彼女の服とか靴とか……そういうの色々準備しないとな。ドレスじゃないとお城には入れないだろうし……ってゆーかさ、ヤズー、ホントに童話の通りにしたら、俺たち元の世界に帰れるの?」

「俺に訊かれてもねェ。ただ他に現段階で試せることがないでしょう? そのレオンの友達の……ソラだっけ? 彼もアリスちゃんを助けて戻ってきたんだから」

「まぁ、レオンに聞いた限りでは一応そうなんだけど……ただ、向こうの世界の話だからなァ」

「今は、ぐずぐず考えていても仕方がないでしょう。できることをしようよ」

 とヤズー。そして彼の言葉に重ねるように、ヴィンセントがつぶやいた。

「……それに、彼女の置かれた境遇を知ったなら、できる限りのことをしてやるのが、男子として当然だと思う」

「ブハハハハッ!」

 と、無礼にも爆笑するセフィロス。

「いよッ! ヴィンセント、『漢』だね!」

 と茶化すヤズー。

 当のヴィンセントは困惑した様子で、オドオドしてる。

 ったくもう、うちの悪魔のような連中ときたら! ま、やっぱし、ヴィンセントは、ちゃんと俺がフォローしないとね!